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五十肩

2017年5月号
五十肩の画像
「肩が痛くて腕が上がらない」。そう訴えると「年のせい」と決めつけられてしまうことが多い五十肩。自然に治る場合もありますが、まずは受診が肝心です。治療はリハビリとヒアルロン酸の注射や、痛みや炎症を抑える薬物投与が中心でしたが、内視鏡手術によって、重症化した五十肩も完治できるようになっています。今回は東京女子医科大学東医療センター整形外科で専門外来「肩関節外来」を担当している専門医、神戸克明准教授に五十肩について解説していただきました。

江戸時代の病名は長命病

五十肩は、江戸時代の文献にも登場するほど昔からある病気で、その名称は50歳くらいになると起こることに由来します。短命だった当時は、肩が痛くなる歳まで生きられるのは幸せなことでもあり、長命病ともいわれていました。
その名称のせいか、加齢による単なる老化現象と誤解されがちです。しかし、治療には健康保険も適用されているれっきとした病気で、保険診療での正式名称は「肩関節周囲炎」。以前は、50歳くらいになって肩が痛くなり、そのうち自然によくなる症状をひとまとめにして五十肩と呼んでいました。しかし、画像診断などの診断技術が向上した現在は、原因が腱板断裂などはっきりとした診断名がつけられるものは除外され、明らかな原因がないのに肩の痛みが生じ、徐々に可動域制限が起きてくる疾患を五十肩としています。

五十肩の病態と間違えやすい症状との区別

肩が痛いという症状のため、五十肩は肩こりと混同されることがありますが、この二つは別な疾患であり、痛む部位も異なります。肩こりでは首の周囲の痛み、頭や首のまわりが重く、だるくなります。しかし、五十肩は「肩が痛い」ことに加え、その痛みのせいで腕が上がらないという「可動域制限」を併せ持った病態です。五十肩には腱板断裂を合併する場合があります。腱板断裂は外傷が原因となることもありますが、はっきりとした原因がなく日常生活動作の中で断裂する場合も少なくありません。
原因に応じて治療方法も異なるため、精査する必要があります。また、心筋梗塞の放散痛のように、肩の痛みには重篤な疾患が潜んでいる場合があるので、そうした他の疾患を鑑別するためにも、受診してX線検査、MRI検査、血液検査などの各種検査を行うほうがいいでしょう。

五十肩の経過と重症化のリスク因子

五十肩の経過は、急性期・慢性期・回復期の3段階に分けられます。炎症が強く痛みがある急性期は発症〜3カ月。痛みが強くなるにつれて腕が動く範囲も狭くなっていきます。発症3〜6カ月は慢性期で、痛みはそれほど強くありませんが、肩や腕を動かさないでいると次第に拘縮(こうしゅく)して動きにくくなってきます。英語で五十肩をフローズン・ショルダー(Frozen Shoulder)といいますが、まさにこの硬くなって動かなくなってしまった状態を示した名称といえます。そして発症6カ月以降が回復期で、痛みも薄れ徐々に腕も動くようになっていきます。
五十肩はこのような経過を辿って回復します。ただし、回復までに要する時間や経過の様子は個人差があります。中には、発症から2年以上を過ぎても痛みが取れない人や、たとえ痛みが消えても、肩関節内の組織が癒着して可動域が制限され、肩や腕の動きが悪い人がいます。五十肩になった8割の人は回復しますが、残りの2割は重症化して拘縮肩になります。
また、当センターの調査では、五十肩の男性患者で糖尿病を合併している人が約3割いることが分かりました。糖尿病の家族歴がある人まで含めると4割近くが重症化し、心臓、肝臓、肺に異常がある人も重症化しやすいことが判明しました。

加齢で生じた棘と擦れて炎症に

五十肩には明らかな原因がないといわれてきましたが、現在では、加齢によって肩関節の周囲が変性し、炎症が起こることが肩の痛みを引き起こすと考えられています。さらに、私がこれまで取り組んできた臨床研究から、拘縮肩となる原因の一つは、肩関節の変形で生じた小さな棘(とげ)が、肩の筋肉のすじである腱板を傷つけることであることが分かってきました。
肩の中には腱板という筋肉があり、これが腕を上げるという動作で大きな役割を果たしています。ところが、肩や腕を動かすたびにこの棘によって腱板が擦れ傷ついていきます。そのため炎症が起こり痛むようになるのです。
また、関節内には骨や筋肉が動きやすくなるようにいわゆる潤滑油である関節液が分泌されているのですが、中高年になるにしたがって減少していきます。また、糖尿病や心疾患など内臓疾患があると関節液が分泌されにくくなります。
加齢やこうした事情による個人差があるため、40歳で五十肩になる人もいれば70歳になって五十肩になる人もいます。

治療の基本はリハビリとヒアルロン酸の注射

五十肩は一朝一夕に治るものではありません。治療の基本はリハビリテーション(以下、リハビリ)とヒアルロン酸の注射です。いずれも痛みを取り、肩の可動域を広げるために行うものです。
誰でも簡単にできるリハビリの一つが「おじぎ体操」です。例えば右側に症状がある場合、左手を椅子や机に置いて体を支え、右腕の力を抜いて、象の鼻のように手が地面に着くくらいブラブラと回します。この体操には肩の可動域を広げて痛みを和らげる効果があります。
もう一つ、私が考案した「どうぞ体操」もあります。足を軽く開いて立ち、健側は脇を軽く締めるようにしておろします。患側は手のひらを上にして「どうぞ」をするように水平にゆっくり大きく回します。
おじぎ体操もどうぞ体操も、肩や腕に痛みを感じない程度に、朝・昼・晩と10回ずつ3セット行うといいでしょう。これらの体操は五十肩の予防としても有効です。
ヒアルロン酸は、関節液に含まれる成分のため、肩関節へ注射することで、不足している関節液を補うことができ、関節を動かしやすくするための補助療法となります。病院では物理療法として温熱パックを行うこともありますが、これは温めることによって血管を開き、体内のヒアルロン酸の分泌を促す目的で行っています。
なお、急性期の強い痛みを取るためには、ステロイドの注射で炎症を抑える治療方法があります。しかし何度も行うと糖尿病を合併している人は感染に対する抵抗力が低下しているため、化膿性関節炎を引き起こすことがあるので注意が必要です。非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)を用いることもありますが、その場合は炎症を抑える作用よりも痛みを和らげてリハビリをしやすくすることが主な目的です。五十肩の痛みが神経由来でないため、肺疾患や心疾患を合併している患者さんへオピオイド系鎮痛薬の高用量の投薬は避けたほうがいいでしょう。湿布薬の中には、日光に当たるとかぶれる光線過敏症を起こすことがあり、また温湿布はかぶれやすい人がいるので注意が必要です。

拘縮肩も内視鏡治療で完治

リハビリを半年間続けても腕を前や横に90度以上上げられない場合は重症の拘縮肩と考えられるので、内視鏡治療の対象となります。
部分麻酔を施して肩に直径5ミリの4カ所の孔を開け、ここから関節鏡という内視鏡(カメラ)や電気メスを挿入。医師はモニターに映し出された関節内部の画像を見ながら、痛みや炎症の原因となっている肩関節の棘を除去し(図)、可動域制限の原因となっている肩関節内の癒着した組織を剥がす手術を行います。

図 肩関節の棘と手術後の変化

図1 三叉神経の名称の画像

提供:神戸克明氏

肩を大きく切開する外科手術に比べて低侵襲で、患者さんの負担が少ない治療方法です。手術時間は麻酔などの前処置を含めても1時間程度。次の日から肩を動かしてリハビリを行い、1カ月ほどで腕が上がるようになります。2泊3日の入院で、治療費は健康保険適用で約10万円です。
退院後は、1~3カ月ほどリハビリを行います。これまで500件余の内視鏡治療を行ってきましたが、感染症などもなく、完治しています。
当センターの肩関節外来には、全国各地から患者さんがやってきて、現在は受診予約が4カ月待ちという状態です。長年にわたって、五十肩に苦しんできた人ばかりで、「鎮痛薬と湿布薬ばかり処方されたが効果がなかった」と嘆く声をよく聞きます。また、拘縮肩の内視鏡治療を知って希望を抱いたという声も少なくありません。
五十肩の痛みから解放されるには、早期受診と適切な治療が不可欠です。同じ治療を半年以上行って全く効果がなかった場合は違う選択肢を考えたほうがいいでしょう。拘縮肩になっても内視鏡の手術があるので決してあきらめないでください。

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