髄膜炎の原因はさまざま 一番問題になるのは細菌性髄膜炎
髄膜炎は、脳や脊髄を包んでいる髄膜に炎症が起こる病気です。原因はさまざまですが、一般的には髄膜炎というと感染症による髄膜炎を指します。
感染症としての髄膜炎は、細菌やウイルス、真菌や寄生虫などが原因となります。頻度として多いのはウイルス性の髄膜炎ですが、特に問題になるのは重症化して生死にも関わることがある細菌性髄膜炎です。化膿性髄膜炎ともいいます。小児に多く、ワクチン(後述)がなかった時代は5歳未満の小児の1万人に1人ぐらいの頻度で発症していました。年齢分布は乳幼児期に集中しますが、その後も成人期を通して一定の頻度で見られます。ウイルス性髄膜炎も基本的には小児に多い病気ですが、全年齢を通して見られ、夏場に多いという特徴があります。細菌性髄膜炎に関しては特に明確な季節性はありませんが、冬から春に多く見られる傾向があります。
髄膜炎の症状は、頭痛、発熱、嘔吐が三大徴候で、頭や首を曲げたりすると痛みや吐き気を催すという髄膜刺激症状も特徴的です。細菌性髄膜炎では、進行すると意識状態が悪くなって全身状態も悪化し、死に至ったり、重篤な後遺症を残したりすることがあります。ウイルス性髄膜炎は細菌性髄膜炎よりも症状が若干軽く、頭痛がしばらく続いて徐々によくなっていきます。ただ、言葉で訴えられない乳幼児では単にぐったりしているとか、機嫌が悪いという症状も多く、発熱がある場合は髄膜炎を疑う必要があります。
ヒブと肺炎球菌のワクチン導入で細菌性髄膜炎の罹患率が激減
細菌性髄膜炎の原因菌は年齢によって違います(表)。新生児ではB群レンサ球菌(GBS)や大腸菌が多く見られます。どちらも妊娠中の母親の膣内によくいる菌で、それが出産時に新生児に付着して髄膜炎を起こすことがあります。ほかにも母体から感染する菌としては、食中毒を引き起こすリステリア菌がありますが、非常にまれです。
菌種 | 1カ月未満 | 1~3カ月 | 4カ月~5歳 | 6~49歳 | ≧50歳 |
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◎50~60 | ◎40~50 | <1 | <1 | ○5~10 |
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◎20~30 | ◎5~10 | <1 | <1 | <5 |
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○10 | ○5 | <1 | <1 | <5 |
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<5 | 1~2 | <1 | <5 | <2 |
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<5 | 1~2 | <1 | 5 | 5 |
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<5 | <5 | <1 | <5 | <5 |
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<5 | <5 | <1 | <1 | <5 |
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<5 | ○5~10 | ◎≧60 | ◎60~65 | 80 |
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○5 | ◎10~20 | ◎20~30 | ○5~10C | 5 |
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不明 | 1~2 | 1~2 | <5 | 不明 |
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<5b | <5 | <5 | <5 | 10 |
- これらの成績は、著者らによって実施された全国規模の化膿性髄膜炎サーベイランス研究(2000~2011年)の成績、あるいは砂川らの継続的サーベイランスの成績に基づく。
- 小児においてはHibならびに肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7、PCV13)の定期接種化、高齢者あるいは基礎疾患を有するヒトに対する肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の普及に伴い、今後、起炎菌の種類とその割合は大きく変化するであろうことが予測される。表に示す割合は2011年時点の推定であることに注意されたい。
- :その他にはクリプトコッカスを含む。
- :産道感染症によるMycoplasma hominisなどによる場合がごくまれにみられる。
- :成人由来のインフルエンザ菌はその2/3が無莢膜型である。
日本神経感染症学会HPを参考に作成
新生児期以降ではインフルエンザ菌や、肺炎球菌が増えてきます。インフルエンザ菌は、インフルエンザウイルスが原因のインフルエンザとはまったく別のものです。ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Haemophilus influenza type b:Hib)によって起こるHib(ヒブ)感染症がよく知られています。高齢になると増えてくるのがリステリア菌や肺炎球菌です。読んで字の如くの髄膜炎菌によるものもまれにあります。
細菌性髄膜炎の原因菌として、もともと一番多かったのはインフルエンザ菌でした。しかしながら、ヒブワクチンが2008年に導入され、2013年から定期接種化されて以降、ヒブによる髄膜炎は激減しました。国立感染症研究所の「公費助成前後での小児期侵襲性細菌感染症の罹患率変化(5歳未満人口10万人当たり)」を見ると、ヒブ髄膜炎は2008〜2010年に7.71人だったのに対し、2013年は0.17人で、減少率98%と激減しています※。ワクチンが導入されたことで劇的な変化が起こったのです。一方、肺炎球菌ワクチンも同時に定期接種化されましたが、肺炎球菌髄膜炎は2008〜2010年に2.81人で、2013年は1.10人と61%の減少にとどまっています。肺炎球菌にはいろいろな血清型があり、ヒトに感染を起こす肺炎球菌は90種類以上あります。そのうち、小児用の肺炎球菌ワクチンに含まれているのは13種類で、残りの血清型が引き起こす髄膜炎がまだ残っているのが現状です。
ウイルス性髄膜炎の原因で一番多いのが、手足口病や夏風邪の一種であるヘルパンギーナなどを引き起こすエンテロウイルスです。おたふく風邪を引き起こすムンプスウイルスも多く、おたふく風邪にかかった小児の1割くらいは髄膜炎を合併しているといわれます。ヘルペスウイルスは重い髄膜炎や脳炎の原因になることがあります。
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治療のターゲットは細菌性髄膜炎 原因を特定する前から治療を開始する
細菌性髄膜炎は一刻を争う病気なので、来院した時点で髄膜炎が疑われるときは簡単にできる血液検査だけして抗菌薬の投与を開始することが求められます。細菌性髄膜炎は放っておけば100%近くが亡くなる病気です。いろいろな治療をつくしても、現在もおよそ5%は死亡します。亡くならないまでも、痙攣や麻痺、難聴などの後遺症が残る小児が3割ほどいます。死亡や後遺症を防ぐには、どれだけ早く治療が始められるかにかかっています。3~4時間治療の開始が遅れるだけで死亡率が高くなるとのデータがあり、数多い髄膜炎の中から最初は細菌性髄膜炎があるものと疑って治療を始めることが大切です。
治療と並行して、髄膜炎と診断するための検査をします。血液検査では炎症の反応や電解質の乱れなどを確認します。脳の障害が起こっていないかを見るために脳のCT検査なども行います。脳出血など他の病気との鑑別のためにも必要です。
なかでも髄膜炎診断のカギになる大切な検査が、髄液検査です。腰椎穿刺といって腰のあたりから針を刺して脊髄腔の中の髄液を採取します。その髄液を直接顕微鏡で見て、炎症や感染の所見はないかなどを調べます。髄液の色が白く濁っていたり、白血球が多かったり、ブドウ糖値が低かったりすると細菌性髄膜炎が疑われます。同時に菌を培養して原因菌を突き止めます。逆に、培養で何も生えず、髄液検査で白血球の数もそれほど多くないという状況であればウイルス性髄膜炎を疑います。一般的な医療機関ではウイルスの培養は出来ないので、細菌が培養されないことをもって、無菌性髄膜炎と診断して対応します。一部の医療機関ではウイルスの遺伝子情報を検出する核酸増幅検査(PCRやLAMP法)でウイルスの種類を確定します。さまざまな検査で細菌性ではないとわかった時点で抗菌薬の投与は中止します。
抗菌薬の選び方と耐性菌への対応 やはりワクチンでの予防が重要
髄膜炎が疑われるときは、原因が特定される前に抗菌薬による治療が始まるわけですが、細菌性髄膜炎は年齢によってターゲットとなる菌が異なるので、その状況に応じて使う抗菌薬も違ってきます。小児の場合、多いのは肺炎球菌、ヒブ、GBS、大腸菌なので、それらを狙って、バンコマイシンとセフォタキシム、第3世代のセフェム系抗生物質を静注で投与するのが1つの方法です。セフェム系抗菌薬+カルバペネム系抗菌薬を推奨している医師もいます。新生児や高齢者の髄膜炎を疑ったときは、リステリア菌に効くアンピシリンを追加します。脳室シャントがあるような患者さんが髄膜炎を起こした場合は、皮膚にいるブドウ球菌が原因となることもあるので、それを狙ってバンコマイシンを使うなど、抗菌薬の種類は患者さんが抱えている基礎疾患にも合わせて調整します。
抗菌薬では耐性菌も考慮する必要があります。肺炎球菌ならばペニシリンや第3世代セフェム系抗菌薬が効きにくいものがあり、その場合はバンコマイシンを合わせて使います。バンコマイシンに真に耐性の肺炎球菌は現時点では報告がありません。大腸菌の場合は、ESBL(Extended-Spectrum β-Lactamaseの略で、日本語では「基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ」と訳される)産生の大腸菌があって、セフェム系抗菌薬が効きません。それを考慮してカルバペネム系抗菌薬を併用したりします。初期治療が外れていると命取りになるので、ターゲットを広めにとって治療していくことになります。
一方、ウイルス性髄膜炎の場合、ヘルペスウイルスが原因のときは抗ウイルス薬のアシクロビルを使います。エンテロウイルスやムンプスウイルスによる髄膜炎は原則として治療法がないので対症療法がメインです。気持ちが悪くて食事がとれないときは点滴しますが、発熱や頭痛といった症状も点滴を管理することで1~2週間で徐々に治っていきます。
髄膜炎は発見が難しく、治療が遅れて後遺症が残ることもあります。やはり、ワクチンがある病気はワクチンをきちんと接種して予防することが大切です。