薬局に勤務する管理栄養士による訪問栄養指導とは
老老介護や認認介護の世帯は食事・栄養に関するさまざまな問題を抱えています。たとえば、介護者が料理が苦手だったり、食に関心がなかったりすると、味付けがうまくできず、おいしい食事が作れません。また、介護者が外出できなかったり、重いものを持てなかったりすると、買い物に行けず、家に残っている食材で食事を作らざるを得ません。そうしたことから食欲が低下し、十分に食事ができないと低栄養になります。低栄養とは、特にエネルギーとたんぱく質が欠乏し、健康な体を維持するための栄養素が摂れていない状態を指します。また、高齢になるほど併存疾患が増え、低栄養のリスクは高まります。
訪問薬樹薬局飯田橋では、常勤の管理栄養士が薬剤師と連携して在宅患者の訪問栄養指導を行っています。管理栄養士が訪問して栄養に関するスクリーニングや確認を行うことで、食事形態や栄養バランスを考慮した食事の提案ができ、さらに低栄養の未然回避に繋がります。
薬剤師が服薬指導などで訪問した際、食事や栄養の点で気付いたことがあれば、管理栄養士に基礎疾患の状態、服用薬が食事に与える影響、生活背景やコミュニケーションのポイントなどを情報共有します。次に薬剤師に管理栄養士が同行し、在宅患者に多い低栄養に関するスクリーニングや食事の悩みなどをヒアリングします。管理栄養士の介入が必要と判断すれば、かかりつけ医に相談し、介入を開始します。初回スクリーニング時には介入が不要であっても、栄養状態は経時的に変化するため、約半年後に管理栄養士が再度訪問し、患者さんの栄養状態を定期的にチェックします。
スクリーニングには、簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form:MNA‐SF)を用います。過去3カ月間で食事量の減少や体重の減少があったかや、自力で歩行できるかなどの6項目について配点し、合計ポイントを「栄養状態良好」「低栄養のおそれあり」「低栄養」の3段階で評価します。
管理栄養士が在宅医療で関わる業務として診療報酬の算定が認められているのは外来栄養食事指導や在宅患者訪問栄養食事指導などです。ただし、医療機関に所属している管理栄養士の訪問栄養指導は診療報酬として算定されますが、薬局の管理栄養士の訪問栄養指導については現時点ではまだその対象になっていません。
一方、介護保険については居宅療養管理指導などの算定が認められていますが、こちらも医療保険の訪問栄養指導と同様の扱いになっており、薬局の管理栄養士による居宅療養管理指導の算定の可否は、一部の市区町村を除きまだ認められていません。同薬局では基本的にはサービスとして管理栄養士による栄養指導を行っています。
管理栄養士による具体的な栄養指導
現在同薬局では2名の管理栄養士が約20名の在宅患者の食事・栄養をサポートしています。患者さんのほぼ8割が高血圧で、腎臓病や糖尿病で食事が制限されている場合は低栄養を合併しているケースが少なくありません。
腎臓病の患者さんは食事の制限が多く、たとえばカリウムを多く含んでいるバナナなどは控えるように指導し、バナナが好物の患者さんにはバナナ風味の食品を代用する方法もあります。食事で栄養を十分に摂取できず、エネルギー、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどを含む栄養補助食品を使用する場合は、服用薬との相互作用などを薬剤師に確認することが重要です。
アルツハイマー型認知症の患者さんは集中力が低下すると、食事の途中で食べることをやめてしまうことがあり、低栄養のリスクが高くなります。患者さんと意思の疎通を図ることが重要で、「食べたいものはありますか」「どんなものが好きですか」などと質問しながら、食事への意欲を確認します。コミュニケーションの取り方は、服薬指導で患者さんと信頼関係を作っている薬剤師のアドバイスが有用です。
末期がんの患者さんは悪液質を伴うと倦怠感で食欲が低下し、低栄養になりやすく、逆に循環器疾患、糖尿病の患者さんでは栄養過多に対する注意が必要になります(在宅患者でよくみられる病態別の栄養指導のポイントは表を参照)。
糖尿病 |
●3食同じ時間に食事が取れているかを確認する
●食事内容を確認する 【確認ポイント】
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高血圧 |
●漬物や汁物の頻度を聞き取る
●ちくわやソーセージなどの加工食品や練り製品も高塩分のため摂取量を確認する ※糖尿病との併発が多いので、糖尿病の指導内容に加えて聞き取る。 |
腎臓病 |
●たんぱく質・カリウム・塩分制限の確認をする 【確認ポイント】
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低栄養 |
●たんぱく質の積極的な摂取を勧める
●食欲が低下している際は補助食品を活用する
●エネルギー摂取ができる調理工夫をする
●便秘をしていないかを確認する
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認知症 |
●コミュニケーションに十分配慮する
●食欲を確認する
●食事に集中できる環境を考える
●指導内容に関しては、介護者と密に情報共有する |
矢作さくら氏の話をもとに編集部作成
また、訪問介護員が提供する食事について、どこでどのようなものを購入しているか確認します。限られた滞在時間内に訪問介護員が調理まで行うことは難しいため、訪問介護員がスーパー等で購入した食事をそのまま提供していることが多くみられます。管理栄養士が食事の購入先に足を運び、より栄養を摂りやすい総菜などがあれば、メモや訪問介護員間で情報共有するための連絡ノートにアドバイスを記載して共有します。
食事は大きな楽しみであり、厳しい制限がない場合はできるだけ患者さんが好きなものを食べられるようサポートします。食事の傾向について、家族や訪問介護員からも情報を収集し、患者さんが楽しく食事できるように配慮することも重要です。
多職種と連携して栄養管理を行う
服薬指導、薬剤管理、医師への処方変更の提案など薬剤師の本来業務に加えて、先述したスクリーニングシートなども用いて薬剤師が患者さんの食事・栄養についてアセスメントすることは可能です。たとえば、抗がん剤や抗精神病薬の副作用として便秘が知られていますが、患者さんが薬剤による嘔吐や便秘などの消化器症状、食欲不振・低下などによって食事が摂れない場合は、薬剤の変更や量の調整、栄養剤の提案を薬剤師が行うことはできるでしょう。しかし、食事形態や栄養バランスまで考えることは薬剤師では難しく、管理栄養士の介入が望まれます。抗精神病薬は嚥下困難を招きやすく、これらの薬が処方されている場合は管理栄養士の早期介入を検討すべきでしょう。また、認知症で意思疎通ができず、嚥下機能の低下によるむせなどがみられる際には、管理栄養士だけでなく患者家族、歯科医師、言語聴覚士、訪問介護員、ケアマネージャーなど多職種で情報を共有し、安全に食事ができるように望ましい食事形態を見つけていきます。
在宅での栄養管理に関しては、ケアマネージャーと訪問介護員の役割が重要になります。特に在宅患者と最も長く接する訪問介護員から得られる情報は重要です。訪問介護員の報告から医療職が介入して適切な治療に結び付くことは少なくありません。
管理栄養士がいない薬局では、まず地域のどこに在宅訪問ができる管理栄養士がいるか把握し、連携できる関係作りが必要になります。今後、地域包括ケアに携わる薬局の薬剤師、管理栄養士の役割が極めて重要になります。在宅患者の栄養状態が向上すれば、地域医療の質は病院医療のそれと同等になると期待されます。