依頼の4つのパターンから在宅に訪問するまで
厚生労働省によると、2017年1月時点で在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)の算定薬局は19,437軒、居宅療養管理指導費等(介護保険)の算定薬局数は5,863軒に達し、在宅薬剤管理を行う薬局、薬剤師ともに増加しています。薬剤師の在宅訪問は、国が進める地域包括ケアシステムにおいても、在宅患者を支える重要な役割として期待されています。
「はじめる在宅~現場で役立つ基礎知識」では、これから在宅訪問を始めようと考えている人、まだ在宅訪問を始めたばかりの人に向けて、業務に必要な基本的知識を解説していきます。まずは訪問までの流れや必要書類、届出を確認しましょう。
在宅訪問を始める前に、医療保険と介護保険の届出が必要になります(表1)。このほかに緩和医療を行う場合は、麻薬小売業者免許、麻薬小売業者譲渡許可を申請します。麻薬や化学療法などの無菌調整を行う場合は、無菌製剤処理加算の施設基準に係る届出を地方厚生局に提出しましょう。
医療保険に関する届出 | 提出先 |
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在宅患者訪問薬剤管理指導に係る届出 | 地方厚生(支)局 |
生活保護法等指定介護機関指定申請書※1及び中国残留邦人等支援法指定介護機関指定申請書※2 | 都道府県等の介護保険担当部署 |
介護保険に関する届出 | 提出先 |
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介護給付費の請求及び受領に関する届出 | 各都道府県の国民健康保険団体連合会 |
居宅療養管理指導・介護予防居宅療養管理指導事業所の指定に係る記載事項※3 | 各都道府県の介護保険担当部署 |
生活保護法指定介護機関指定申請書※1 及び中国残留邦人等支援法指定介護機関指定申請書※2 |
都道府県等の介護保険担当部署 |
※2 平成20年3月31日以前に新規開設した薬局は届出が不要。
※1、2共に、平成26年7月1日以降に新規開設した薬局は届出が不要。
※3 都道府県によっては必要となる場合がある。
薬事日報社「薬剤師のためのすぐに始められる! 在宅訪問ガイドブック」を参考に作成
依頼から訪問を開始するまでの参考例を図に示しました。訪問のきっかけは、医師・歯科医師からの依頼、ケアマネージャー(介護支援専門員)や訪問看護師など多職種からの相談、病院から連絡がくるケースなどがあります。この3パターン以外に薬剤師が薬局を訪れた患者の服薬管理に問題を感じて主治医に相談し、訪問を開始するケースもあります。
依頼 |
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依頼には以下の4パターンがある。
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確認 |
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訪問に至る経緯や課題、利用者の基本情報、主治医の氏名と連絡先、介護保険認定の有無など。 |
医師、歯科医師に連絡 |
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医師、歯科医師からの依頼以外は、主治医に連絡して指示を受ける。 |
訪問の連絡 |
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初回訪問時は家族、キーパーソン、ケアマネージャーに同席してもらうのが望ましい。 |
訪問準備 |
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表2-書類2、書類3を用意する。 |
初回訪問 |
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医師や多職種の相談内容を利用者・家族に伝え、薬剤師としての介入方法を説明。利用者・家族から在宅訪問の同意を得る。次回からの訪問日程を決める。 |
薬学的管理指導計画書作成 |
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表2-書類5を作成する。 |
定期訪問 |
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薬学的管理指導計画書に基づき訪問する。表2-書類6、書類7を記載する。 |
報告書 |
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在宅訪問薬剤管理指導の報告書を医師・歯科医師に提出する。ケアマネージャーに必要な情報提供を行う。 |
※参考例です。患者さんの状況や薬局の実情に合わせて適宜変更してください
編集部作成
訪問前にキーパーソンの連絡先などを確認
訪問の依頼を受けたら、患者の基本情報、訪問することになった理由、主治医の連絡先、キーパーソンの続柄と連絡先、患者・家族の同意の有無、介護保険認定の有無などを確認します。事前に確認すべき事項をまとめたシートを作成しておくとよいでしょう。主治医以外から依頼を受けた場合は主治医に連絡し、訪問の指示を受けます。この際に訪問薬剤管理指導依頼書や診療情報提供書があると患者の詳しい情報を知ることができます。医師からの訪問指示が口頭のときは薬歴と処方箋の備考欄に「訪問指示」と記載します。
次に患者宅に連絡し、初回訪問日の日程を調整します。初回はできるだけ家族やキーパーソンに同席してもらうとよいでしょう。ケアマネージャーにも連絡を取り同席を依頼します。車で訪問する場合は、近くに駐車場があるかどうか確認しておきましょう。
在宅訪問に必要な書類を表2に示しました。重要事項説明書と契約書は患者に渡し、個人情報取扱同意書は患者からサインをもらいます。訪問後は処方医の診療情報提供書をもとに薬学的管理指導計画書を作成します。ケアマネージャーから居宅サービス計画書の交付を受けた場合はその内容を反映しましょう。薬学的管理指導計画書は少なくとも月1回、患者の状況に変化があった場合には必要に応じて見直します。
各種書類 | 医療保険 | 介護保険 | |
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1 | 運営規程 | ○ | |
2 | 重要事項説明書 | ○ | |
3 | 契約書 | ○ | |
4 | 個人情報取扱同意書 | ○ | |
5 | 薬学的管理指導計画書 | ○ | ○ |
6 | 居宅療養管理指導記録簿(薬歴) | × | ○ |
7 | 在宅患者訪問薬剤管理指導記録簿 (薬歴) | ○ | × |
8 | 報告書※1 | ○ | ○ |
※1 医師、歯科医師への報告と、介護保険の場合にはケアマネージャーへケアプランに必要な情報提供を行う。
薬事日報社「薬剤師のためのすぐに始められる! 在宅訪問ガイドブック」を参考に作成
初回訪問が終了したら、薬学的管理指導計画書の内容に基づき定期的な訪問を開始します。その際、在宅患者訪問薬剤管理指導記録簿(医療保険)と居宅療養管理指導記録簿(介護保険)を持参して記入します。記録簿は、要件を満たせば薬歴への記載でもよいことになっています。
訪問の結果は文書で医師・歯科医師に報告します。残薬や服薬アドヒアランス、ADLや副作用の有無などを文書で提供します。居宅療養管理指導料は、医師・歯科医師に加え、ケアマネージャーに対してケアプラン作成に必要な情報を提供することが要件です。
在宅訪問で算定できる保険点数
在宅訪問で算定できる保険点数と注意事項は表3を参照してください。2016年度診療報酬改定で保険薬剤師1人あたりの算定上限が週40回に緩和されました。訪問を開始する前に医療保険と介護保険の算定要件を確認しておきましょう。
在宅患者訪問薬剤管理指導料 | 居宅療養管理指導費 | |
---|---|---|
区分 | 医療保険 | 介護保険 |
薬局の薬剤師 |
|
|
病院または 診療所の薬剤師 |
同上 |
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麻薬管理指導 加算 |
100点※2 | 100単位※2 |
注意事項 |
|
- 同一建物の複数の利用者に、在宅患者訪問薬剤管理指導を実施した場合、1人目の利用者に対しては、「同一建物居住者以外の場合(650点)」を算定。
- 麻薬管理指導加算は、「在宅患者訪問薬剤管理指導料」「居宅療養管理指導費」の他に「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料」「在宅患者緊急時等共同指導料」を算定するときに加算。
その他の算定 | 点数 |
---|---|
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料※1 | 500点(月に4回まで) |
在宅患者緊急時等共同指導料 | 700点(月に2回まで) |
在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料 | 30点 |
退院時共同指導料 | 600点(入院中1回、末期の悪性腫瘍患者は2回) |
無菌製剤処理加算(成人/乳幼児)※2 中心静脈栄養 抗悪性腫瘍剤 麻薬 |
1日につき、下記の点数を算定する 65点/130点 75点/140点 65点/130点 |
在宅患者調剤加算※3 | 15点 |
- 薬学的管理指導計画書に基づいて支援している範囲の中で、状態の急変時に医師の求めにより緊急に訪問して薬学的管理指導を行った場合に算定。風邪など緊急性が乏しい場合は算定不可。
- 携帯型ディスポーザブル注入器の場合、1つの注入器に数日分の医薬品を無菌調製するが、無菌製剤処理加算は1回分ではなく、想定される日数分算定できる。
例)麻薬を1つの携帯型ディスポーザブル注入器に7日分を想定して無菌調製した場合は、65点×7日分で455点を算定できる。 - 「在宅患者訪問薬剤管理指導料」「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料」「在宅患者緊急時等共同指導料」「居宅療養管理指導費」「介護予防居宅療養管理指導費」のいずれかを算定した場合に、処方箋受付1回につき、在宅患者調剤加算を算定できる。ただし、サポート薬局が処方箋を受付けた時は、在宅基幹薬局が上記指導料を算定するため、在宅患者調剤加算を算定できる。
薬事日報社「薬剤師のためのすぐに始められる! 在宅訪問ガイドブック」を参考に作成
高齢者の場合、住まいの形はさまざまです。種類によって薬剤師の訪問可否や保険適用ルールが異なります(表4)。介護付き有料老人ホームなどは医療保険、介護保険のどちらも算定できますが、特定の場合を除き介護保険が優先的に適用されます。
名称 | 呼称・通称 | 主な運営 | 介護レベル | 在宅患者訪問薬剤管理 指導料(医療保険) |
居宅療養管理指導費 (介護保険) |
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介護付き有料老人ホーム | 介護付き有料 | 民間企業 | 自立~ | ○(両方可、ただし介護保険優先) | |
住宅型有料老人ホーム | 住宅型有料 | 民間企業 | 自立~ | ○(両方可、ただし介護保険優先) | |
サービス付き高齢者向け住宅 | サ高住 | 民間企業 | 自立~ | ○(両方可、ただし介護保険優先) | |
養護老人ホーム | 社会福祉法人 | 自立~ | ×※1 | ○ | |
軽費老人ホーム | 社会福祉法人 | 自立~ | ○※2(両方可、ただし介護保険優先) | ||
認知症対応型共同生活介護 | グループホーム | 民間企業・社会福祉法人 | 要支援2以上 | × | ○ |
介護老人福祉施設 | 特別養護老人ホーム (特養) |
社会福祉法人 | 要介護3以上※3 | × (末期の悪性腫瘍は○) |
× |
介護老人保健施設 | 老健 | 医療法人 | 要介護1以上 | × | × |
- 定員111名以上の場合、111名以下なら算定可
- 軽費老人ホームA型(入所者が50名以上)の場合は医師の配置が必要となるため、在宅患者訪問薬剤管理指導料は算定不可。
- 原則要介護3以上だが、要介護1、2でも事情によっては特例的に入所できる。
薬事日報社「薬剤師のためのすぐに始められる! 在宅訪問ガイドブック」を参考に作成
在宅訪問では多職種との連携が不可欠 地域ケア会議などに積極的に参加しよう
在宅訪問では様々な職種との連携が求められます。とくに介護職種との関わりは重要です。ケアマネージャーは介護保険法で定められた職種であり、要支援・要介護認定を受けた人の居宅サービス計画書(ケアプラン)※1を作成し、自治体や各種サービス事業者、介護保険施設との連絡・調整を行います。居宅介護支援事業所や介護保険施設、地域包括支援センターに勤務しています。
地域包括支援センターは、市町村を設置主体として、介護予防ケアマネジメント業務、総合相談支援業務、権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務の4つの業務を担っています。地域包括支援センターが主催する地域ケア会議は、ケアマネージャーや市町村職員、介護サービス事業者、医師、看護師、リハビリテーション関係職種、薬剤師、保健所職員などが参加し、困難事例など個別ケースについて支援内容を検討します。検討を通じて、高齢者の課題解決に必要な地域ネットワークの構築や必要な資源を開発することがねらいです。地域のキーマンと知り合う重要な機会ですから積極的に参加しましょう。
介護職と他の職種が情報共有する場として、患者の自宅でサービス担当者会議が開催されます。ケアマネージャーが招集し、患者本人、家族も参加します。会議では、患者と家族の意向とアセスメントに基づいて作成されたケアプランの目標やサービス内容を検討します。
医療機関と情報共有する重要な場が退院時カンファレンスです。医療機関に入院している患者が退院して在宅に戻ることが決まったときに、入院医療機関が開催します。参加者は、MSW(医療ソーシャルワーカー)※2、医療機関の医師・看護師、患者本人と家族、在宅医師・歯科医師、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネージャーなどです。在宅生活に向けた課題や今後必要なサービス、支援の内容を共有します。
地域ケア会議など多職種が参加する会議の場で、積極的に情報共有し、薬剤師の専門性を発揮することが求められます。
在宅訪問の準備は整いました。次回からは疾患別や病態別に在宅訪問のポイントを解説していきます。
- 利用者がいつ、どこで、どのようなサービスをどのくらい利用するかを記載したもの。利用者の問題点や課題を把握し、家族やサービス事業者を含めた話し合いで作成する。
- 社会福祉の立場から患者や家族が抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る業務を行う。