専門医療機関での正確な診断と、適切な治療・管理を
Check Points
典型例は、蕁麻疹やアナフィラキシーなどが原因食物摂取後2時間以内に出現原因食物の多くは、鶏卵、牛乳、小麦
出現した症状に応じて、抗ヒスタミン薬、気管支拡張薬の投薬やアドレナリン筋注
必要最小限の食物除去により耐性獲得を目指す
典型例は摂取から2時間以内の症状出現原因抗原は鶏卵、牛乳、小麦が多い
食物アレルギーは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義される。本来は人体に害を与えるものではない食物を免疫システムが異物として認識し、過剰なアレルギー反応が引き起こされてしまうのだ。日本における有症率は乳児で約10%、保育所児が5.1%、学童以降が1.3 〜4.5%とされている。全年齢を通して、わが国では推定1 〜2%程度の有症率であると考えられる。
食物アレルギーは、臨床型によって表1のように分類される。この臨床型のうち、最も典型的なのは蕁麻疹やアナフィラキシーといった即時型症状で、原因食物摂取から2時間以内にアレルギー反応による症状を示すことが多い。アレルギー専門医の協力により実施された本邦の調査によれば、原因抗原は鶏卵39.0%、牛乳21.8%、小麦11.7%で、これら上位3種が即時型症状の原因全体の72.5%を占めている。その他の食物としては、ピーナッツ、果物、魚卵、甲殻類、ナッツ類、そば、魚類などが報告されている。
一般的に、乳児から幼児早期の主要原因食物である鶏卵、牛乳、小麦、大豆の自然耐性化率は高く、その他の原因食物の自然耐性化率は低いと考えられている。しかし、食物アレルギーの自然歴に関する報告は少なく、特に主要原因食物以外の耐性化率は臨床経験的なものであり、実際のところは不明といわざるを得ない。自然耐性獲得の機序としては、成長による消化管の消化機能、物理化学的防御機構、経口免疫寛容の発達などが考えられている。
臨床型 | 発症年齢 | 頻度の高い食物 | 耐性獲得(寛解) | アナフィラキシーショックの可能性 | 食物アレルギーの機序 | |
---|---|---|---|---|---|---|
新生児・乳児消化管 アレルギー |
新生児期 乳児期 |
牛乳 (乳児用調製粉乳) |
多くは寛解 | (±) | 主に 非IgE依存性 |
|
食物アレルギーの 関与する乳児アトピー 性皮膚炎 |
乳児期 | 鶏卵、牛乳、小麦、大豆など | 多くは寛解 | (+) | 主に IgE依存性 |
|
即時型症状 (蕁麻疹、 アナフィラキシーなど) |
乳児期~成人期 | 乳児~幼児:鶏卵、牛乳、小麦、そば、魚類、ピーナッツなど 学童~成人:甲殻類、魚類、小麦、果物類、そば、ピーナッツなど |
鶏卵、牛乳、小麦、大豆などは寛解しやすい その他は寛解しにくい |
(++) | IgE依存性 | |
特殊型 | 食物依存性運動誘発 ナフィラキシー(FDEIA) |
学童期~成人期 | 小麦、エビ、果物など | 寛解しにくい | (+++) | IgE依存性 |
口腔アレルギー症候群(OAS) | 幼児期~成人期 | 果物・野菜など | 寛解しにくい | (±) | IgE依存性 |
AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用
複数臓器において症状が出現 症状に対する適切な薬剤の投与を
食物アレルギーでは、皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、神経、循環器など全身の多岐にわたる症状がみられる(表2)。このうち、皮膚症状の出現頻度が突出して高く、次いで呼吸器症状、粘膜症状と続く。
アナフィラキシーとは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」をいう。「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」を、アナフィラキシーショックという。食物によるアナフィラキシーは、特異的IgE抗体が関与する即時型反応であるため、典型例では原因食物の摂取後数分以内に症状が出現するが、30分以上経ってから症状を呈する場合もある。また、症状の発現は二相性のこともあり、すべての症状が同時に出現するとは限らないため、注意深い観察が必要となる。
アナフィラキシー発生時の対応としては、グレード3(重症)の症状、または気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸器症状がある場合にはアドレナリン筋注の使用が適応となるが、過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合や、症状の進行が激烈な場合などでは、グレード2(中等症)でもアドレナリン筋注の使用を考慮する。また、原則的にはグレード2(中等症)以上の症状には、皮膚症状に対する抗ヒスタミン薬や呼吸器症状に対する気管支拡張薬の使用など、それぞれの症状に対する治療介入を考慮する。食物によるアナフィラキシーの臨床的重症度および対処法は、表3、表4を参照いただきたい。
皮膚 | 紅斑、蕁麻疹、血管性浮腫、瘙痒、灼熱感、湿疹 | |
---|---|---|
粘膜 | 眼症状 | 結膜充血・浮腫、瘙痒、流涙、眼瞼浮腫 |
鼻症状 | 鼻汁、鼻閉、くしゃみ | |
口腔咽頭症状 | 口腔・咽頭・口唇・舌の違和感・腫脹 | |
呼吸器 | 喉頭違和感・瘙痒感・絞扼感、嗄声、嚥下困難、 咳嗽、喘鳴、陥没呼吸、胸部圧迫感、呼吸困難、チアノーゼ | |
消化器 | 悪心、嘔吐、腹痛、下痢、血便 | |
神経 | 頭痛、活気の低下、不穏、意識障害、失禁 | |
循環器 | 血圧低下、頻脈、徐脈、不整脈、四肢冷感、蒼白(末梢循環不全) |
AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用
表3 食物によるアナフィラキシーの臨床的重症度
- 重症度(グレード)判定は、表4を参考として最も症状グレードの高い臓器症状によって行う
- グレード1(軽症)の症状が複数あるのみではアナフィラキシーとは判断しない
- グレード3(重症)の症状を含む複数臓器の症状、グレード2以上の症状が複数ある場合はアナフィラキシーと診断する
- 重症度を適切に評価し、各器官の重症度に応じた治療を行う
- グレード2(中等症)以上の症状には原則として治療介入を考慮する
- アドレナリン筋注の適応はグレード3(重症)の症状、気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸器症状である
- 過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合や症状の進行が激烈な場合はグレード2(中等症)でもアドレナリン筋注を考慮する
AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用
グレード1(軽症) | グレード2(中等症) | グレード3(重症) | ||
皮膚・粘膜症状 | 紅斑・蕁麻疹・膨疹 | 部分的 | 全身性 | ← |
---|---|---|---|---|
瘙痒 | 軽い瘙痒(自制内) | 強い瘙痒(自制外) | ← | |
口唇、眼瞼腫脹 | 部分的 | 顔全体の腫れ | ← | |
消化器症状 | 口腔内、咽頭違和感 | 口、のどのかゆみ、違和感 | 咽頭痛 | ← |
腹痛 | 弱い腹痛 | 強い腹痛(自制内) | 持続する強い腹痛(自制外) | |
嘔吐・下痢 | 嘔気・単回の嘔吐・下痢 | 複数回の嘔吐・下痢 | 繰り返す嘔吐・便失禁 | |
呼吸器症状 | 咳嗽、鼻汁、鼻閉、 くしゃみ | 間欠的な咳嗽、 鼻汁、鼻閉、くしゃみ | 断続的な咳嗽 | 持続する強い咳き込み、 犬吠様咳嗽 |
喘鳴、呼吸困難 | ー | 聴診上の喘鳴、 軽い息苦しさ | 明らかな喘鳴、呼吸困難、 チアノーゼ、呼吸停止、 SpO2≦92%、 締め付けられる感覚、 嗄声、嚥下困難 |
|
循環器症状 | 脈拍、血圧 | ー | 頻脈(+15回/分)、 血圧軽度低下、蒼白 | 不整脈、血圧低下、 重度徐脈、心停止 |
神経症状 | 意識状態 | 元気がない | 眠気、軽度頭痛、恐怖感 | ぐったり、不穏、 失禁、意識消失 |
治療 | 抗ヒスタミン薬 | 必要に応じて | ○ | ○ |
呼吸器症状に対する 気管支拡張剤吸入 | ー | ○ | ○ | |
ステロイド | ー | 必要に応じて | ○ | |
アドレナリン | ー | 必要に応じて | ○ |
※症状の重症度は一番重い臓器の症状を用いる。本表の記載はあくまでも重症度と治療の目安であり、治療は状況によって変りうる。
・血圧低下:1歳未満<70mmHg、1-10歳<[70+(2×年齢)]mmHg、11歳-成人<90mmHg
・血圧軽度低下:1歳未満<80mmHg、1-10歳<[80+(2×年齢)]mmHg、11歳-成人<100mmHg
柳田紀之 他. 日本小児アレルギー学会誌 2014;28:201より引用
食物アレルギーの診断 食物除去試験や食物経口負荷試験も
原因食物の探索(問診)/ 特異的IgE抗体の確認(免疫学的検査)
食物アレルギーは、特定の食物摂取によりアレルギー症状が誘発され、それが特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性を確認することによって診断される。そのため、まずは問診で症状誘発への関与が疑われる食物の摂取状況と症状誘発の関連を確認し、その食物に対する特異的IgE抗体の有無を、抗原特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストなどの免疫学的検査で確認する。学童期〜成人の患者では、花粉と果物などの交差抗原性についても念頭に置き、原因抗原の探索を行うことが重要となる。
原因抗原の確定(食物除去試験・食物経口負荷試験)
乳児アトピー性皮膚炎で、湿疹への関与が疑われる特異的IgE抗体が確認された場合は、原因食物を1〜2週間程度完全に除去する食物除去試験を行い、湿疹の改善が得られるか否かを確認する。食物除去により改善が得られた場合は、その食物が本当に症状を誘発するか否かを確認するために食物経口負荷試験(oral food challenge:OFC)*を行い、原因抗原の確定を行う。母乳栄養の乳児アトピー性皮膚炎の場合には、母親の食物除去および母乳を介した負荷試験を実施することもある。
また、即時型の症例では、症状の病歴と免疫学的検査の結果が一致すれば、その時点で食物アレルギーと診断できるためOFCは不要であるが、誘発症状がその抗原のアレルギー反応であるかが疑わしい、複数の原因食物が疑われるなどの場合は、OFCを行い原因抗原の確定を行う必要がある。
*食物経口負荷試験:アレルギーが確定しているか疑われる食品を単回または複数回に分割して摂取させ、症状の有無を確認する試験
食物アレルギーの治療と管理 必要最小限の食物除去により耐性獲得を目指す
食物アレルギーの治療・管理の原則は、「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」である。耐性獲得を目指す小児の場合などでは、必要最小限の食物除去を行うために、OFCで段階的に食物負荷を行い、安全摂取可能量を決定する(図1)。さらに治療開始から一定期間経過後に、再度OFCを行い耐性獲得の有無を確認する。ただし、OFCはアナフィラキシーを誘導する可能性もある試験である。そのため、リスク管理体制が整った専門施設で実施することが必須とされている。
また、アレルギー専門の医療機関などでは、経口免疫療法(Oral Immunotherapy:OIT)が研究的な治療として行われることがある。OITは、自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前のOFCで症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇または脱感作状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療法である。ただし、OITはすべての症例に治療効果があるわけではなく、経過中の症状誘発は必発である。重篤なアナフィラキシーを誘導する可能性があり、OIT終了後にも症状が誘発される場合がある。また、医療保険の適用もないことから、一般診療としての実施は推奨されていない。OIT実施の条件として、①食物アレルギー診療を熟知した専門医(日常的にOFCを実施し、症状誘発時の対応が十分に行える医師)であること、②OITの定義、対象者の選択、作用機序、有効性、副反応とその対応について知識・経験があること、③倫理委員会の承認を得て患者および保護者に十分なインフォームド・コンセントを行っていること、④症状出現時の救急対応に万全を期していることの4点を満たした施設でのみ行うべき治療法であるとされている。
図1 食物経口負荷試験による安全摂取可能量の探索
医師、栄養士、薬剤師などチームで患者と保護者をサポート
必要最小限の原因食物除去を適切に行う上では、日常生 活に即した具体的な食物摂取に関する指導が非常に重要と なるため、管理栄養士との連携が重要となる。また、世間には「子どもの食物アレルギー発症を予防するためには、離 乳食の開始を遅らせるほうが良い」、「一定の月齢に達する まで鶏卵は与えないほうが良い」などといった誤った情報が 多く流布されている。食物アレルギー発症予防のために、離乳食の開始時期や特定の食物の摂取開始時期を遅らせると いうことはこれまで推奨されたことがないだけでなく、ピーナッツや鶏卵などの食物について、導入を遅らせることがアレルギー発症または進展のリスク因子となる可能性も報告さ れている。独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究 センター副臨床研究センター長・アレルギー性疾患研究部長 の海老澤元宏氏は「食物アレルギーのお子さんの保護者の 方の中には、そうした誤った情報を信じてしまっている方もいますので、正しい情報を伝え誤解や思い込みを是正して いくためにも管理栄養士の協力は必要不可欠です」と話す。
さらに、抗ヒスタミン薬や気管支拡張薬など、症状が出現したときに服用する薬剤や、アナフィラキシーを起こす可 能性がある患者にはアドレナリン自己注射薬(エピペン®) が処方されるため、適切な使用方法や使用のタイミングなど について、薬剤師から説明を行い、患者または保護者の理解を十分に深めておくことも非常に重要となる。特に、気管支喘息はアナフィラキシーの重篤化の危険因子であるため、気管支喘息既往例では、十分に注意する必要がある。「食物アレルギーは、食事というわれわれの日常に欠かせないもの に直結して影響を与える疾患であり、アナフィラキシーなど の重篤な状態に陥る危険性がある疾患です。医師だけでな く、薬剤師、栄養士とチームを組んで、患者さんと保護者を 全面的にサポートしていくことが、食物アレルギー診療には必要です」と海老澤氏 。
食物アレルギーに関する誤解 専門医療機関での正確な診断が必須
食物アレルギーと混同されがちな疾患は多い。食物に含まれる細菌・ウイルス・寄生虫などによる食中毒や、乳糖の消化酵素の欠乏あるいは活性の低下が原因で下痢などの症状が出る乳糖不耐症、鮮度の落ちた魚で増加するヒスタミンに反応してアレルギー様の症状が起こるヒスタミン中毒などである。これらは、抗原特異的な免疫学的機序による反応ではないため、食物アレルギーには含まれない。実際にはヒスタミン中毒で皮膚症状が出現したが、さばアレルギーだと思い込んでいる人、生魚を食べてアニサキス食中毒を起こした経験から魚類アレルギーだと思い込んでいる人など、正確な診断を受けずに食物アレルギーだと思い込んで、特定の食物を除去している人が非常に多いといわれている。
このように自己判断で特定の食物を除去しているケースのうち、OFCを含む正しい診断基準で食物アレルギーと診断されるのはごく一部だという。海老澤氏は「食物を摂取した後に何らかの反応があったからといって、食物アレルギーと思い込み食物を除去してしまうのではなく、専門施設で正確な診断を受けることが非常に重要です」と話す。インターネットなどで知り得た誤った情報を信じ込むのではなく、信頼性が高く正確な情報を得ていくようにしてほしいとのことだ。
part2では、「食物アレルギーの服薬指導のポイント」について解説します。