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薬歴の達人

アセスメントの更新

2020年1月号
アセスメントの更新の画像
薬剤師の対人業務が推進される現在、患者フォローアップのための資料として、薬歴の意義がより高まっている。しかし、実臨床では、患者対応の時間を十分に割くことが難しい場面も多く、的確な薬歴が常に作成されているわけではないというのが現実だろう。服薬ケア研究会では、より良い薬歴を書くためのセミナー「薬歴の達人」を月1回程度のペースで開催している。

早く正確なアセスメントのために、「現状をどう考え、捉えたのか」が分かるためのSとOを集める

「即位礼正殿の儀」が行われた10月22日。東京都荒川区の会場を訪れると、冷たい雨風が吹き荒ぶ祝日にも関わらず、30人ばかりの薬剤師が服薬ケア研究会会頭 岡村祐聡氏の講義を待ち構えていた(本セミナーはwebによる中継が実施されており、この日は会場外にも20名弱の受講者がオンライン中継で参加していた)。
今回のテーマは『アセスメントの更新』。講義冒頭に、岡村氏は、実臨床でのアセスメントが難しく感じる理由として、相手にあまり関心を寄せていない、話す内容が雑談ばかりで医療行為になっていない、指導できそうなことが見つかると何も考えずにすぐに指導を初めてしまう(まだアセスメントしていない段階で反射的に指導を始めてしまう)、プロブレムを意識していないため指導の中身がバラバラ(一言で言い表せない)、といった問題点を挙げた。すばやく、かつ正確なアセスメントを行うためには、アセスメントの言語化に慣れる必要があるという。本講義はそのための練習だ。
薬歴で使用されるSOAPについて、岡村氏は「情報がS(Subjective Data)とO(Objective Data)のどちらなのか議論になることがありますが、それはあまり重要ではありません。重要なのはA(Assessment)です。」と話す。アセスメントは『目の前の事柄を(SやOから)どう考えたのか。現状をどのように捉えたのか(=プロブレム)』であり、しっかりとアセスメントするためには、それに見合うSやOを集めることが重要、とのことだ。

岡村氏の講義を熱心に聴く受講者。

岡村氏の講義を熱心に聴く受講者。の画像

実臨床では、SとOを集めつつもその都度アセスメントを行い更新していく

アセスメントになる情報(S、O)を集めたら、同じアセスメントを導く情報をいくつかのグループにまとめる。これを「クラスタリング」と呼ぶ。ただし、実際には、ひととおり情報を入手した後にクラスタリングやアセスメントを実施するという順序は好ましくない。アセスメントしてみないことには、追加入手する情報の要不要が判断できないからだ。実臨床では患者の対応時間にも限界があるためタイムアップとなり、情報を集めるにとどまり、結果的にアセスメントしないまま服薬指導を終えることになってしまう。
これを防ぐためには、患者との話の中で患者から情報を入手次第、都度クラスタリングを行い、アセスメントも都度修正する必要がある。その都度アセスメントするので、情報がもう十分集まったのか、どんな情報が足りないのか、など「どこまで情報を入手すればプロブレムが確定するのか」がわかってくる。

「質問➡アセスメント」の繰り返し的を絞った指導が効果的

まず、患者と話す前段階、すなわち、かかりつけ患者では薬歴確認が最初の情報入手であるが、この段階で仮にもアセスメントを実施しプロブレムを推定しておくと、その後のアセスメントの更新は円滑に進行する。
次に、患者に質問をしていく段階。先ほどの薬歴に最初の質問で得られた情報を加えて、アセスメントを考える。情報量がまだ十分ではないため、この段階ではアセスメントはまだ流動的な内容だ。そして次の質問をする。そこまでで得られた情報でアセスメントを再考し、更新していく。「質問する➡その時点のアセスメントを考える」を繰り返し、確固たるアセスメントとプロブレムを導く。
ここで注意したいのが、プロブレムはできる限り一つに絞るという点だ。特に、慢性疾患の患者やかかりつけ患者の場合、いくつもの内容を漫然と指導しがち。岡村氏曰く、薬剤師の多くは一度の機会に7~8つもの服薬指導を実施しているが、それら全てを患者が理解し帰っていくことはまず期待できない。気づいた点から反射的に指導を始めるのではなく、アセスメントした上で的を絞った指導が効果的とのことだ。

アセスメント更新の例

本セミナーは、講義の後、ワークショップの時間が設定されており、毎回みっちりとワークを実施して学ぶ講座である。この日も、「アセスメントの更新」についてのワークショップが始まった。
まず講師の岡村氏がお手本を示した。基本情報として、患者の年齢、性別、身長、体重、BMI、処方内容、これまでの治療経緯、検査値の推移(表1a)。これに関して、気づいた点をリストアップしていく(これを服薬ケア研究会では「気付きリスト」という)。この症例の場合、「なぜ今日からシタグリプチンリン酸塩水和物が追加になったのか」、「これまでDM薬は飲んでいなかったのだが、食事や運動など、何か生活改善はしていたのか」、「もし生活改善していたとして、それはできていた?」、「もし生活改善していたとして、今回シタグリプチンリン酸塩水和物が出た理由は?」、「アトルバスタチンの効果は出ているのか」、「普段どんなものを食べているのか?」、「家族構成は? 両親と一緒に住んでいるのか?」、「ご両親は健在か?健在なら、どんな食事をしているのか?」など。  この時点では、表1bのように、アセスメントは限定的でプラン(P)も不明だ。追加の情報1として、表2aが提示された。すると、表2bのような、アセスメントとプランが考えられる。このように、情報の追加に伴ってアセスメントを更新していくと、最終的に表3のようなSOAP出来上がる。なお、SOAPには必ず、どのようなプロブレムについて着目したのかを明確にするために、表3の上部のようにプロブレムネームを付ける必要がある。

表1  アセスメントの更新例① 基本情報とアセスメント

a 基本情報
53歳女性 身長158cm 体重55kg
【今回の処方内容】
  • アトルバスタチン5mg 1錠分1 夕食後
  • シタグリプチンリン酸塩水和物50mg 1錠分1 朝食後

    14日分

  • シタグリプチンリン酸塩水和物が今回から処方されている。
  • 1年ほど前閉経してから血圧、LDL値が上がり、半年前からアトルバスタチンを服用。
  • 薬を服用前のLDL値は156。HbA1c6.1、空腹時血糖125~135、Bp130/89(以前の薬歴より)。
  • 家族歴:父は糖尿病、母は高血圧、脂質異常症(初診時の問診票より)。
b この時点のアセスメントとプラン
A これまでDM薬が出ていなかったということは、A1cが6.1ということもあり、生活改善の指導を受けていたと推測できるが、うまくいっていなくて、シタグリプチンリン酸塩水和物処方となったのではないか。
食事や運動など、具体的に聞いて、改善点があれば指導していきたい。
P 不明。

服薬ケア研究会ご提供

表2  アセスメントの更新例② 追加情報とアセスメント

a 追加情報1
S 先生から「やはり糖尿の薬も飲んでください」と言われちゃった!
O 以前から血糖値が高かったが、今日から薬を飲むことになった。
今まで食事を頑張っていたが、もう薬を飲まないとダメだと医者に言われた。
もともとコレステロール値が高かったのでアトルバスタチンを飲んでいたが、薬が追加になって嫌な気分。
b この時点のアセスメントとプラン
A 薬を飲みたくない様子。シタグリプチンリン酸塩水和物をきちんと飲むかどうか心配。
今まで食事を頑張ってきたというが、何をどう頑張ってきたのか。頑張り方が違っていたのかもしれない。
また、食事だけでなく運動は取り入れているのか、薬を飲みたくないのなら、運動もした方がよいのではないか。
P 筋肉をつけると糖が代謝されて、筋肉があることによって血糖が下がっていくはずです。
最終的には薬を一時中断しようという判断になるかもしれません。
ですので、食事も頑張りながら、筋トレもしてみませんか?
もしかすると薬を飲まなくて良くなるかもしれませんよ。

服薬ケア研究会ご提供

表3  アセスメントの更新例③ 最終的なSOAP

(プロブレム)糖尿病への恐怖心から服薬を嫌がっている

S 先生から「やはり糖尿の薬も飲んでください」と言われちゃった!こんなに頑張ってるのに、どんどん薬が増えちゃうのかなぁ。一生飲み続けないといけないんでしょ?低血糖とか怖いんでしょ?
O 今日からシタグリプチンリン酸塩水和物追加。HbA1c:6.1➡6.5。今まで食事を頑張っていたが、もう薬を飲まないとダメだと医者に言われた。薬が増えたことをかなり嫌がっている様子。
父が糖尿病で、低血糖で救急車で運ばれたことがあった。父親の様子を知っているので、自分が同じ糖尿病でどんどん悪くなっていくかもしれないことに恐怖を感じているようだ。
A A1cは以前より高くなっている。ただ、まだ境界なので、コントロールがうまくいけば合併症の危険は防ぐことができるだろう。
処方薬はDPP-4阻害薬なので、単独ならば低血糖の心配はほとんどないことを理解してもらえれば、恐怖は和らぐのではないか。
P 糖尿病には遺伝的要因も大きく関連します。お父様も糖尿であったならば、食事だけでは改善は難しいかもしれません。先生の言うようにお薬をきちんと飲むことが良いと思います。このお薬単独では低血糖は起こりませんので心配いりません。まだA1cが6.5でそんなにひどくないので、今コントロールをきちんとすることが大切です。

服薬ケア研究会ご提供

ワークショップの様子。基本情報や追加情報が渡されるたびに、その時点のアセスメントを詳細に話し合い、紙に書きだしていく。

服薬ケア研究会 ワークショップのの画像

アセスメント更新の練習 情報ごとにアセスメントを考えて

いよいよ実践タイム。各グループに基本情報が配られた。その時点でまず気付きリストを記入し、とりあえずのアセスメントが検討されていく。終わったグループには岡村氏が追加情報を提供し、その情報をもとにグループで話し合ってアセスメントとプランが更新されていった。これが繰り返され、セミナーの終盤には、最終的なアセスメントとプランが各グループから発表された。
ここでは、そのグループのひとつに課せられたものと全く同じ模擬症例を紹介する。読者のみなさんにも、「アセスメントの更新」にぜひチャレンジいただきたい(表4)。

表4  アセスメントの更新にチャレンジ!

基本情報 48歳女性 専業主婦
身長155cm 体重59kg BMI24.6

【今回の処方内容】

  • プラバスタチン10mg 1錠 夕食後
  • イコサペント酸エチル粒状カプセル
    600mg3包毎食直後
  • ゾルピデム5mg 1錠 寝る前
  • 30日分
  • 夫は50歳営業。帰宅は22時過ぎ。
  • 息子は18歳。浪人中。
気付き
リスト
(チャレンジしてみてください)
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
追加の情報① S 最初は布団に入っても
なかなか寝付けなくて。
先生にお話ししたら
「お薬出しておきますね」って。
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O 寝付くまでに1時間以上布団の中でうだうだしている。
追加の情報② S 昼間もだるくって、ついソファでうとうとしちゃうこともあるわね。 この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O よく聞くと、ほぼ毎日昼寝をしているらしい。大体1時間から2時間くらい寝ている。
追加の情報③ S 「コレステロールの薬増やしておきますね」って言われたんだけど…。
倍に増えたの?私そんなに悪いの?薬はちゃんと飲んでいたわよ。
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O 本日、プラバスタチン5mgから10mgに増量。
薬はちゃんと飲んでいるのに、値が上がってしまうことに不満な様子。
追加の情報④ S 1年くらい前までは、検査値もお薬のおかげで良かったし、
体調も良くて元気だったのに、最近はなんか調子悪いわね。
年かしら?
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O ここ1年くらいで体調に変化があった様子。
追加の情報⑤ S 生理もあったりなかったり、不順ではあるけど、
若いときも多少そんな感じだったし、そんなことよくあるでしょ?
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O 生理不順の傾向はあるようだ。
よく話を聞くと、不順だったのは思春期のころで、
結婚してからは出産後も含めて、不順ではなかったようだ。
追加の情報⑥ S (ちょっと言いにくそうに)
ねえ…更年期…って何歳くらいからなの?周りは40代でも
更年期っていう人いるしよくわからないわよね。
私まだ48歳なんだけど、まさか更年期じゃないわよね?
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O 「更年期」という言葉にナーバスになっているようだ。
追加の情報⑦ S 息子が浪人中で神経使うわ。
今年受かったところがあったのに「行かない」っていうんだから。
この時点の
アセスメント
(チャレンジしてみてください)
O 息子の受験でストレスを感じている様子。

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