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薬歴の達人

頭の中をPOSにするワーク

2020年6月号
頭の中をPOSにするワークの画像
全9回の「薬歴の達人」シリーズの最終回にあたるこの日のテーマは、「頭の中をPOSにするワーク」。新型コロナウイルス感染拡大防止のための自粛が、社会的に始まろうとしていた、2月23日。オンラインの受講も積極的に勧められ、現地でも全員がマスク着用で厳重な体制の中、熱心な講義とワークショップが行われた。

プロブレムを意識し早期発見後に適切なケアをプランニング

講義は、服薬指導においてはプロブレム(アセスメント)を明確に意識することが重要、と始まった。O情報は、アセスメントの根拠となる情報(アセスメントが正しいということを示す証拠)で、通常は患者から自発的に話してくれる内容ではないという。そのため、O情報をしっかりと薬剤師側から聴取する姿勢が重要とのことだ。
患者との会話の中では、患者のペースに翻弄されるのではなく、自分が何を意図しどのような情報を聞き出そうとしているのか明確に意識する。また、過去の回であったように、多くの点について一度に指導しようとしても、患者が内容を消化できないので、1回の指導機会で多くのプロブレムは扱わない。この観点から、できる限り早いタイミングでプロブレムを絞り、そのプロブレムのみを掘り下げていき集中することが重要という。
今回の講義で紹介されたのは、服薬ケア研究会で開発された「服薬ケアステップ」。薬剤師のケア効果向上のための技術として患者応対の手順を定めたもので、頭の中をPOS(Problem Oriented System)にする方法論である。プロブレムを見つけ、その解決のための適切なケアをプランニングする。この方法では、患者とのやり取りが今どの段階なのか、常に考えながらケアを組み立てていく。

7つの段階から成る「服薬ケアステップ」

服薬ケアステップは、①質問のジャブ、②気づき・掘り下げ、③プロブレムの推定(絞り込み)、④情報の追加と確認、⑤プロブレムの確定、⑥ケアの実施、⑦効果の確認、という全部で7段階がある(表1)。

表1 服薬ケアステップ
①質問のジャブ
  • プロブレムを探すヒントを求めて、試行錯誤する段階
  • 会話が成り立ち、信頼感、親近感を得ることも目的の一部である
  • お天気の話題、季節の話題など、日常的なことから入ってもよい
②気づき・掘り下げ
  • ジャブによって交わされる会話の中で、薬剤師として「あれっ?」と思うところ(気付きポイント)があったら、
    そこを掘り下げて、もっと詳しく話を聞いてみる
  • ここでは些細なことであっても「あれっ?」と気付く力が重要である
  • 掘り下げてみて、プロブレムとして取り上げるようなことでなければ、またジャブに戻る
  • プロブレムとして取り上げた方が良いと思えれば、次の「プロブレムの推定」に進む
③プロブレムの推定
(絞り込み)
  • いろいろ掘り下げて聞いてみて、ある程度「この問題はプロブレムとして取り上げた方が良いだろう」と思える段階
  • プロブレムをある程度絞り込んだ段階
  • たとえ「間違いなくプロブレムである」と思えることであっても、必ずここは「推定」として、
    次に確認のステップを入れることが大切
④情報の追加と確認
  • 最も大切な確認のステップ
  • 必要な情報を質問して追加しながら確認する
  • 絞り込んだプロブレムに対して、足りない情報を補足して「これは間違いなくプロブレムとして
    取り上げなければならない」と確信が持てるまで続ける
  • 薬剤師側の都合だけでなく、患者さんの感情、意識に合わせて「今最も適切なケアであるかどうか」を確認する
⑤プロブレムの確定
  • 間違いなくプロブレムであると確信を持てた段階
  • 頭の中をPOSにして、SOAP分析を行ない、必要なSとOが揃い、アセスメントが固まった時点で
    プロブレムが確定したと言える
  • アセスメントが固まった時点では、プランもほぼ立っているはず
⑥ケアの実施
  • 実際にケアを実施する段階
  • 薬学的にどうしても必要な指導であるにも関わらず、患者さんにそれを受け取るための心の準備が
    できていない場合には、受け取る準備からこちらですることが必要
    - 患者さんのニーズを先に満たす
    - これから大切な話をする旨を必ず告げる(宣言)
⑦効果の確認
  • ケアはやりっぱなしにせず、目的どおりきちんと患者さんに伝わったかどうかを、必ず確認する
  • 行動変容を促すようなケアを実施した場合には、「次回、結果を教えてください」というように、
    次回確認する約束をすることによって、動機付けをさらに後押しする効果もある

服薬ケア研究会提供

服薬ケア研究会会頭の岡村祐聡氏曰く、実臨床では③の段階で「プロブレムが決まった」と早合点し、④と⑤を飛ばしてすぐに指導を始めるケースが多い。ここで指導を始めた場合、O情報を収集せずに指導するので、アセスメント(A)が曖昧となり、薬歴を書く段階で時間がかかる。たとえ、③で「間違いなくプロブレムである」と思える状況であっても、それはあくまで「推定」としてとらえ、次の情報の追加と確認を行うが大切です」と、④の作業の重要性を強調する。
また、岡村氏は、④は②と混同しやすいことも付け加えた。特に注意すべきはおしゃべりな患者が相手の場合。そのおしゃべりに付き合いながらも、②と④のいずれの段階にいるのかを意識し、注意深く進めていく必要がある。

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