国際化する医療現場に向けて薬剤師も備える外国人患者対応
訪日・在日外国人数は2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、更に増加すると見込まれ、政府は医療通訳等が配置された外国人患者受入拠点病院の整備などの対策を進めている。シンポジウム「チーム医療における外国人患者の円滑な受入れに向けて」では、外国人患者も安心・安全な治療を受けるための薬剤師の役割について意見を交わした。
まず、外国人患者受入れ医療機関認証制度推進協議会の岩﨑榮氏が、「外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)」について講演。JMIPは医療費の請求や支払い体制、多言語での院内表示や患者応対、宗教的な食事・慣習への対応など99の項目で施設を評価している。
JMIP認定施設である湘南鎌倉総合病院薬剤部の仲鉢英夫氏は、院内の国際医療支援室の取組みを紹介した。支援室は外国人患者への治療前の費用説明や保険の紹介、院外処方の際には保険薬局まで随行することもあるという。
くすりの適正使用協議会とともに英語版の副作用用語辞典の更新を進めている慈恵医大病院薬剤部の北村正樹氏は、現状の課題と今後の展開を報告した。くすりの適正使用協議会は「くすりのしおり®」英語版を公開しているが、日本では患者向けに提供できる英語の医薬品情報は少ない。北村氏は、「副作用用語辞典を更新し、ピクトグラム等を加えるなどより現場が使いやすいものを作成したい」と語った。
最後の質疑応答の場で、岩﨑氏は「外国人患者の受入れには院内全体が連携して取組まなければ難しい。患者はやがて院外の薬局へと繋がっていく。病院と同じく地域の薬局も外国人患者への対応が求められる」とまとめた。
日本薬学会第137年会が開催された仙台国際センター
幅広い分野の最新の研究成果を報告した
在宅の心不全治療と薬剤師 患者中心の多職種連携を目指して
心不全は高齢者に多い疾患だが、在宅で憎悪することが多いという。治療は薬物治療が中心になり、患者の治療とQOLをともに考える存在となる薬剤師の役割は大きい。シンポジウム「薬剤師が取組む心不全の在宅医療―地域で支える心不全包括ケアの推進―」では、在宅現場における多職種連携への取組みと薬剤師の役割について、様々な視点から考えた。
まず大学の立場から、千葉大学大学院の高野博之氏は、「多職種による包括的疾病介入プログラム」は再入院の減少に有効と紹介。また在宅に強い薬剤師育成のため、薬剤師向けのフィジカルアセスメントや在宅医療の体験実習も行っている。
次に病院と保険薬局、それぞれの薬剤師の取組みが報告された。兵庫県立尼崎総合医療センターの寺崎展幸氏は、「薬薬連携」の強化は入院期間減少に繋がるという。患者との関係構築や治療に必要な情報の確認等のため、訪問薬剤師も加えた退院時共同指導を実施。他の在宅関係者と治療への認識を共有することにも繋がったという。地域の薬局薬剤師の視点から講演したメディスンショップ蘇我薬局の雜賀匡史氏は、薬剤師が在宅医療に介入することは介護者をフォローする上でも重要という。また、患者の病状がなかなか改善しない場合は、積極的に専門医へ受診勧奨することが必要だと語った。
続いて、病院とクリニックの医師が講演した。北信総合病院循環器内科の渡辺徳氏は「パス・シート」を紹介。「心不全連携パス・シート」を用いて病院とかかりつけ医間で治療計画と診療情報を共有し、生活面等の情報は「包括的メディカルスタッフパスシート」を活用する。最後に講演したゆみのハートクリニックの弓野大氏は、「薬剤師は患者のトータルマネジメントとして、心不全の病期に応じた治療とケアを考え、必要な医療を考えて欲しい」と語った。
安全性情報を正しく伝えるためのリスクコミュニケーションとは
シンポジウム「リスク・ベネフィットコミュニケーションの新たな展開―安全性情報が十分に伝達され理解されるために―」では、医薬品の適正使用に重要なリスクコミュニケーションについて、薬剤師や製薬会社が取組みを報告した。
医薬品のベネフィットとリスクのバランスには患者への十分なコミュニケーションが必要であり、薬物治療では医療関係者と患者が治療方針の決定に際しエビデンスに基づく情報を共有することが重要となる。河北総合病院では、病診薬連携のツールとして電子お薬手帳を活用し、患者に必要な医薬品情報を提供している。患者が携帯電話で常に医薬品情報を確認できるためリスクの最小化に繋がると期待されている。また患者が薬を服用したときに気づいたことを記録させ、患者のリスクに対する意識を高めている。
製薬企業の立場からは中外製薬の竹本信也氏が取組みを報告した。副作用の早期発見には市販直後の安全対策がカギとなる。このため竹本氏は製造業者によるリスク最小化活動をまとめた医薬品リスク管理計画(RMP)の活用が求められると指摘。「副作用モニタリングに基づく処方提案などチーム医療における薬剤師の役割が重要」と語った。
往診前に薬剤師が患者宅を訪問 麻薬在庫の検索システムを構築
シンポジウム「在宅医療への薬剤師の参画推進に向けて」では在宅医療の実践例を共有した。
北九州市に拠点を置くサンキュードラッグは、医師の往診の1~2日前に薬剤師が患者宅を訪問し、服薬状況や患者の要望を聞き取って医師に情報提供している。医師は残薬確認などにかかる時間を短縮でき、薬剤師は処方変更後の変化を医師より先に把握して薬学的な知見から処方提案できるようになったという。往診前訪問の実施後、処方提案の採用率は80%に達している。同薬局の高橋俊輔氏は「薬物を安全に使用し、薬効を十分に発揮するためには薬物治療の結果に薬剤師が責任をもつことが大切」と語った。
一方、長野県佐久市では、佐久総合病院が中心となり在宅医療推進委員会を立ち上げ、在宅医療への薬局の参画を支援している。地域の全保険薬局を調査し、訪問応需可能な薬局や訪問可能な範囲と時間をまとめた在宅医療支援薬局マップを作成。薬局ごとの麻薬在庫品目を検索・閲覧できるシステムも構築・運用している。同院薬剤部の青木悠氏は「研修会などを通じて多職種連携が進み、薬局に訪問依頼する医療機関と在宅医療に参画する薬局の双方が増加した」と成果を語った。
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