CLOSE-UP 1 在宅診療の実際とアドバンス・ケア・プラニング
訪問診療に特化した四街道まごころクリニックの院長梅野福太郎氏は、在宅医療の実際やACP(アドバンス・ケア・プラニング)について紹介した。
四街道まごころクリニックは、各種治療・薬剤処方のほか、血液検査や尿検査、超音波検査の診察などを在宅で行っている。具体的な処置としては、在宅酸素療法、点滴(維持輸液・高カロリー輸液・オピオイドの持続注)、C Vポート管理、ストーマ管理、気管切開、胃瘻栄養管理、エコー下の胸腔・腹腔穿刺、皮下膿瘍の切開、褥瘡治療などである。患者層は、2015年の開業当初は要介護3以上の割合が約2/3であったが、現在では要介護3以上は半数程度で、要支援1~2や介護1~2が残り半数を占める。独居や認知症などにより訪問診療を必要とするケースが増加しているという。
同施設では、在宅で年間約60名の看取りを行っていることもあり、講演後半にはACPが紹介された。ACPは、将来的な意思決定能力低下に備えた、終末期の医療や介護の方向性や、意思決定の代理者などについての話し合いを指す。「人生会議」という愛称がつけられ、2018年4月の報酬改定で、訪問診療の在宅ターミナルケア加算関連で要件化されている。同氏は、「ACPの本質は、人工呼吸器や心臓マッサージ実施の是非を問うことではなく、本人と家族などの周囲で価値観・死生観を探りながら共有すること。」と話す。主治医をはじめ医療関係者も含めて終末期に関わる全ての人と十分に議論すること自体が重要であり、時に何も決まらないこともあるが、それでもかまわない、話し合うことに意味がある、という。また、「終末期の正解はなく、考え方も患者個々で異なる。決断が揺らぎ、内容が変わっても良いことを患者や家族に伝えるのも大切」と解説する。死去後に「これで良かったですね」といえるようプロセスを踏むことがACPの意義だ。同氏は、ACPを実施する上での留意点として、安楽死は想定していないこと、ACPを開始する際はタイミングには注意し「縁起でもないこと」として、患者や家族に対しては謙虚かつ慎重に行うこと、多職種連携の中で各々の職種に応じた役割をもとに皆が自分ごととして関わることを挙げた。
2018年3月に、厚生労働省から「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が発表されており、ACP実施の際は参照しておきたい。また、ACPを円滑に行うためのツールとして緩和ケア在宅医が開発した「もしバナゲーム」も有用だ。
本シンポジウムのディスカッションでは、多職種間の情報共有についての質問があり、梅野氏は「Chatwork」、森氏は「バイタルリンク」というICTのコミュニケーショ ンツールを用いて、それぞれ多職種で連携していると説明した。
また、在宅訪問事業の難しさについても質問があった。梅野氏は、地域の病院やケアマネージャーなどのヨコのつながりがない場合、「在宅を開始するハードルが上がる」と指摘した。山﨑氏は、在宅の看取りの際「もし病院でケアをしていたらもっと長く生きられたのではないか」と患者の家族が思うことがないようにしっかりと対応しなければならない」と話した。森氏は、オピオイドの処方意図を読み解けずに処方した場合に「服用のタイミングが不適切になるリスクがある」と話し、訪問時の処方状況の速やかな確認が重要と説明した。
CLOSE-UP 2 薬局の在宅訪問への挑戦
本シンポジウムでは、梅野氏の基調講演、千葉県のふたば訪問クリニックの院長山﨑恵一氏による在宅医の役割や多…