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学会クローズアップ

服薬ケア研究会第9回大会

2019年11月号
2019年9月15日〜16日に、服薬ケア研究会第9回大会(大会長:みずき薬局四街道店 服薬ケア認定薬剤師 道中惠巳氏)が、千葉県船橋市の東邦大学薬学部で開催された。大会のテーマは「私たちのゴールは、患者さんの笑顔です。~笑顔を引き出す医療を目指して~」。在宅医療や緩和ケアについて、薬剤師、看護師、医師、マッサージ師、鍼灸師から様々な講演がなされた。今回は、在宅医や服薬ケア認定薬剤師によるシンポジウム「人生の最終段階を笑顔で迎えよう」の内容を紹介する。

CLOSE-UP 1 在宅診療の実際とアドバンス・ケア・プラニング

訪問診療に特化した四街道まごころクリニックの院長梅野福太郎氏は、在宅医療の実際やACP(アドバンス・ケア・プラニング)について紹介した。
四街道まごころクリニックは、各種治療・薬剤処方のほか、血液検査や尿検査、超音波検査の診察などを在宅で行っている。具体的な処置としては、在宅酸素療法、点滴(維持輸液・高カロリー輸液・オピオイドの持続注)、C Vポート管理、ストーマ管理、気管切開、胃瘻栄養管理、エコー下の胸腔・腹腔穿刺、皮下膿瘍の切開、褥瘡治療などである。患者層は、2015年の開業当初は要介護3以上の割合が約2/3であったが、現在では要介護3以上は半数程度で、要支援1~2や介護1~2が残り半数を占める。独居や認知症などにより訪問診療を必要とするケースが増加しているという。
同施設では、在宅で年間約60名の看取りを行っていることもあり、講演後半にはACPが紹介された。ACPは、将来的な意思決定能力低下に備えた、終末期の医療や介護の方向性や、意思決定の代理者などについての話し合いを指す。「人生会議」という愛称がつけられ、2018年4月の報酬改定で、訪問診療の在宅ターミナルケア加算関連で要件化されている。同氏は、「ACPの本質は、人工呼吸器や心臓マッサージ実施の是非を問うことではなく、本人と家族などの周囲で価値観・死生観を探りながら共有すること。」と話す。主治医をはじめ医療関係者も含めて終末期に関わる全ての人と十分に議論すること自体が重要であり、時に何も決まらないこともあるが、それでもかまわない、話し合うことに意味がある、という。また、「終末期の正解はなく、考え方も患者個々で異なる。決断が揺らぎ、内容が変わっても良いことを患者や家族に伝えるのも大切」と解説する。死去後に「これで良かったですね」といえるようプロセスを踏むことがACPの意義だ。同氏は、ACPを実施する上での留意点として、安楽死は想定していないこと、ACPを開始する際はタイミングには注意し「縁起でもないこと」として、患者や家族に対しては謙虚かつ慎重に行うこと、多職種連携の中で各々の職種に応じた役割をもとに皆が自分ごととして関わることを挙げた。
2018年3月に、厚生労働省から「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が発表されており、ACP実施の際は参照しておきたい。また、ACPを円滑に行うためのツールとして緩和ケア在宅医が開発した「もしバナゲーム」も有用だ。

服薬ケア研究会第9回大会の画像

本シンポジウムのディスカッションでは、多職種間の情報共有についての質問があり、梅野氏は「Chatwork」、森氏は「バイタルリンク」というICTのコミュニケーショ ンツールを用いて、それぞれ多職種で連携していると説明した。
また、在宅訪問事業の難しさについても質問があった。梅野氏は、地域の病院やケアマネージャーなどのヨコのつながりがない場合、「在宅を開始するハードルが上がる」と指摘した。山﨑氏は、在宅の看取りの際「もし病院でケアをしていたらもっと長く生きられたのではないか」と患者の家族が思うことがないようにしっかりと対応しなければならない」と話した。森氏は、オピオイドの処方意図を読み解けずに処方した場合に「服用のタイミングが不適切になるリスクがある」と話し、訪問時の処方状況の速やかな確認が重要と説明した。

CLOSE-UP 2 薬局の在宅訪問への挑戦

本シンポジウムでは、梅野氏の基調講演、千葉県のふたば訪問クリニックの院長山﨑恵一氏による在宅医の役割や多職種連携の紹介、同県の山王病院看護師鶴田育余氏による緩和ケア病棟での業務紹介のほかに、香川県のえむ調剤薬局の薬剤師森久美子氏が在宅訪問事業を紹介した。
えむ調剤薬局は在宅医療に関わり始めて7年になる。開局当初は在宅に関わる機会が全くなかったが、在宅で地域とつながりたいことを周知し続けた結果、「両親が認知症でしっかりと服薬できているのか心配だ」と知人の両親を紹介してもらい、在宅訪問事業がスタートした。その後、患者の受診に同行するなど丁寧なフォローを重ねることで、口コミで徐々に在宅訪問数が増加した。現在では3名の薬剤師で約40名の在宅患者を分担し訪問している。
薬剤師がいない在宅医療の現場では金槌が転がっていることもあった、と森氏は話す。内服できない錠剤を半分に割ったり、溶けにくい薬剤を胃瘻や鼻腔チューブで服用するためだ。そこで、同薬局では、看護師や介護士とともに合同研修会を企画し、緊急時の人工呼吸器対応や痰の吸引法を教わるとともに、簡易懸濁法について指導した。こうした試みは、スキル習得だけでなく相互理解という点でも多職種連携に寄与しているという。森氏は、介護士と連携し独居の全盲患者に対して在宅での服薬指導を行ったことも紹介した。夜服用の薬剤はパジャマの胸のポケットに、朝服用の薬剤は布団の下に、それぞれ一包化してセットし、正確な服用につなげる。また、同薬局では数年前から薬剤師会の無菌調剤室を借りて高カロリー輸液の混合調剤を実施していたが、最近は薬局内に無菌調剤室を導入したという。そのほかにも、医師の症例検討会で緩和ケアに関する症例を報告したり、在宅医療コーディネーターの資格を取得したりと、精力的な在宅訪問活動をみせる森氏。在宅では、薬剤の管理や説明だけでなく、患者さんが語る「人生の物語」に耳を傾けることも重要だと話した。

本大会では、特別企画として、最新の薬歴システムや調剤機器、一包化アイテムなどを製造・販売する企業 が説明や実演を行った。参加者は8グループに分けられ8社の企業展示 を順番に回るという段取りが組まれ たため、90分間の時間内に全ての企 業の説明を聞くことができた。
服薬ケア研究会第9回大会の画像2

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