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特集

薬剤師は新たな添付文書をどう読み解き、活用するか

2019年8月号
薬剤師は新たな添付文書をどう読み解き、活用するかの画像1
2017年6月、医療用医薬品添付文書の記載要領が20年ぶりに改正され、2019年4月1日から施行されました。今後順次、新記載要領に基づく添付文書が登場することになりますが、薬剤師として新様式の添付文書に対応し、医療現場で活かすことができるか不安との声も多く聞かれます。本記事Part1では、独立行政法人 医薬品医療機器 総合機構(PMDA)医薬品安全対策第二部次長の鬼山幸生氏に添付文書の新記載要領のポイント、Part2では虎の門病院 薬剤部長・治験事務局長の林 昌洋氏に薬剤師としての活用法について伺いました。

part1 改正の狙いとそのポイント

新たな添付文書の記載要領はどのように改正され、その狙いはどこにあるのか?
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医薬品安全対策第二部次長の鬼山幸生氏に改正のポイントと狙い、活用時の留意点などを聞きました。

薬剤師は新たな添付文書をどう読み解き、活用するかの画像2

改正に至る経緯・背景と目的 20年で大きく変わった医療環境

医療用医薬品の添付文書は、医薬品医療機器等法の規定に基づき、医薬関係者に対して必要な情報を提供する目的で、医薬品の製造販売業者が作成するものです。従来の添付文書は、1997年(平成9年)に定められた「医療用医薬品添付文書の記載要領について」および 「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」に基づいて作られています。今回の改正で、20年ぶりに新様式の添付文書が登場することになります。
新様式の添付文書については、すべての医薬品が一斉に変更されるというわけではなく、2024年3月31日まで5年間の経過措置期間が設けられており、それまでに順次移行すればよいことになっています。その間は旧様式の添付文書と新様式の添付文書が混在することになり、医療現場での混乱も予想されています。
今回の改正の背景には、近年、医療を取り巻く環境が大きく変化したことがあると話すのは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)医薬品安全対策第二部次長の鬼山幸生氏です。
「IT技術の発展によって医薬品情報へのアクセス方法が多様化し、医療そのものも大きく進歩しました。日本社会の高齢化も進み、国民の皆様の医薬品への意識も変化しています。多様なユーザーのニーズに対応して、よりわかりやすい添付文書に改正してはどうかと、2008年(平成20年)ごろから変更を検討し始め、厚生労働科学研究事業を約5年間続けてきました」
その研究事業である、医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「医療用医薬品の使用上の注意の在り方に関する研究及び記載要領に関する研究」(研究代表者:佐藤信範 千葉大学大学院薬学研究院教授)では、従来の添付文書に対して全国の医師・薬剤師にアンケート調査も行っています。
それによると、医療用医薬品の添付文書は、大多数の医師・薬剤師が「重要」であるとしているものの、承認条件の存在を認知していない、重複する部分が多い、画一的な情報で役に立たない、「原則禁忌」は使って良いのか悪いのかわからない、「慎重投与」がわかりにくいなどの問題点が多く指摘されました。そうした指摘も踏まえて改正されたのが、今回の添付文書の記載要領です。

おもな改正内容 様式の変更と新設項目に注目

今回のおもな改正ポイントとして挙げられているのは、次の5点です(図1)。

(1)「原則禁忌」の廃止

前述のアンケート調査で、「原則禁忌」の理解度を調査したところ、医師、薬剤師とも約半数が「原則禁忌は禁忌と同等」と回答する一方、約半数が「原則禁忌は慎重投与・併用注意と同等」と答えるなど、同項への理解にばらつきが見られました。そのため、「原則禁忌」は廃止し、新様式の添付文書では「禁忌」または新設する「特定の背景を有する患者に関する注意」の「合併症・既往歴等のある患者」の項などに記載されます。

(2)「特定の背景を有する患者に関する注意」の新設

禁忌を除く特定の背景を有する患者への注意を集約するため、「特定の背景を有する患者に関する注意」が新設され、同項の下に「合併症・既往歴等のある患者」、「腎機能障害患者」、「肝機能障害患者」、「生殖能を有する者」、「妊婦」、「授乳婦」、「小児等」、「高齢者」の項が新設されます。

(3)「慎重投与」の廃止

禁忌を除く特定の背景を有する患者への注意は、新設の「特定の背景を有する患者に関する注意」の項に集約され、「慎重投与」は廃止されます。

(4)「高齢者への投与」、「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」、「小児等への投与」の廃止

これらも新設の「特定の背景を有する患者に関する注意」の項に集約されます。

(5)項目の通し番号の設定

「警告」以降のすべての項目に固定番号が「1.1」等の形で付与されます。関連項目がある場合は、相互に参照先として項目番号が記載されます。また、新記載要領で記載が定められている事項に該当がない場合は、その項目は欠番となります。「『原則禁忌』がなくなることによって、禁忌の項以外の大半の内容は『特定の背景を有する患者に関する注意』に移行するというイメージを持っていただければよいのではないでしょうか。今回の改正は基本的に、新しいことを記載するというよりも、これまでの内容を 並べ替えて整理することが大きな目的です。記載内容の重複はなるべく避け、よりわかりやすくなるように、記載の様式を変更したとご理解いただければと思います」(鬼山氏)

図1 旧様式と新様式での添付文書の項目比較

旧様式と新様式での添付文書の項目比較の画像

PMDA資料を元に編集部で作成

記載する目安が変わった項目も 妊婦、授乳婦の項で注意したいこと

新記載要領では記載様式の変更が主体で、記載内容はそれほど変わらないのですが、例外もあります。「特定の背景を有する患者に関する注意」の中の「妊婦」と「授乳婦」の項です。記載する目安が若干変わったと、鬼山氏は言います(表1、2)。
「たとえば『妊婦』の項の場合、旧様式の添付文書では、動物実験で催奇形性が認められたら、ほとんどの場合『投与しないこと』などと記載していましたが、新様式の添付文書では薬理学的データなどもう少し客観的なデータが示された医 薬品に対して『投与しないこと』と記載することになりました」
また、授乳婦への薬剤投与に関しては、動物実験で乳汁中に分泌が認められたという結果のみをもって授乳婦への投与を禁忌と設定している医薬品が多い。外用薬でも、授乳婦への使用の可否は、同一有効成分の経口 または経静脈投与による実験結果に基づいて決められています。それはおかしいのではないかと、厚生労働科学研究の中でも指摘されていたと言います。
そこで、授乳婦に関しては、動物実験で乳汁中に分泌が認められた薬剤すべてを禁忌にするのではなく、客観的データから児に対して影響が懸念されるものについては注意喚起をするが、児への影響が不明な場合には、最初から母乳栄養の機会を奪うのではなく、医師等が治療上の有益性とリスクを患者さんや家族へきちんと説明した上で、使うか使わないかを決めるという記載に変更しています。
「母乳に対する考え方は患者さん各々で違いますし、授乳の時期によっても考え方が変わってくるはずです。そのためすべからく禁止にするのは問題です。妊婦さんの場合も、胎児に及ぼす影響が懸念される場合でも、当該影響の内容・程度や、疾患の重篤性、妊娠時期等の状況によっては医薬品を使いたいと判断される場合もあるのではないでしょうか。妊婦、授乳婦の項ではそうした考え方のもとで記載の目安が変更になっています」と鬼山氏は説明します。

表1 「9.5 妊婦」 における注意事項とその目安
「投与しないこと」 以下のいずれかに該当し、かつ、 妊婦の治療上の有益性を考慮しても、投与すべきでないもの。
  • ヒトでの影響が認められるもの。
  • 非臨床試験成績から、ヒトでの影響が懸念されるもの。
「投与しないことが望ましい」
  • 非臨床試験成績から、ヒトでの影響が懸念されており、 妊婦の治療上の有益性を考慮すると、投与が推奨されないもの。
  • 既承認医薬品において【投与しないことが望ましい】と記載されているもの。
「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」
  • 当該医薬品の薬理作用、非臨床試験成績、臨床試験成績等から妊娠、胎児又は出生児への影響が懸念されるが、【投与しないこと】及び【投与しないことが望ましい】のいずれにも当てはまらないもの。
  • 非臨床試験成績等がなく、 妊娠、胎児又は出生児への影響が不明であるもの。
記載なし
  • 非臨床試験で妊娠、胎児及び出生児への影響が認められていないものであって、薬理作用からも影響が懸念されないもの。

PMDA資料を元に編集部で作成

表2 「9.6 授乳婦」 における注意事項とその目安
「授乳を避けさせること」
  • ヒトで哺乳中の児における影響が認められているもの。
  • 薬理作用等から小児への影響が懸念され、ヒトでの児の血漿中濃度又は推定曝露量から、ヒトで哺乳中の児における影響が想定されるもの。
「授乳しないことが望ましい」
  • 非臨床試験又はヒトで乳汁への移行が認められ、かつ薬理作用や曝露量等からヒトで哺乳中の児における影響が懸念されるもの。
「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」
  • 非臨床試験で乳汁への移行が認められるが、薬理作用や曝露量等からはヒトで哺乳中の児における影響が不明であるもの。
  • 非臨床試験等のデータがなく、ヒトで哺乳中の児における影響が不明であるもの。
  • 薬理作用又は非臨床試験での乳汁移行性等から、ヒトで哺乳中の児における影響が懸念されるが、【授乳を避けさせること】及び【授乳しないことが望ましい】のいずれにも当てはまらないもの。
記載なし
  • 非臨床試験で乳汁移行が認められていないものであって、薬理作用から哺乳中の児への影響が懸念されないもの。

PMDA資料を元に編集部で作成

副作用の記載も変化

「副作用」の項の記載も若干変更されました。新様式の添付文書では、旧様式の添付文書に記載のあった、副作用等発現状況の概要を記載しないことになりました(図2)。臨床試験における副作用発現率については、「17.臨床成績」の項に記載されます。
さらに、旧様式の添付文書では個々の副作用につい て「異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと」などの注意喚起が、副作用ごとに記載されていましたが、新様式の添付文書では、「11.副作用」 の項の冒頭で「次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと」とすべての副作用 に対する注意喚起として記載することとし、特別な処置などが必要な場合にのみ、該当する副作用にその内容を記載するようになっています。
「添付文書を見て治療するのは医師や薬剤師ですから、あまり事細かに常識的なことを繰り返し書く必要はないのではないかという判断です」(鬼山氏)

旧様式

【使用上の注意】




4. 副作用 概要

国内のプラセボを対照とした臨床試験において、本剤30~120mg/日を服用した安全性評価対象311例中117例(37.6%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主な副作用は、ほてり9例(2.9%)、乳房緊満9例(2.9%)、嘔気5例(1.6%)、多汗5例(1.6%)、そう痒症5例(1.6%)、下肢痙攣4例(1.3%)であった。なお、プラセボを服用した160例中49例(30.6%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。(承認時)
長期使用に関する特定使用成績調査(観察期間3年間)において、閉経後骨粗鬆症患者6967例中776例(11.1%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主な副作用は、末梢性浮腫56例(0.8%)、ほてり47例(0.7%)、皮膚炎45例(0.6%)、そう痒症35例(0.5%)、嘔気31例(0.4%)であった。(長期使用に関する特定使用成績調査終了時)

(1)重大な副作用

1)重大な副作用(0.2%*):深部静脈血栓症、肺塞栓症、網膜静脈血栓症があらわれることがあるので、下肢の疼痛・浮腫、突然の呼吸困難、息切れ、胸痛、急性視力障害等の症状が認められた場合には投与を中止すること。
*国内臨床試験(治験)311例及び長期使用に関する特定使用成績調査6967例における発現頻度。

2)肝機能障害(頻度不明):AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

(2)その他の副作用

次のような副作用が認められた場合には、必要に応じ、投与中止等の適切な処置を行うこと。

副作用分類 0.1~1%未満注1) 0.1%未満注1) 頻度不明注2)
血液 ヘモグロビン減少、ヘマトクリット減少 血小板数減少  
内分泌・代謝系   血清総蛋白減少、血中アルブミン減少、血清リン減少、
血中Al-P減少、血中カルシウム減少
 
消化器 腹部膨満、嘔気   おくび
肝臓   γ-GTP上昇  
皮膚 皮膚炎、そう痒症    
生殖器   膣分泌物 良性の子宮内腔液増加
乳房 乳房緊満    
その他 下肢痙攣、感覚減退、
末梢性浮腫、ほてり、多汗
表在性血栓性静脈炎、体重増加  
注1)国内臨床試験(治験)及び長期使用に関する特定使用成績調査における発言頻度。
注2)国内及び海外の自発報告等において認められている。
新様式

11.副作用

次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。

11.1重大な副作用

11.1.1静脈血栓塞栓症(頻度不明)
深部静脈血栓症、肺塞栓症、網膜静脈血栓症があらわれることがあるので、下肢の疼痛・浮腫、突然の呼吸困難、息切れ、胸痛、急性視力障害等の症状が認められた場合には投与を中止すること。[2.1、8.1参照]
11.1.2肝機能障害(頻度不明)
AST、ALT、γ-GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害があらわれることがある。

11.2その他の副作用 表のみの記載に

副作用分類 2~5%未満 2%未満 頻度不明
血液     ヘモグロビン減少、ヘマトクリット減少、血小板数減少
内分泌・代謝系   血中Al-P減少 血清総蛋白減少、血中アルブミン減少、
血清リン減少、血中カルシウム減少
消化器   嘔気 腹部膨満、おくび
肝臓     γ-GTP上昇
皮膚 皮膚炎、そう痒症    
生殖器   膣分泌物 良性の子宮内腔液増加
乳房 乳房緊満    
その他 下肢痙攣、ほてり、 多汗 感覚減退、末梢性浮腫、表在性血栓性静脈炎、体重増加



17.臨床成績

17.1有効性及び安全性に関する試験

17.1.1国内第III相試験




臨床試験における副作用発現率
副作用発現頻度は、ラロキシフェン塩酸塩60mg群で34.8%(32/92例)であった。主な副作用は、ほてりが4.3%(4/92例)下肢痙攣、乳房緊満及び皮膚炎が各3.3%(3/92例)であった。
17.1.2外国第III相試験



臨床試験における副作用発現率
有害事象発現頻度は、ラロキシフェン塩酸塩60mg群で92.5%(2365/2557例)、プラセボ群で92.4%(2380/2576例)であった。このうち、重篤な有害事象は、ラロキシフェン塩酸塩60mg群で23.9%(610/2557例)、プラセボ群で25.2%(650/2576例)であった。

エビスタ®錠60mg添付文書[2018年8月改訂(第8版)、2019年4月改訂(第1版)]を参考に編集部で作成

改正スケジュールと課題 後発医薬品の添付文書も変更へ

新記載要領は2019年4月から施行されました。しかしながら、6月上旬現在でまだ40種類ほどしか新様式に移行されていません。新医薬品においては、2019年4月以降承認申請される医薬品はすべて新様式になりますが、それ以前に承認申請されていたものは原則旧様式なので、2019年4月以降に承認された新医薬品がすべて新様式というわけではありません。
鬼山氏によれば、PMDAでは昨年7月から製造販売業者からの新記載要領に関する相談を受けていると言います。「約1万5000種類の添付文書の相談を一度に対応できませんので、薬効群ごとに相談時期を決めて対応しているところです。ただ、新添付文書に変更する時期は製造販売業者側のタイミングなので、同じ有効成分のものが同時期に新様式の添付文書として医療現場に出るというわけではありません」
さらに、後発医薬品の添付文書に対しても「原則として、先発医薬品と同一の記載とすること」とする通知が出ており、今後は後発医薬品も先発医薬品と記載内容はほとんど同じになるのではと考えられています。
「後発医薬品の場合、先発医薬品と剤型が違うことも多い。たとえば先発医薬品は錠剤で、後発医薬品はシロップ剤といった場合です。その場合は飲み方や保存方法などは剤型によって異なりますが、基本的な安全性や有効性については同等と想定できます」(鬼山氏)
「新様式の添付文書はパッと見たときに旧様式の添付文書と構成が違うので戸惑うかもしれません。ただ、基本的に新しい情報が入ったわけではないので、まずはその様式に慣れていただきたい。また、妊婦、授乳婦 の項は記載の目安が若干変わっていますが、それを見て薬剤師さんが、リスクが下がったと誤解されないかがちょっと心配です。リスクの変更ではなく、治療の機会を奪うような記載から、ベネフィットとリスクを理解した上で治療を選択できる記載に変更となったとご理解ください」と鬼山氏は話しています。

part2 新記載要領の添付文書を活用するには

監修 林 昌洋氏 虎の門病院 薬剤部長・治験事務局長
新記載要領の添付文書が登場となった今、その新添付文書をどう読み解き、活用していけばよいか――。薬剤師にとっては大きな課題です。虎の門病院 薬剤部長・治験事務局長の林昌洋氏に、新添付文書への期待、活用方法などについてお話しいただきました。

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