“やせ”は美しい?
“やせ”は美しいと、極端なダイエットに走る日本の若い女性。この行き過ぎた“やせ”願望に対し、私は自身の無理なダイエット経験も踏まえ「大きな健康リスクを伴う」と警鐘を鳴らし続けています。
厚生労働省の調査によれば*1、BMI*218.5未満の“やせ”の女性の割合はこの10年間有意に増加しており、成人女性全体の“やせ”が11.6%であるのに対して、20歳代女性の“やせ”の割合は 20.7%と高くなっています。さらに20歳代女性の1日あたりの摂取カロリーは、1975年の2287kcalをピークに減少傾向で2016年は1631kcalと戦後に近い状況になっています。それに相関するように出生体重も減少しています。
“やせ”願望を持つのは大人だけではなく、思春期の女の子でも、初経以降に太っていると認識する女子は増加し、ダイエット実施率が右肩上がりに増えます。私たちの研究グループで1万5842人の女性(18歳~39歳)を対象に分析した結果*3、“やせ”にあてはまる人は2328人(14.7%)で、「月経異常」「月経痛がある人」の割合も、BMIが低いほど高くなり、適正な体格に整えることの大切さがうかがえます(第18回日本抗加齢学会で発表)。
若い女性の“やせ”は何が問題なの?
20歳代の摂取カロリーが戦後に近い状況で、生まれてくる赤ちゃんもスリムになっている日本。ではなぜ“やせ過ぎ”がよくないのでしょうか。
女性として美しいボディラインと体組成が完成する年齢は、25歳前後。それより前に過度なダイエットをしてしまうと、女性ホルモンが正しく分泌されず、大人になっても無月経だったり、月経周期が不規則なままだったりといった弊害が起きます。女性ホルモンは、脳の視床下部の指令を受けて、卵巣から分泌されるものですが、実はコレステロールが材料となってつくられるので、適切なカロリーと栄養素、そして適正な体脂肪と筋肉がしっかりついている身体であることが大切です。また、米国の調査ではBMIが20より低くなると排卵障害が起こりやすく、排卵障害性不妊のリスクが低い体格はBMI 20〜24という報告*4があります。不妊の原因は様々ですが、たとえば体重43kg、体脂肪率22%未満の女性の場合は、月経があったとしても正しい排卵が起こりにくく、結果として妊娠しづらくなりますし、低出生体重児(2500g未満)を出産するリスクも高まります。
さらに、低出生体重児は将来、糖尿病や脳血管疾患といった生活習慣病になりやすいことがイギリスの大学の疫学調査で明らかとなっています。これを受けて、欧米諸国では“やせ過ぎ”のモデルはファッションショーやメディアに出演させないなどの規制を設けていますが、日本では依然として“やせている=美しい”との意識が強く、“食べないダイエット”によって栄養失調状態に陥る女性が多いのが問題です。
「バランスのよい食事できちんとカロリーをとる」「適度な運動をする(150分以上/週)」「質のよい睡眠をとる」ことが適性体重・体脂肪を保ち、結果として健康美をつくり、健康な次世代に繋がります。私は、女性の健康美の基準を“体脂肪率22〜27%、BMI 18.5~23.9”と設定しています。体脂肪や筋肉は、家庭用のインピーダンス式体組成計でも手軽に計測ができますので、定期的にチェックしていただき、体脂肪が増えたら身体活動を増やすようにするなど、自分の身体をチェックしデザインしていくことを習慣化し、健康美を手に入れていただきたいと思います。
〈元典〉
- 国民健康栄養調査・人口動態統計
(厚生労働省) - BMI(体格指数)=体重(kg)÷(身長m×身長m)
- 産科婦人科舘出張 佐藤病院と順天堂大学らの共同研究で月経管理アプリ「ルナルナ」(株式会社エムティーアイ)の利用者を対象とするアンケート調査の分析結果。
- Rich-Edwards JW, Spiegelman D, Garland M, Hertzmark E, Hunter DJ, Colditz GA, Willett WC, Wand H, Manson JE. Physical activity, body mass index, and ovulatory disorder infertility. Epidemiology. 13(2):184-90, 2002