骨粗鬆症の病態と治療
骨粗鬆症は骨強度が低下して、骨折リスクが増大しや すくなる骨疾患と定義される。骨折しやすいのは椎体、 大腿骨近位部、手首の橈骨、上腕骨など。椎体骨折は背骨 が体の重みで押し潰されてしまうもので、背中や腰が曲 がったり、身長が低くなったりして気づくことが多い。 大腿骨近位部は骨折すると歩行が困難になり、寝たきり になって要介護となるリスクが高くなる。
骨粗鬆症の治療薬にはビスホスホネート製剤、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)、抗RANKL モノクローナル抗体、副甲状腺ホルモン製剤、活性型ビタ ミンD3 製剤などがあり、患者個々の状態や重症度に応じて処方される。
伊東薬局日ノ出町店の取り組み
大分県にある伊東薬局日ノ出町店は近隣にリハビリ テーション専門病院があり、応需している処方箋の約 9 割 が 整形外科、残りの1割が内科、循環器科などである。 薬剤師4人で、月に1,200~1,400枚の処方箋を扱っており、そのうち約300枚が骨粗鬆症患者だという。同薬局薬剤師の伊東大輝氏によれば、同薬局の骨粗鬆症患者の 95%は女性だ。「患者さんの年齢層は75歳以上が77%、 70~74歳が7%、70歳未満が16%という分布です。痛みがきっかけで整形外科を受診した結果、骨密度の低下が判明して治療を開始するケースが最も多いようです。症状はないが検診で引っかかって治療を始める人もいます。 関節リウマチの治療が長引いて骨粗鬆症の薬剤が追加になることもあります」。
処方薬のメインはビスホスホネート製剤で、月1回服薬製剤、4週に1回服薬製剤、週1回服薬製剤が中心だ。 SERMや活性型ビタミンD3 製剤もよく処方される。高齢になるにつれてビスホスホネート製剤が増え、比較的若 い患者さんは毎日服薬する活性型ビタミンD3 製剤や、 SERMが多いという。「骨粗鬆症の薬剤はアドヒアランスが悪いといわれています。骨粗鬆症は症状がないことが 多く、最初は痛みで受診しても痛みがなくなると病院に行く理由もなくなり、来院しなくなる。特に若い患者さん にそうした傾向が強いと感じています。高齢になってく ると病院に行く手段がない人や、認知症も増えてくる。 認知症で独居の人に経口ビスホスホネート製剤が服薬できるかという懸念もあります」。
疾患理解を通して服薬の動機づけを図る
同薬局では、患者のアドヒアランスを高めて脱落を防ぐために、病識と薬剤に対する理解を深めることを意識した指導を実施している。具体的な取り組みとして、伊東氏は最初に骨粗鬆症治療薬が処方された患者に対しては、わかりやすいよう独自に作成した指導箋や同薬局で導入している電子薬歴システムの服薬指導の支援機能を用いて、疾患について説明することが多いという。これによって、服薬の動機づけをしてもらう。「骨はどのように作られるか、女性ならば女性ホルモンと骨の関係を説明して、加齢とともにどんどん骨がもろくなることを理解してもらいます。患者さんは、転倒して骨折すると考えがちですが、転ばなくても自分の体重で骨折してしまうこともあると伝えます。特に若い患者さんは、疾患についてしっかり理解すると治療の必要性を自覚し、服薬継続につながります」と伊東氏は指摘する。
服薬方法に重点を置いた指導を実施
大分県にある伊東薬局日ノ出町店。近隣にリハビリテーション専門病院があり、毎月約300枚の骨粗鬆症患者の処方箋を応需する。
高齢の患者にビスホスホネート製剤が処方されているときは、服薬方法を覚えて帰ってもらうことに主眼を置く。できるだけ要点のみが伝わるように、起床時コップ1杯の水で飲むこと、服薬後決められた時間は横にならないことの2点を強調する。たとえば、「横にならないように」とだけ指導すると、患者は動いてはいけないと思ってしまうことが多い。そのため伊東氏は「動き回るのは大丈夫。朝食の準備などをしていたらすぐに時間は経ちますよね」と付け加える。このような一言を添えると、服薬がそれほど難しいものではないと患者自身で気づくことにもつながる。患者の服薬に対するハードルを下げることも薬剤師の1つの役割だと伊東氏は話す。
また、副作用を強調し過ぎると、患者は怖がって服薬しなくなってしまう。そのため伊東氏は伝え方を工夫しているという。たとえばビスホスホネート製剤の代表的な副作用である上部消化管障害の場合、服薬方法と併せて説明する。「服薬後に横になると薬剤が食道の途中で止まってしまい、食道を刺激して荒らしてしまいます。それを防ぐためにコップ1杯の水で飲み、服薬後一定の時間は横になってはいけないことになっています」と話すと、適正な服薬方法を守れば必要以上に副作用を怖がることはないと患者も理解しやすい。
検査値を確認し、服薬継続をフォロー
服薬を継続するためには、薬剤の効果を実感してもらうことも大切だ。そのため、伊東氏は骨密度や血液検査の結果を患者に尋ねるようにしている。「近隣のリハビリテーション専門病院は、1年に1回骨密度を測定することが多い。前回の骨密度の測定日と結果は、電子薬歴システムの申し送りのコメント欄に記録してあるので、次の測定日の頃になったら『骨密度を測りましたか』と声をかけて結果を見せてもらいます。骨密度の場合、維持できていれば十分ですが、患者さんは全然よくなっていないと思うことが多い。患者さんが服薬継続した結果、維持できているのだと褒めてあげると服薬継続のモチベーションにつながります」。
活性型ビタミンD3製剤を服薬している患者は3〜6カ月に1回、副作用の高カルシウム血症を確認するためや、他の薬剤でも治療の初回に骨代謝マーカーを測定するために、血液検査を受ける。患者は病院で検査結果を説明されているが、理解のために再度説明を聞きたいことも多いという。伊東氏はその検査結果を患者に確認し、改めて内容を補足説明する。「患者さんは副作用に対する漠然とした不安もあるので、カルシウム値の説明に加えて腎機能と肝機能についても説明し、副作用は出ていないから骨粗鬆症の薬剤を継続しても大丈夫と納得してもらえるようにしています。また、骨代謝マーカーは服薬継続の動機となりうるため、血液検査時に測定されていれば、併せて説明しています」。特に整形外科はNSAIDsがよく処方されるので、腎機能のチェックは欠かせない。
週1回あるいは月1回服薬するビスホスホネート製剤は、薬剤の包装などに服薬日を記載できるものが多いが、伊東氏は服薬日を記載し、さらに電子薬歴システムに登録して患者の服薬スケジュールを把握している。その他に、先述した骨密度や血液検査の結果、来局の間隔、次回の服薬指導内容等を電子薬歴システムに登録して服薬指導に活かしている。こうした取り組みを長期にわたって継続した結果、同薬局の骨粗鬆症治療薬の服薬に関する1年間の脱落率は、約10%となっている。通常、服薬回数が多いほど脱落率は高くなるのが一般的だが、週1回服薬製剤と月1回服薬製剤との差はほとんどない。伊東氏は「骨粗鬆症治療薬は服薬し続けることが重要。患者さんの来局する間隔が開いても責めるのではなく、ポジティブな声がけをして、その日から再び服薬継続してもらうようコミュニケーションを取るようにしています」と話す。