都内に野菜を売りにしたカフェ風の薬局がある。そんな噂を耳にして、ファーマスタイルは薬局ランタン千歳烏山店を取材した。
野菜だらけの店頭
噂どおり店頭は野菜だらけ。大根、にんじん、白菜、ゆず、なす、小松菜、ラディッシュなど、ところ狭しと野菜が並んでいる。その数38種類。野菜の横には、看板に全国の処方せん承りますと書かれているが、その上には吹き出しで「魚醤あります」「オムツ交換できます」「電源あります」。そして、薬局名のランタンが店の前を灯している。ちょっと盛り込み過ぎて何が何だかわからない。
店内に入ると、屋根型の木の柱で落ち着いた雰囲気。玄米や有機野菜などの健康食品やサプリメントが陳列されている。この辺りに力を入れている調剤薬局は最近多いと思われるが、何やらこだわりがありそうな感じ。向かいには、コの字型のミニテーブルと長椅子が設置されている。
カフェのような調剤薬局
この薬局をデザインした田辺薬品代表の田辺正道氏に話を聞いてみた。コンセプトは「カラダとココロの心配ごとをやさしく取り除いてくれる、カフェのような調剤薬局」だそうだ。たしかに、内装は薬局というよりカフェのような趣きがある。BGMも聞こえてくる。田辺氏曰く、来局者が滞在しやすい雰囲気を心がけ、カフェ風の音楽を流したり、近隣のカフェでテイクアウトしたコーヒーを飲めるようなスペースを設けたという。
投薬される場所は患者が選ぶ
ミニテーブルと長椅子もカフェ風の内装の一環に見える。しかし聞いてみると、これはまた別の目的があるようだ。「ミニテーブルは、ご高齢で膝を痛めている方や妊婦さんなど、移動が大変な方のための投薬スペースです」。なるほど、調剤している間に待合スペースとして一度座った場所で、そのまま処方薬を渡しに行き服薬指導を始める、ということらしい。
通常のスタンディングカウンターもあるが、そちらは急いでいる患者用として設置。また、プライバシーに関わるような話や落ち着いて薬剤師と会話をしたい患者には、セミプライベートのような空間にカフェ風のテーブルとイスを用意している。
好きなところに患者に座ってもらい、そこで処方薬を渡す流れで業務を進めている(コロナ感染予防のため、現在は、一時的にカウンターを基本としている)。「たとえば妊娠中の患者さんであっても、急いでいらっしゃる場合にはカウンターでさっさと薬を受け取って帰りたい場合だってあると思うんです」と田辺氏。薬局側が外見で判断するのでなく、あくまで患者の希望で投薬スペースを選んでもらう。患者ごとのニーズは個人やその時々でそれぞれ異なる。患者側の薬剤受け取りの選択肢を増やすという意味では、オンライン服薬指導もそのひとつと考え、今後オンライン服薬指導も積極的に取り入れていく予定とのことだ。
3種類の投薬スペース。左は通常のスタンディングカウンター。中央はミニテーブル付の待合ソファで、移動が大変な患者が活用。右はセミプライベートのカフェ風テーブルで、プライバシーに関わるような会話ができる。
野菜はコミュニケーションツール
店頭の野菜について聞くと、「野菜には、コミュニケーションツールの役割があるんです」と回答。野菜の場合、医薬品とは違い、処方される患者やその家族以外の人との関わりも生み出す可能性を秘めているという。たしかにこれだけ店頭に派手に野菜を置いていれば、ただの通りがかりの買い物客も寄せつけるだろう。「健康食品関連として同じエリアで事業をされている方から興味を持っていただき、お声がけいただくこともあります」と田辺氏。野菜が薬局と地域の交流に一役買っているらしい。
服薬指導では、販売している野菜のビタミンやミネラルについて話を交えることもしばしばある。ただし、その中で分かったことは、野菜は、体に良いから買う訳ではなく、単に美味しいから買うという考えの人も多いようだ。医薬品の服薬指導では、医療用でも一般用でも「体のために」を全てのベースとするが、野菜の場合、当然味や見た目の好みが大きな要素として加わる。野菜の販売では、『体に良いですよ』だけでないコミュニケーションが求められる。また、生鮮食品を扱うノウハウも今後の課題とのことだ。
ランタンのような存在になりたい
最後に薬局名がなぜランタンなのか気になって聞いてみた。「キャンプ場や暗闇で、ランタンの一筋のやさしい明かりは楽しい食卓と心温まるひとときを支えてくれます。災害など困ったときにもランタンは人の不安を和らげてくれます。そんなランタンのような存在になりたいんです」。ランタンは今日も千歳烏山に優しい明かりを灯している。