薬剤師トップ  〉 ファーマスタイル  〉 業界  〉 Special Report  〉 コロナによる「孤立化」と年間自殺者数との関連性
check
【必見】 長期収載品の選定療養費の計算方法を解説!
Special Report

コロナによる「孤立化」と年間自殺者数との関連性

2021年5月号
人の弱みに付け入るコロナ自粛が生み出す「孤立化」を防ぐの画像

2003年に年間自殺者数は34,427名と最多人数を示した後、減少傾向だったが、2020年は増加に転じた。新型コロナウイルス感染拡大が精神面に与えた影響、今後の自殺対策について公益社団法人日本精神神経科診療所協会主催、第10回自殺対策講演会「これからの自殺対策について─ウィズ・コロナ、ポスト・コロナを見据えて」を取材した。

2020年の年間自殺者数内訳

2020年の年間自殺者数は21,081名(2020年1~12月)、うち男性14,055名(前年より23名減)、女性7,026人(前年より935名増)で2019年より912名増加した。小中高生の自殺者数は499名(小学生14名、中学生146名、高校生339名)と2016年以降、最多だった。

「弱み」を悪化させるコロナ既存のサービス、治療の維持と強化を

NPO法人メンタルケア協議会理事の西村由紀氏は、精神保健福祉士として電話相談やSNS相談事業に従事している。西村氏が年間約6万件の相談を受ける関連部門(東京都と神奈川県で6か所)の2020年3月~2021年1月の相談内容を分析したところ、新型コロナを主訴とする相談が増加していた。最も多いものは、仕事の形態の変化や生活リズムの乱れ、外出自粛による不自由さなどの「生活の変化」で全体の36.1%、次いで感染に対する「漠然とした不安(身体症状なし)」が20.2%と続く。感染への恐怖が妄想や受診抑制に繋がった結果、「精神症状の悪化」も14.0%あった。
西村氏は新型コロナ流行下での自殺企図には、3つのパターンがあると指摘する。①失業など本人を打ちのめす出来事により精神状態が悪化、②夫婦・家族関係で、もともと進行していた問題が急激に悪化、③受診抑制、不規則な服薬、生活の変化や感染不安等のストレスなどによる精神病性の症状の悪化、である。
自殺企図における②と③のパターンが示すとおり、新型コロナは家族間の問題、不安が強い、潔癖、新しい環境が不得手などその人が持っていた「弱み」に付け込み、状態を悪化させるきっかけになっている。また認知症患者や発達障害の子どもを抱える家庭では、支援施設の閉鎖により、家族(特に女性)への負担が増加している。一方で、感染対策として人との接触を減らすことが推奨され、困難な状況を乗り越えるために必要な協力関係が希薄になっているという。西村氏は、新型コロナの特別な相談を設けるだけでなく、介護や子育て、精神疾患など既存の問題の悪化を防ぐため、サービスや治療の提供を維持し、より力を入れる必要があるとまとめた。

コロナストレスによる精神科受診の増加とセルフケア

日本精神神経科診療所協会会長の三木和平氏は、新型コロナの精神面・行動面への影響として、 ①在宅ストレスによる生活リズムの乱れ、睡眠障害、倦怠感、動悸などの「自律神経失調症」のような症状、②抑うつ気分、意欲低下、興味・喜びの喪失といった「コロナうつ」といわれる症状、③「コロナ不安」とされる新型コロナへの感染不安、緊張、強迫観念・行為、といった症状で受診する人の増加を感じている。
こうしたコロナストレスへの基本的な自己対策として、規則的な生活を心掛けて勤務時間を決め、仕事が終わったら散歩や運動をして気分を切替える、電話やチャット・メールなどで会話を心掛ける、家族との交流や外出、雑談の有効活用、などを紹介した。特に女性は雑談や人との会話で自分のストレスなどをコントロールし、それが今まで女性の自殺者数が少ない一因と考えられていたが、新型コロナ流行下で雑談の機会は減少している。テレワークのなかでも上司・部下関係なく雑談できる時間も必要なのではないかと指摘する。

感染後遺症への対応も今後の課題

三木氏は、新型コロナ感染後、倦怠感や不安が強いといった症状で受診する患者さんもいるという。このような患者さんに対する抗うつ薬使用の是非について、明確な治療指針はまだない。三木氏の事例では、患者さんに足がびくつくといった症状もみられたため最初は刺激の少ない漢方薬とビタミンB12を処方したが、その後も眠れない、不安が強いとの訴えがあり、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬と入眠剤を処方したという。三木氏は、感染後遺症ともいえるこうした患者さんが今後は増えると予測され、いかに対応していくかが課題と考えている。

女性と子どもへの支援が急務 電話相談から適切な支援へと繋げる

メンタルケア協議会理事長の羽藤邦利氏は、新型コロナ流行下で女性と若年層の自殺が急増した要因について分析した。羽藤氏によると、「自粛」で家族全員が家にいるようになったとき、仕事、3度の食事の支度、育児、妻の役割を担う女性に負担が集中した。そのとき、互いに支え合って絆が強まった家族がある一方で、対立が一気に強まった家族もある。対立が起きると、子どもは親に頼れないため不満が溜まる、ついゲームをする時間が増える。するとそのことで親子間の対立が起きる。こうした悪循環で家庭内の対立がエスカレートすると、どうしても女性と子どもの方が追い詰められる。女性と子どもへの支援が課題になっていると指摘する。羽藤氏は「誰もが自粛しているなかでは誰かに相談したいと思ってもコンタクトをとるのが難しい。そのため手軽に安心して相談できる電話・SNS相談窓口を拡充する必要がある。電話・SNS相談窓口では、深刻な相談が増えているので、必要なケースについては受診や様々な社会的支援に確実に繋げてほしい」と強調する。

  1. 令和3年3月16日「令和2年中における自殺の状況」(厚生労働省自殺対策推進室など)
  2. 令和3年3月26日更新版「令和2年 児童生徒の自殺者数に関する基礎資料集」(文部科学省)

この記事の冊子

この記事の関連記事

人気記事ランキング