北海道を中心に全国で56店舗を展開しているナカジマ薬局。「患者様中心主義」を掲げ、全国でもいち早く服薬フォローアップを開始した薬局としても知られています。今回は、同薬局代表取締役社長の中島久司氏に同薬局のテレフォン服薬サポートⓇを始めた経緯や具体的な実践方法、そして新たに服薬フォローに取り組む薬局に向けて、服薬フォローに対する姿勢についてお話を伺いました。
スーツの仕立てで気づかされた薬も洋服と同じでフォローが必要
私が薬局で服薬期間中の電話でのフォローアップ(テレフォン服薬サポートⓇ)を始めたのは、1983年と今から約40年前になります。薬局薬剤師となるまでは病院薬剤師として7年間勤めていましたが、その頃は患者様との接点が全くなく、ひたすら調剤をする日々でした。「もっと患者様に寄り添い、喜んでもらえる薬剤師になりたい」という思いを持っていた私は強い葛藤を覚え、その思いを実現するものとして医薬分業を目指して帯広で調剤薬局を開局しました。
開局当初は患者様に医薬分業を理解していただくことに非常に苦労しました。患者様から「来局の手間も増えて、何のメリットがあるのか」とお叱りを受けることもしばしばでした。そこで「薬局の薬剤師にできることは何か」を模索していた時に出会ったのが、ある洋品店からのアフターフォローの電話です。購入後のサイズ・着丈等の着心地を確認するためのもので、このようなアフターフォローはアパレル業界では当然のことのようでした。
これを薬局に置き換えたときに、私たち薬剤師は薬を渡した後に何もしていないことに疑問を抱きました。そして、医薬分業のあり方として病院と同じことをするのではなく、投薬後のフォローこそ薬局の薬剤師がやらなくてはいけないことだと思い至ったのです。服薬フォローを通して、一人でも多くの患者様に寄り添っていくことが薬剤師としての使命と思い、テレフォン服薬サポートⓇはナカジマ薬局のその理念を体現するものとして、約40年前からいま現在まで続いています。
服薬フォローは情報収集の有効手段 かかりつけ薬剤師にも繋がる
服薬フォローの意義として、指導のヒントになる情報を収集できる点や、かかりつけ薬剤師に繋がる点も挙げておきたいと思います。
患者様との電話では、薬剤や症状より世間話の時間の方が長いこともあります。しかし、趣味やお酒の嗜好、家族構成といった日常生活の雑談の中に、処方提案や服薬指導のヒントになる情報が隠れています。薬局薬剤師にはこうしたアプローチも大事だと考えています。
また、服薬フォローはかかりつけ化にも繋がる取り組みだと思います。私は、かかりつけとは患者様が薬局のファンになることだと考えています。服薬フォローを通じて薬剤師が患者様に寄り添うことで、良い薬局として患者様からご支持いただく。実際に、テレフォン服薬サポートⓇを始めてから、患者様から驚きと感謝の言葉を頂くことが非常に多くなりました。
電話でのフォローを第一に考える
2020年9月に改正薬機法施行で服薬期間中のフォローアップが義務化されて以降、急に服薬フォローに取り組み始めた薬局もあるかと思います。その中にはICT等の便利なチャットツールを利用している薬局もあるでしょう。
ナカジマ薬局では、服薬フォローは電話で実施することを基本にしています。電話の声の様子から患者様の体調を類推することもできるためです。これはチャット等のツールではできません。また、ツールの場合、やり取りの応酬が続いたり、返信を待つことに患者様がストレスを感じることもあると耳にします。もちろん電話を嫌う患者様や耳の不自由な方もいるので、すべて電話の方が良いとは言えません。ただ、服薬に関する疑問や問題は患者様にとって切実かつ早急に対応してもらいたいものです。当薬局の方針としては、少しでも早く、患者様にフィードバックをして患者様の悩みを解消してあげたいという思いで電話でのフォローを第一に取り組んでいます。
なぜ服薬フォローを始めるのか 義務化ではなく、薬剤師の役割として
これから服薬フォローに取り組む薬局には、「なぜ始めるのか」を改めて考えてから取り組んで欲しいと思っています。服薬フォローの手段としてICTを取り入れる場合でも、「手軽で便利だから」という理由のみで利用するのは避けた方が良いと私は考えます。また、患者様に対して服薬フォロー導入の説明にあたり、「薬機法で義務化されたから」とするのは絶対に避けて欲しいと思いますし、当薬局の薬剤師にはそのような説明はしないよう強く伝えています。患者様からすれば、「薬剤師は法律にならなければ、何もしないのか」と捉えられかねません。
約40年前に服薬フォローを始めた後、私たちはこの取り組みに関して幾度も学会等で発表してきました。多くの病院や薬局から素晴らしい取り組みだと評価されましたが、追随して服薬フォローを始める薬局はほぼありませんでした。服薬フォローとは、薬剤師のためではなく、他ならぬ患者様のために行うものです。薬剤師一人ひとりが患者様に寄り添う気持ちを持ち、そこから患者様が勇気を得て治療を頑張ろうという気持ちを持たせることが、私たちの役割だという思いで取り組んで欲しいと願っています。
「テレフォン服薬サポート®」の実践ポイント
同薬局 執行役員 薬局事業部部長 谷口 亮央 氏
ナカジマ薬局では、「テレフォン服薬サポートⓇ」を基本に服薬フォローを実施しています。服薬フォローは薬剤の効果・副作用のモニタリングやアドヒアランスの確認、独居高齢者の見守りのほか、特に新規患者様との信頼関係構築に寄与すると考えています。当薬局のテレフォン服薬サポートⓇについて実践方法のポイントをご紹介します。
POINT1対面で丁寧な説明を実施して同意取得テレフォン服薬サポートⓇにあたり、患者様の同意を得る必要があります。初診問診票にチェック等の簡易的な方法よりも、薬剤師が「患者様が心配だから確認したい」と服薬フォローの意義を丁寧に説明する方が同意取得率は高く、2021年度は6割以上の新規患者様から同意取得を得ています。
POINT2重点的にフォローする服薬サポートの対象例❶初来局者 ❷処方変更後 ❸長期処方 ❹アドヒアランス不良 ❺特別な使用法の薬剤(手技を伴う/休薬期間あり/服用日指定など) ❻麻薬が処方されている ❼かかりつけ薬剤師の同意を得ている など
薬剤師が必要と思う患者様を対象にし、同意を頂いていない場合でも必要な方には実施しています
POINT3基本的なルールと注意事項フォローにおける基本ルールと注意事項を下記にまとめます。
- 原則、薬剤を交付した薬剤師が患者様に電話
- 内容は薬歴に記載し、実施報告書で共有
- フォローの好事例を毎月抽出し、グループ全体で共有(キャリア、認定資格の有無等によって生じる服薬サポートの質の差の解消/類似事例の参考のため)
- 都合の良い時間帯、通院を周囲に知られたくない場合もあるため不在時の伝言の残し方などを患者様に事前に確認
- フォローして欲しい患者様や確認点などを医師とすり合わせ(治療方針と服薬フォローの食い違いを防止)
アナストロゾールによる関節痛が持続していることを電話で確認し、レトロゾールへの変更を医師に提案。次回処方変更され、関節痛が改善。
●現病歴:閉経後乳癌(タモキシフェン > アナストロゾール > レトロゾール)
●他科受診/併用薬の有無:なし ●服薬状況:良好
1日1回朝食後 60日分
テレフォン服薬サポート®(TS)前の薬歴
肝機能障害Grade2(薬剤との因果関係は不明)。
継続して経過観察の方針と確認。
- 関節痛は継続しているが、生活に支障があるほどではない。
- ロキソプロフェンの手持ちあり。
痛みが気になる時は、軽く何か食べてからコップ1杯くらいの多めの水でロキソプロフェンを1回1錠服用。4時間以上あければ追加でき、1日3回まで飲めます。薬局から医師に他剤への変更検討してもらえるように手紙を送っておきますね。
関節痛Grade1:関節痛は続いているが、生活に支障はない程度とのこと。ロキソプロフェン錠を所持しているそうなので、痛みが気になる際は、服用を勧めました。
ご承知とは思いますが、【乳癌診療ガイドラインBQ12】にて、アロマターゼ阻害薬による関節痛は、治療中に消失することはほとんどなく、鎮痛剤を検討し、それで対処出来なければ他のアロマターゼ阻害薬(AI)への変更が推奨されております。
大変恐縮ですが、鎮痛剤の服用状況や痛みの状況を踏まえて患者様とご相談の上、ロキソプロフェンの屯服処方や、レトロゾールへの変更等についてご検討いただければ幸いです。
レトロゾールに変更したところ、関節痛は消失。
ナカジマ薬局ご提供事例より編集部作成
服薬フォローにおけるICTの活用事例
同薬局 執行役員 薬局事業部部長 谷口 亮央 氏
ナカジマ薬局では、「テレフォン服薬サポートⓇ」とともに、一部ICTを活用している事例もあるのでご紹介します。
❶ 電子お薬手帳のアンケート機能から患者様の掘り起こし
電子お薬手帳を利用している患者様全員を対象に、同手帳のアンケート機能を利用して3つ程度の質問事項を投薬後に配信しています。「服薬に問題や疑問点あり」と返信があれば、テレフォン服薬サポートⓇに繋げます。これはテレフォン服薬サポートⓇの同意を得ていない患者様や拾い上げられなかった患者様の掘り起こしをするための補助的なツールとして利用しています。
❷ テレフォン服薬サポートⓇとLINEを併用して患者様の日々の状態を確認
テレフォン服薬サポートⓇにより、信頼関係ができている患者様で、疼痛コントロール状況など、毎日の状態を簡単に確認したい時に、電話でのフォローとは別にLINEを使用している事例があります。日ごとの疼痛状況を患者様からのLINEで確認したうえで、受診前に患者様に電話をして詳細な状況を聞き取り、医師への相談内容や伝え方のアドバイスをするといったフォローをすることもあります。
テレフォン服薬サポートⓇは患者様と決めた時間に対応する必要がありますが、ICTの場合はそこまで時間の制限がなく対応することができます。ICTは緊急性が高い状況や確認内容が複雑で薬剤師・患者間で双方向の細かい確認が必要な事例には不適ですが、患者様から日々の状況を簡単に報告いただく場合などは有用だと思います。ただ、その場合でも最終的には電話やオンラインでフォローすべきでしょう。
薬剤・疾患別の服薬フォローを実施するタイミングなどに関するエビデンスはまだまだ少ないと思います。ICTは、患者様の傾向や副作用発現の時期といったデータを集積・分析しやすいというメリットもあります。こうしたデータを今後の服薬フォローに活かしたいと考えています。
服薬フォローアップを支援する主要サービスの特徴(サービス名50音順)
ICT化の進展により、薬局と患者さん間の情報共有・連携手段にICTを活用する薬局も増えてきています。服薬期間中のフォローアップについても、数多くの企業が支援するサービスを提供しています。今回は、服薬フォローアップ支援サービスを提供する各企業の担当者から、サービスの主な特徴をご紹介いただきました。
- アプリ内からはあえて薬局検索機能を排し、自薬局専用設計に。
- 患者の登録項目は名前・性別・生年月日・電話番号の必要最低限で、メールアドレスは任意。
- 服薬フォローアップの基本機能はメッセージの予約配信、質問票の添付で質問事項は主に選択式回答。
- トレーシングレポート作成支援機能で、フォロー結果から簡単にトレーシングレポートを作成可能。
- 摂食嚥下リスクのスクリーニング用質問票あり。患者の状況を把握して支援に繋げる(摂食嚥下サポート機能)。
激化する競争下における薬局の「攻めの課題」に、「面処方応需拡大」で応えたいと考えています。
他の薬局にはない価値をいかに提供するかが求められる時代において、もっとも頼りになる薬局の「差別化の武器」となることを目指し、これからもサービスの進化を続けていきます。
(同社プライマリケアPF事業部 事業部長 後藤氏)
- 患者は薬局でQRコードを読み取り、アカウント発行と情報登録を実施。2022年2月より、LINEを通じた登録・通知も可能に。
- 薬局は患者と予定を確認してフォロー日時を設定し、患者に共有。
- メッセージと質問票(服薬状況の確認、副作用の有無など薬局でカスタマイズが可能)を患者に送付。
質問票はさらに服薬フォローアップが必要か否かの判断や、フォローの質向上のために使用可能。 - 服薬フォローアップはテキストメッセージ(画像も送受信可)、電話、ビデオ通話から薬剤師が適すると判断した方法を選択。
- 患者が薬局にテキストメッセージを送付する際は、薬局の承認が必要(承認した患者のみ送付可)。
個別対応が実施しやすい作りを目指しています。標準的な方法は、質問票でフォローを検討、最適な方法(メッセージ、電話、ビデオ通話)を判断、実施する流れです。若年層の患者様は意外に薬に不慣れで、薬剤師様の介入価値も高いと言えます。忙しい患者様も利用しやすいフォローの一助になれば幸いです。
(同社オンライン医療事業部 多田氏)
- 服薬フォローアップ機能は、薬局で発行される患者ごとのQRコードを読み込むことで利用可能(処方せん送信はLINEの友だち登録で利用可能)。患者の登録項目は生年月日と利用規約のチェックのみ。
- 担当薬剤師が患者の状況に応じて服薬フォローアップの質問事項を作成。基本的に患者は選択式回答ではなくフリーメッセージで回答。ToDo機能でスケジュールを管理。
- 患者情報や質問回答等はLINE上ではなく専用Webページに遷移。高度なセキュリティ環境で管理(画像も送受信可)。
- システム導入後、友だち登録が少ない薬局には同社の担当部門が登録増をサポート。
今後選ばれる薬局・薬剤師となるには、薬剤師様自身が考え、患者様ときちんとコミュニケーションを取る力が必要だと思います。当社のサービスを通して①必要な患者様に服薬フォローを実施し、効果と副作用を確認できる、②処方提案ができるといった能力を養う支援をしたいと考えています。
(同社副社長 吉田氏)
オンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」
- 服薬フォローアップ機能は患者のアプリダウンロード等が不要で利用可能。
- メッセージは携帯電話番号をもとにSMSにURLを送付し(専用Webページに遷移)、4つの質問に回答するだけ。アプリダウンロードやお友達登録が手間といった患者も対象にでき、幅広い患者を対象にフォローアップを実現。
- 回答結果をもとにトレーシングレポートの作成も可能。
- 服薬フォローアップを業務として定着させるために重要な組織改革(意識・行動変容)を支援。推進メンバーの選定・フォローアップの業務手順の作成といったステップを踏んだプログラムを実施。
システム活用における一番のネックは、患者様のアプリダウンロードやお友達登録が進まないことだと考えます。Pharmsは患者様の携帯電話番号さえあれば実施可能なため断られる心配も少なく、薬剤師起点で実施できます。また必要な業務として定着させられるよう、組織内の意識・行動変容まで踏み込んだプログラムも提供し、変革を支援をします。
(同社Pharms事業推進室室長 亀井氏)
- Followcare画面上で発行したQRコードからLINEの友だち登録を依頼。
- 患者はLINEから処方せん等の画像の送付可能(動画や電話は不可)。
- 服薬フォローアップ時の回答はLINE上で実施。薬局でテンプレートを作成しておけば、選択式回答の質問事項も送付可能。
- ToDo機能を持ち、服薬指導中に投薬後フォローすべきことを簡単にToDo設定可能。
- 電子薬歴システム「GooCo」と連携。GooCoと一緒に利用する場合は、薬歴登録・ToDo管理・処方薬に基づく注意事項の配信・フォロー結果を転記したトレーシングレポートの作成まで一気通貫で対応可能。
服薬フォローアップが義務化され1年以上が経過しましたが、まだまだ手探り状態の薬局様も多いことと存じます。コロナ禍において、オンライン服薬指導が広まるなど薬局業務がよりいっそう複雑化し、負担増大しておりますが、「Followcare」がユーザー様の業務負担を軽減しつつ、より良い医療提供の一助になることを目指します。
(同社マーケティング企画室 堀氏)
- 服薬フォローアップ時の質問事項(テンプレート)は約7万例以上で同社の薬剤師が作成。基本は薬剤ベースの質問(疾患ベースの質問も今後追加)。
- 薬剤師が意図しない課題を発見する目的で、幅広くフォロー対象にすることを推奨(同社検証では30~40歳代の課題発見率が高)。
- 患者情報や質問回答等はLINE上ではなく専用Webページに遷移。セキュリティ面の不安を解消。
- 「利用開始サポートプログラム」(週1回30分×6回[管理者向け1回、利用者向け5回])を実施。返信内容や電話サポート時の対応など実践的なノウハウを含む。
当社サービスの特徴は、処方薬に基づいた具体的な設問を通して課題が顕在化している患者様だけでなく、認識できていない課題を明確にし、より多くの患者さんへの介入に導くことです。
薬局・薬剤師の価値の最大化し、その価値を患者様に届けいかにファンを作る(再来局させる)かという視点で取り組んでいます。
(同社代表取締役社長 中尾氏)
- 服薬フォローアップ機能の利用には、電子薬歴システム「Medixs」の契約要(Medixsのオプション機能)。
- 薬歴登録と併せて服薬フォローアップ連絡ができ、質問回答はMedixsに自動転記されるためフォロー結果の薬歴登録が不要。Medixs上からトレーシングレポートへの転記も可能。
- LINEのほかEメール、SMSにもメッセージ送付可能のためスマホを利用しない高齢者にも対応。
- LINEはMedixs投薬後フォロー画面上で発行したQRコードからLINEの友だち登録を依頼。LINEメッセージ中のURLより回答。Eメールはメールアドレス、SMSは電話番号宛に送付したメッセージのURLより回答。
- 患者へのメッセージ、質問事項は薬局に応じてカスタマイズ可能。
薬剤師様は、副作用の確認・飲み合わせチェック等の煩雑になりがちな業務も含め、患者様の安全な服用とアドヒアランス向上を目指しておられるかと思います。当社は電子薬歴「Medixs」に端を発し、服薬フォローアップだけなく、薬剤師様の業務全般を支援できるように、これからもサポートしていきます。
(同社執行役員 橘氏)