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Special Report

「地域包括ケア病棟」の最前線 多職種と連携し在宅復帰を支援

2017年2月号
「地域包括ケア病棟」の最前線多職種と連携し在宅復帰を支援の画像
地域包括ケアシステムを構築するため厚生労働省が打ち出した病院再編構想の1つ、「地域包括ケア病棟」の整備が全国で進んでいる。2016年11月15日、(株)日本アルトマーク主催のシンポジウムが東京都内で開催され、医療法人社団和楽仁芳珠記念病院理事長で、地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄氏は地域包括ケア病棟の課題や将来展望について講演した。また、京都大学大学院医学研究科薬剤疫学教授の川上浩司氏は地域包括ケアシステムの構築に向け実臨床から得られるデータ活用の有用性などについて解説した。

多職種協働が支える『最大で最強の地域包括ケア病棟』

懐の深い、使い勝手のよい「病棟」を構想

少子化・超高齢社会の日本の医療は治す「従来型医療」から、治し・支える「生活支援型医療」への転換が進み、その対応が求められています。その切り札の1つが「地域包括ケア病棟」です。地域包括ケア病棟は2014年度診療報酬改定で、急性期病棟での治療を終えた患者や、在宅療養中に緊急入院した患者等に対して、介護施設や在宅での生活復帰を支援する病棟として新設されました。
従来、脳卒中や整形外科的手術等の回復期リハビリテーション病棟の要件に合致する疾患を除くと、超急性期を脱した患者の多くは急性期から回復期を急性期病床で過ごして退院という流れになっていました。厚生労働省では、地域包括ケア病棟に、①高度急性期病院などから患者を受け入れる機能(ポストアキュート)、②受け入れた患者を今後、介護施設や在宅での生活が行えるように支援する在宅・生活復帰支援の機能、③施設や在宅で療養中の患者が、容体が急変した時に緊急で受け入れる在宅療養支援としての機能(サブアキュート)――3つの機能を持たせることで、医療提供と生活支援が可能な使い勝手のよい病棟の実現を目指しています。
さらに周辺機能として、日常的な生活支援が必要のない患者の緊急時の軽症疾患の受け入れや、がん化学療法や緩和ケア、糖尿病教育入院、減薬調整など、中核機能を補完代替する受け入れも協会として提案しています(図1)。

図1 懐の深い「地域包括ケア病棟」の機能

図1 懐の深い「地域包括ケア病棟」の機能 の画像

このように、当協会は3つの受け入れ機能と、2段階(院内多職種協働、地域内多職種協働)の在宅・生活復帰支援機能を備えた「懐の深い『地域包括ケア病棟』」を提唱しています(図2)。

図2 「地域包括ケア病棟」の機能 ―2段階の在宅・生活復帰支援―

図2 胃がんの抗がん剤治療の画像

在宅・生活復帰支援

1 院内多職種協働
  • リハビリや摂食機能療法、口腔ケア、栄養指導、認知症ケア、減薬調整、服薬指導、退院支援・調整等を院内多職種協働で提供する。
  • 退院後の在宅生活を見据えた、包括算定で自由度の高いPOCリハビリは、リハビリのリロケーションダメージを防ぐ。
2 地域内多職種協働
  • MSWやケアマネジャーが地域内多職種協働による在宅サービスを調整し、最高60日を目安に在宅・生活復帰を目指す。
  • フォーマル・インフォーマルサービスを提供する地域の多様なプレイヤーとの連携は必須。郡市医師会や、地域の拠点病院、自治体、保健所、社会福祉協議会等、地域社会のリーダーが地域内多職種協働を円滑化、活性化する。
地域包括ケアシステムの構築や生活支援のためのまちづくりは
地域包括ケア病棟を持つ病院の大きな役割の1つ

仲井培雄氏提供

地域包括ケアといえば、患者・家族をさまざまな職種が輪になって取り囲むイメージが象徴的ですが、当協会が描く地域包括ケアは患者・家族も医療チームのメンバーとして参画し、「患者・家族が抱える問題」の解決に取り組みます。地域包括ケアシステムの構築や生活支援のための町づくりは地域包括ケア病棟を有する病院の重要な役割の1つです。
当協会が、地域包括ケア病棟に関する地方厚生局のデータ(2016年9月届出)を解析した結果、地域包括ケア病棟を持っている病院は福岡県が125施設と最も多く、次いで兵庫県の95施設、京都府の87施設と続きます。最も少ないのは香川県の7施設でした。

多剤投薬の問題は薬剤師が中心になって解消を

「脳卒中治療ガイドライン2015」「認知症疾患治療ガイドライン2010」「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」を踏まえると、地域包括ケア病棟で提供される生活支援型医療は次の3点が重要なポイントになると考えています。①サルコペニア、認知症、多剤投薬などの有害事象はリハビリテーションの阻害因子になる、②リハビリテーション、栄養、認知症、多剤投薬に対して包括的に対応する、③患者・家族をチーム医療の一員に迎える。
特に日本では多剤投薬が深刻な問題となっており、日本老年医学会によると、多剤処方による有害反応の発生率は併用薬が1~3剤の場合は6.5%で、6~7剤になると13.1%に上昇します。
当院では2015年7月1日~14日の間に58人が入院し、主治医4人から最多で23剤(平均8.5剤)の薬剤が投与されている患者がいました。そこで、各病棟担当の薬剤師が8剤以上の薬剤が投与されている75歳以上の患者をスクリーニングして、減薬を検討しています。また、多剤投薬の改善がアウトカム(病態改善、入院期間、生命予後、栄養状態など)に及ぼす影響についての検討を計画しています。今後は地域の医療機関や調剤薬局と協働で多剤投薬を改善することを目指します。
2016年度診療報酬改定で、医療機関での減薬の取り組みが新たに評価されました。入院だけでなく外来でも6種類以上の処方薬(頓用薬、服用開始後4週間以内の薬剤を除く)を長期服用している患者について処方が適切かどうかを評価し、2種類以上の減薬を行った場合は薬剤総合評価調整管理料を算定できるようになりました(精神病棟の場合は4種類以上の抗精神病薬が対象)。減薬調整加算は、薬剤師に強力なパワーを与えたと思います。地域包括ケア病棟では算定できませんが、包括算定の中で実施すべき重要な取り組みです。
実際、何種類もの薬剤を服用している患者は「こんなにたくさんの薬を飲んでいても大丈夫だろうか。重い副作用が出たらどうしよう」といった不安が常に付きまとっています。製薬メーカーやMRの方々には、「処方医の向こうの患者さんの不安を安心に変えること」を念頭においた研究や情報提供をお願いいたします。また、薬剤師が中心となり、医師、歯科医師、看護師などと協力しながら患者の多剤投薬に対する不安を解消していくことが重要です。

医療現場の情報の可視化と疫学研究による健康、医療への貢献

エビデンス創生の場は臨床試験から観察研究へ

エビデンスを臨床試験のみに求める時代は終わったといえます。市販後臨床試験で得られるデータの信頼性について世界中が慎重に考えるようになってきました。そうした中、従来重要視されなかった電子カルテやレセプトなどの既存データが注目され始めています。ICTの進歩に伴って、医療の現場でリアルタイムに集積されたビッグデータを二次利用するデータベースの構築が進んでいます。
日本の医療は、臨床試験の時代から観察研究の時代に大きくシフトしています。ただ、電子カルテの情報は十分に活用されていないのが現状です。電子カルテ導入率は300床未満の施設では2割ほどで、病院間でのシステムの標準化は行われていません。病院内でも電子カルテの診療情報は医療の質向上に十分に役立てられているとは言い切れない状況です。
一般社団法人健康・医療・教育情報評価推進機構では、内閣官房健康・医療戦略室と連携して全国の提携医療機関117施設(2016年10月時点)の電子カルテ、レセプトの情報を活用する取り組みを行っています。全国規模の診療情報データベースを構築し、医療の向上や患者ニーズの把握などの疫学研究に役立てることが目的です。
一方、学校健診、母子保健情報のデータベース構築も進められています。日本の乳幼児健診、学校健診は世界に類を見ない特有のシステムです。小児期の健診で得られたデータは将来の病気を予防できる最大の武器です。健診データを創薬に生かすことも可能です。
 私たち研究者はさまざまなデータを統合・解析することで、患者のニーズに応じた医療や創薬、あるいは政策の実現に向け、活動を続けていきます。

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