2020年から義務化となった投薬後の患者フォローアップへの取り組みが本格化してきています。「今や全員が通常業務として当たり前にフォローアップを実施している」という、愛媛県でハッピー薬局を19店舗展開する株式会社ハッピーファーマシーの取り組みを紹介します。
2020年のフォローアップ義務化当初に実施を開始
当社では、義務化される前は患者さんへのフォローアップはほとんど実施しておらず、試行錯誤でフォローアップを始めました。基本的に全店舗で開始したものの、薬剤師にとって新たな取り組みでしたから、どう手を付けたらよいか手探りの状態でした。
そこで、フォローアップの対象をまずは「新規の薬を導入した患者さん」と「薬の副作用が懸念される患者さん」に限定しようと本部で提案し、徐々に実施が進んでいきました。2020年のフォローアップ件数は、全19店舗合計でひと月に20~30件程度でした。
フォローアップ実施開始時の方法
当初のフォローアップの手段は電話でした。来局時にフォローアップでお伺いする質問事項を記載したA4の用紙1枚を患者さんに渡し「後日お電話しますのでよかったら受けてください」と伝えていました。
お電話する日時は基本的に患者さんのご都合に合わせます。ただ、薬学的にみると、比較的副作用が出やすい時期や、薬物動態で効果が一番ピークになる時間帯などが個々の薬剤で異なります。薬剤師はその辺りも考慮して、いつ電話をかけるかを判断していました。
患者さんの反応
実施を始めた当初から、フォローアップに対する患者さんの反応は悪くなかったという印象です。むしろ「ありがとう」という声を多くいただきました。
ほとんどの場合、新患の問診票で緊急時や情報提供のための連絡先がフォローアップの電話番号でした。そのせいか、患者さんが番号を教えることに対する抵抗感はあまりありませんでした。しかし、電話の場合、薬局側も患者さん側も双方に時間を調整する必要があり、かけたくてもかけられないというジレンマもありました。
フォローアップ実施件数の大幅な増加
2022年からフォローアップの研修を全店で改めて実施し、本格的にフォローアップ実施を増加させていきました。また、新型コロナウイルス感染症の自宅療養の患者さんでは全例で経過を確認していますので、それも相まって、フォローアップ件数が一気に増加したという印象です。
現在は全店舗のフォローアップ実施数を総計するとひと月に500件程度です。
フォローアップの手段
フォローアップの手段のメインはSMSで、他に電話や専用のアプリを利用するケースもあります。
SMSは携帯電話の番号さえわかれば送信できるという、間口が広く使いやすいツールだと思います。高齢者はメッセージ機能のツールが使いづらいのではないかという思いも杞憂に終わりました。60~70歳代の多くは、スマートフォンを持っておりメッセージツールも十分に使いこなせますので、メッセージツールで対応可能です。
もちろん、患者さんがメッセージツールを使用できなかったり電話ご希望の方にはお電話しています。80歳代以降や小児の患者さんではご家族へのSMS送信もあります。また、後期高齢者の場合は在宅訪問の対象であることも多いです。
フォローアップ送信日時の取り決め
電話と同様、メッセージツールでも送信日時を事前に取り決めるケースがほとんどです。
まずは、投薬時に「後日、携帯電話にショートメッセージを送信させていただいてよろしいですか」とお声がけし、了承が得られたら、事前に伺っている電話番号を確認後、送信の日時をご相談します。
送信日時は患者さんのご都合を最優先しますが、先述のとおり、薬学的には、副作用が出やすい時期や症状が変化しやすい時期を考慮して日時を設定することが重要ですので、その点もご相談して決定します。
フォローアップの事例
事例1は、服薬アドヒアランスの不良を聞き取ったケースです。
3歳児で、便秘でラクツロースが久しぶりに処方されました。服用後3日目のタイミングでSMSをお母さんに送信したところ、「一口飲むのがやっと」との返信がありました。そこで、処方元の医療機関へ連絡し、他の薬への変更の検討の可能性についてトレーシングレポートを提出しました。患者さんが小児の場合、新規または急性期の薬剤の処方時は基本的にフォローアップを実施しています。
処方薬 |
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フォローアップ の概要 |
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フォローアップ の報告 |
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事例2は、副作用の発現を聞き取ったケースです。
0歳児で抗生剤を含む複数の薬が処方されました。服用3日目から下痢症状がみられるとのことでした。処方元に、次回から整腸剤の処方をご提案する旨をトレーシングレポートに記載しました。
処方薬 |
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フォローアップ の概要 |
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フォローアップ の報告 |
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事例3は、医療機関への連絡を患者さん側から要請されたケースです。
新型コロナウイルス感染症の4歳児で、お母さんから「咳症状が強くなり一部の薬が飲めていないために病院に連絡したが、電話がつながらないので、薬局からも連絡を付けてほしい」と依頼されました。
処方薬 |
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フォローアップの背景 と概要 |
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フォローアップ の報告 |
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成功事例の共有の重要性
現在は薬剤師を対象とした研修会を定期的に実施し、その中で成功事例を共有しています。成功事例の共有はモチベーションのアップにつながります。フォローアップに抵抗がある薬剤師がいたとして、フォローアップ後に患者さんから感謝の言葉をいただいたとしたら、成功体験として次につながります。
当初は質より量を目指しました。というのも、「根拠が薄いために医療機関へ情報提供すべきか判定ができない」などと小難しく考える薬剤師も少なくなかったので、「まずはやってみよう」という精神が重要だと考えたのです。そのために役立ったのが、フォローアップがうまくいっている店舗の事例紹介で、声がけの仕方なども共有しました。
フォーマットを作成し、さらなる質の向上を
最近ではフォローアップ実施数が増えてきたので、質も追及しているところです。当社では、適切なフォローアップ実施のために、フォローアップ内容をフォーマットとして規定する準備を現在進めています。
たとえば糖尿病には、新たにインスリン注射の適用になった患者さん、SU剤を使用中の患者さん、あるいは新たにSU剤を導入した患者さん、低血糖がよくみられる患者さんなど、さまざまなケースがあります。これらに対し、それぞれに適切なフォローアップが実施できるよう、聞き取り内容のフォーマット資料を現在作成しています。完成次第、現場で配布する予定です。
また、吸入薬や、麻薬や抗がん剤などの糖尿病以外のハイリスク薬など、細かくフォローアップが必要な薬剤に関しても、同様にフォーマットを作成中です(表)。
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これまではどちらかというと、薬局グループ全体での大まかな方向性は示していたものの、詳細内容に関しては個人の薬剤師の能力に任せていました。
今後は、フォローアップの質のさらなる向上と均てん化を目指しています。当社の目標は、フォローアップを含めた対人業務で患者さんの満足度を高め、かかりつけ薬局にしてもらうことです。