民間企業の法定雇用率は2.3%、従業員を43.5人以上雇用している事業主は障害者を1人以上雇用しなければならない、という障害者雇用率制度があります。今回、ファーマスタイルでは、薬局グループの特例子会社として重度障害者を雇用しているクオールアシスト株式会社と、障害者の就労支援をしている株式会社ワイズキャリアに取材し、障害者雇用の実際のところを聞きました。
クオールアシスト株式会社の基本情報
クオールアシスト株式会社は、クオールホールディングス株式会社の特例子会社(障害がある方の雇用の促進と安定を図るために設立された会社)です。設立当初は従業員数がおよそ15名でしたが、現在では51名にまで増加しました。多くが重度の障害を持ち在宅で勤務しています。雇用形態は契約社員です。
事業内容は、グループ企業の人事・経理・総務といった分野の事務作業のサポートや、各企業で使用するアイテムの制作(ポスター、チラシ、名刺、印刷、ホームページ)です。これらの業務を、入力業務、イラストデザイン、WEB制作という3種類のグループに分かれて実施しています。イラストデザイングループでは、ポスターなど薬局の掲示物のデザイン、会社案内や年賀状などの制作、WEB制作グループでは、ホームページ制作とメンテナンスを実施し自社のHPも内製しています。
在宅勤務の難しさと意義 重度の障害者雇用
医療に携わる企業の社会的な役割として、障害者雇用発展のために重度の障害者が積極的に働けるような環境を整備したい、という当時の代表の強い思いから2009年に保険薬局業界では全国で初めてとなる特例子会社を設立しました。従業員を通勤が困難な障害をお持ちの方に限定しているため、出社勤務ではなく在宅勤務を前提としましたが、コロナ禍になるずっと前の2009年は現在と異なり、在宅勤務という形式はとても珍しいものでした。
私たちは従業員一人ひとりと面談しながら在宅勤務を実施できる形を模索してきました。障害者ということもあり、就業中のコミュニケーションは、映像ではなく音声のみのコミュニケーションまたは文字ベースの形です。顔の表情などが見えないため、相手が考えていることが分かりづらく当初は戸惑いもありました。ただ、徐々に声のトーンで感じ取れるようにもなってきました。
重度の障害者の雇用から入社の実際
従業員を雇用する際は、公共職業安定所(ハローワーク)や地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、在宅雇用支援団体などと密に連携しています。
また、採用前は、業務スキルと業務実施の環境確認という意味で、候補の方のご自宅を必ず一度訪問させてもらっています。履歴書記載の資格だけでなく実際に当社の業務を実施した場合のスキルはどのようなものなのか、どのような形でPCを扱っているか、当社の業務実施にあたり通常のもの以外にPC周辺機器をそろえる必要があるか。こうした事項を確認します。
入社後は、2カ月間の研修期間を経て業務の様子や会社全体の業務状況を鑑みて配属を決定し、本格的に業務を開始します。治療や訪問介護、リハビリなどの面で生活リズムが個々に異なりますので、規定する所定の勤務時間数をもとに勤務日時は各人に自由に管理してもらうという、コアタイム無しのフルフレックス制を採用しています。ただし、障害者雇用といっても、PCの貸与や在宅勤務手当(Wi-Fiや光熱費の一部)という一般的な制度以外に特別な制度は設けていません。
業務クオリティは健常者と変わらない グループリーダーを設置して円滑に進行
業務の開始時と終了時にはメールで報告をしてもらっていますが、特に大切なのが体調に関する報告です。従業員は全国にいますので、体調面などで何かが発生した時には生活支援センターの方に連絡し一時的な対応をお願いしています。また、業務状況の管理として、グループリーダーを設定し、各リーダーがグループ内のメンバーへ業務を振り分けています。
デザイングループでは、制作物が完成するまで、グループリーダーやデザイン担当が自らクライアント様と何度もメールでやりとりし、クライアント様のイメージやご希望に沿うようなものに仕上げます。こうしたコミュニケーションを元に制作しますので、アウトプットは健常者が手がけるものと何ら変わりはないと当社はとらえています。
当社への発注主は基本的にクオール薬局やクオールグループの各企業ですが、デザインについては、個人用の年賀状や、個人商店のパン屋さんのロゴやキャラクターの制作、福祉の事業所と連携してギフト販売のチラシ作成などジャンルを越えて手がけています。
やりがいをもって一日でも長く働き年に1回は皆で会いたい
当社の社員は業務外として、大学でバリアフリーをテーマに講義をしたり、マラソンや卓球などのパラスポーツの全国大会にも出場したりと、社会活動に参加しています。パラリンピック正式種目でもある「ボッチャ」の体験会の講師も積極的に実施しています。個人単位の参加ですが、会社としてもこうした社外活動を応援しています。
事故や進行性の難病などによって重度の障害となった当社の社員には、一日でも長く働けるような環境を整えていきたいです。義務ではなく仕事にやりがいが持てるようになってもらいたいと思います。また、社員が在宅勤務で全国に点在していますが、コロナ禍の前までは一年に一度集合する機会を設けていました。重度障害のために移動と宿泊が大変ですが、同じ方向を目指している社員同士が直接会うような機会はコロナが収束したら再開したいです。
コアタイムなしのフレックス制、リモートの魅力
社員Aさん(愛知県:脳性麻痺)
私は、脳性麻痺による筋力の低下で車いすの利用者です。現在、クオールアシストでデータ入力やExcelでデータの編集や加工などを担当しています。
養護学校(現在の特別支援学校)卒業後、電車通勤をしていましたが、足の状態が悪化し車通勤が可能な企業に転職。しかし、フレックスタイム制ではなく通院や体調不良で勤務時間の変更が難しい環境でした。
出産を機に退職し子育てに専念していましたが、子供が保育園に通い始めて、自分の時間ができると「もう一度仕事がしたい」と思うようになり、職を探しました。しかし、車いす利用者を受け入れてくれる企業はなく諦めかけていた時、クオールアシストを知り入社しました。
私が考える当社の魅力は、コアタイムなしのフレックスタイム制です。通院など自分の状況に応じて勤務日程を組むことができます。 また、リモートワークをすることで障害を持つ私が安心できる環境(自宅)で仕事ができることも大きな魅力です。
クオールアシスト株式会社よりお知らせ
クオールアシスト株式会社では、各種ポスター・チラシ・名刺の制作ならびに印刷、ホームページ制作・更新・管理業務を承っております。ご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
クオールアシスト株式会社
〒103-0027 東京都中央区日本橋2-14-1 フロントプレイス日本橋9階
TEL:03-3510-0485
HP:http://www.qol-assist.co.jp/index.html
代表取締役社長 松原 恵利香