近年の薬剤師を取り巻く環境は決してやさしいものではありません。将来に不安がある方も少なくない中、薬剤師になったばかりの若手は何をどう感じているのでしょうか。一般社団法人リード・コンファーマ/志薬塾/一般社団法人埼玉県薬剤師会青年部主催のイベント「PJ-Fes」の、新人薬剤師の対談企画を取材しました。
薬剤師に対する学生時代のイメージ、実際はどうだった?
松村 薬剤師になってから私は在宅訪問も実施していますが、学生の頃は薬局の中で働いているイメージしかなかったですね。また、私が就職活動をしていたのは“薬剤師不要論”が世間で騒がれていた数年前だったので、当時は将来に不安な気持ちがありました。
まい丼 私は薬学部の実習前後で薬剤師に対する印象が変わりました。実習前は松村さんと同じく薬局内で黙々と働いているイメージでした。でも、在宅を積極的に実施されている薬局で実習して、患者さんと想像よりも近い距離感で接していて、患者さんから感謝される職業だったんだなと感じました。
松村 私は就職して実際に働き始めてから初めて患者さんに感謝された体験をしました。その時に、自分のやっている仕事は目の前にいる患者さんにとって価値があることだったのだなと誇りに感じました。
薬剤師になってぶつかった、コミュニケーションの壁
まい丼 薬学部時代には、薬剤師はお薬の情報を患者さんに与えるものと思っていたのですが、薬剤師の業務に実際にやってみると、「与える」よりも患者さんから情報を「引き出す」ことが重要と感じています。コミュニケーション能力が必要な職業ですよね。私自身はまだその辺りが課題です。
松村 難しいですよね。学生の時はコミュニケーション能力を鍛えるために他学部の人とイベントで交流したりしていましたが、薬剤師として必要なコミュニケーションはそれとはまた違ったりしていて。まい丼さんと同じように、私も薬剤師は伝えることが役割だと思っていました。でも、それをただ言葉で発しただけでは相手には伝わっていないんですよね。「伝えること」と「伝わること」は全然違うと薬剤師になってから実感しました。
まい丼 たしかに!
松村 自分が話好きなので積極的に話そうとしてしまうんです。でもまい丼さんのとおり、薬剤師が患者さんと話す時は自分からの情報よりも、患者さんから聞き出すことが重要だと思います。会話中に私がひと言、口を挟んだせいで、心の内を言えなかった患者さんはこれまでたくさんいたのではないかと思うんです。ですので、今は言葉を待つことを意識しています。
知識の無さを補うために少しずつステップアップ
松村 薬剤師1年目の秋頃、知識がないという自覚があるのにそのまま患者さんとお話ししていて良いのかと悩みました。当時この悩みは怖くて周囲にも言えませんでした。この悩みはまだ現在進行中ですが、知識をつけるためにガイドラインを読み込むなど少しずつ克服しようとしています。
まい丼 私も松村さんと同じで、知識の無さに悩んでいます。今のところは先輩の真似をしながら経験を積んでいこうと思っています。
松村 参考にしたいのですが、どんなことを真似するのですか?
まい丼 たとえば、私が副作用について伝えると患者さんに怖がられることがあるのですが、もっと柔らかい表現で副作用を患者さんにうまく伝えている先輩がいます。その先輩を真似て、私もなるべくソフトに副作用を伝えるように心がけるようになりました。
松村 なるほど、それ真似しよう!
他職種とのコミュニケーションはどうしている?
松村 私は施設在宅に訪問していますが、その施設の看護師さんは毎日長時間患者さんに接していますので、症状の状態や薬剤の効果や副作用については看護師さんによく確認しています。看護師さん同士の雑談にも積極的に入って自分の名前を覚えてもらいました。
まい丼 すごいですね!私は多職種の方とは電話でのやり取りが主ですが、詳細を電話で確認することがまだしっかりとできない時があり、これも私の今の課題のひとつです。
松村 私も1年目の時は他職種への確認が苦手でしたね。
まい丼 確認がうまくなるにはどうしたら良いですか?
松村 私は、確認について毎回テーマのようなものを決めてそれを重点的に確認したり、医師、看護師、ケアスタッフの方に確認する順序をシーンや相手の方によって変えたりしていましたね。そんな試行錯誤を繰り返しながら少しずつ実践できるようになりました。
まい丼 薬学部の時、医学部の同級生と話す授業がありましたが、同世代なのでニュアンスが伝わりやすかったんです。でも、社会に出て薬剤師として他職種の方ととるコミュニケーションはそれとは全く違うものでした。
松村 同感です。薬剤師の現場で医師や看護師の方と話す時はお互いの年や経験が全く異なることもあり、ちょっとした表現の違いで全く別の意味にとられてしまうことがあるように感じています。
これからの薬剤師はどうあるべき?
松村 私のこれからの目標は「患者さん、医師、看護師など、そのとき相対する方の人生を薬剤師として豊かにすることを目指していくこと」です。相対するのが患者さんであれば、薬剤のことはもちろん、生活や悩みなどにも薬剤師としてサポートできることを実施していければと思います。
まい丼 私は、薬剤師の業務のほかに動画クリエイターの活動をしていて思うのですが、薬剤師という資格を活かせるのは、調剤薬局、ドラッグストア、病院だけではないかもしれないなと思っています。私が出会った中で、水族館経営をしながら医療に携わっていたり、SNSを活用した働き方を実践している薬剤師さんもいますし、これからは薬剤師プラス自分ならではの何かを探すことが重要ではないかなと思っています。でもその前に、薬剤師としてはまだ新人の私は、現場で患者さんと向き合い先輩方のように一人前になれるように、毎日頑張ります!
また、本イベントでは、生命保険、薬学生や若手薬剤師に向けた勉強会、電子薬歴、薬局経営ソリューションサービス、ハーブティー、電子お薬手帳、アレルギー対応食品といった、様々な製品に関するブースが出展しました。セミナー聴講者だけでなく、ブース同士が気軽にコミュニケーションをとってお互いのサービスを体験するという、新しいコミュニケーションのあり方が試みられました。 本イベント以外にも、一般社団法人リード・コンファーマでは薬剤師の研修セミナーや交流会などを開催しています。
https://lead-conpharm.or.jp