薬局経営者、臨床教授、そして薬局薬学のエディターとしても活躍中の山本雄一郎氏の新刊『誰も教えてくれなかった 実践 薬学管理』(じほう)が2022年11月に発刊されました。今回、著者の山本氏に新刊のテーマである「継続的な薬学管理の考え方」についてお伺いしました。
薬局薬剤師はもっとやれる、今のままではもったいない
僕は、薬歴こそが継続的な薬学管理のベースになっていると思います。薬歴を見れば、できる薬局かそうでないかが分かると言ってもいいでしょう。できる薬局は、服薬指導をやりっぱなしにしていません。たとえ薬歴に立派な服薬指導を記載していても、その後の対応や患者の経過に関する記載がなく、継続的な薬学管理ができていないというのは実にもったいないです。
僕が薬歴についてお話をするとき、患者の医療安全、そして薬剤師のアイデンティティという視点から、いつも「薬歴の中に患者はいますか?そこに薬学はありますか?」と問いかけます。本書では、そのような患者のための継続的な薬学管理を実践するために、POSの考えのもとSOAP形式の薬歴を紹介し、多様なDIツールをそれぞれどう使いこなすか、また添付文書に記載がなくても薬剤師が知っておくべきPISCSの活用法や、薬局での症例検討会、薬剤師の勉強法などについて具体的に説明しています。
僕自身、薬局薬剤師が正当に評価されていないことに対する苛立ちがあります。薬局薬剤師はもっとやれるし、今のままではもったいない。それをなんとかしたいという思いでこれまで薬局薬学のエディターとして情報発信をしてきました。本書はこれまで発表した2冊に盛り込むことができなった内容をすべて盛り込んだ、僕の集大成とも言える作品です。皆様が患者のための継続的な薬学管理を実践する上で、本書がお役に立てるものと信じています。
誰も教えてくれなかった実践薬学管理
薬剤師は「薬」の専門家なので、どうしても薬に意識が向きがちです。これはもちろん、薬を多面的に分析・評価できるという薬剤師の“強み”なのですが、同時に、その薬を使う「患者さん」という存在を置き去りにして考えてしまいがちな“弱み”にもなります。この弱みを克服するには、ただ机の上で勉強するだけでなく、得た知識を実臨床でたくさん活用していろいろな経験を積む必要があります。しかし、一人の人間がどれだけ頑張っても、積める経験の量には限界があります。そのため自己研鑽には、“他人の経験”も吸収し、自分の血肉にしていくという視点が重要になります。
この書籍では、薬剤師が添付文書や診療ガイドラインといったツールから得た薬に関する情報を、どのように活用すれば患者さんの人生に貢献できるのか、その具体的なヒントが「薬学」という切り口からたくさん紹介されています。服薬指導、薬歴、トレーシングレポート、処方提案、服薬後フォローアップ、症例検討会などさまざまな場面で薬剤師として何を考え、どのような戦略を組み立てればよいのかを丁寧に教えてくれるその姿勢は、さながら職場でいつも隣に居て、ちょっと困ったときにいろいろな経験を共有してくれる“良き先輩”のような存在といえます。
私たち薬剤師には、薬を通して患者さんをみるという「薬学」によって、世の中を良くしていく力があります。ただ知識をつけるだけでは身につきにくいその力を、鍛えて、発揮して、そして次に繋いでいく方法を掴む――多くの薬剤師にとって、そんな大事な1冊になると思います。(評 児島 悠史|株式会社sing/Fizz-DI)