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Special Report

知っておきたい、心房細動の発見から治療、 そして術後管理。

2023年11月号
知っておきたい、心房細動の発見から治療、そして術後管理。―「心房細動の再発」検出にも有効な家庭での心電図記録―の画像

心房細動の国内患者数は高齢化社会に伴い年々増加しているが、無症状の患者も多く、より多くの患者がいるといわれている。2023年9月28日に開催されたオムロン ヘルスケア株式会社メディアセミナーにて、京都府立医科大学不整脈先進医療学講座准教授の妹尾恵太郎氏が、心房細動の概要や治療法、早期発見の重要性などについて解説した。

心房細動とは頻脈性と徐脈性の2種類

心房細動は心房内に流れる電気信号の乱れによって起きる不整脈の一種で、心房が摩擦したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる疾患である。さらに心房細動には脈が速くなる頻脈性(100回以上/分)と遅くなる徐脈性(60回未満/分)がある。頻脈性の主な症状は動悸、胸苦しさ、呼吸困難、めまい。徐脈性の場合は失神、めまい、疲れやすさといった症状を呈する。

無症状が4割を占める

現在の国内の心房細動の患者数は、推定で100万人を超えるという。年々心房細動の患者数は増えており、2030年には推定患者数が108万人を超えると予測されている。高齢化社会に伴い、心房細動の罹患率はこれからも上がっていくと予想されている。ただし、京都府立医科大学不整脈先進医療学講座准教授の妹尾 恵太郎氏は、「心房細動は4割が無症状で、実際はもっと患者数が多い」と指摘する。

血栓を生み出す心房細動 恐れるは脳梗塞のリスク

妹尾氏は、心房細動を起こしている心臓の状態を次のように解説する。「心臓の中にある電気信号が乱れることで、心房、特に左心房の中の肺静脈の中から異常な電気興奮が発生し、心臓の中をグルグルと回りだす。すると心房が摩擦したように細かく震える状態になる」(図1)。その結果、血液を全身にうまく送り出せなくなるという。

図1 正常な心臓と心房細動
正常な心臓と心房細動の画像

正常な心臓(左)は、右心房の洞結節からの電気信号により1分間に60~100回の規則的なリズムで拍動している。心房細動(右)は、左心房の中の肺静脈の中から異常な電気興奮が発生し、心臓の中をグルグルと回りだすなど、洞結節以外から無秩序に電気信号が発生し、正常な拍動が行えなくなる状態。

オムロン ヘルスケア株式会社「高血圧」「心房細動」Factbook 2023より作成

また、心房細動は脳梗塞へ発展するリスクがある。「心房細動によって心房の中で血液がグルグルと充満して淀むことで、血液が固まって血栓ができやすくなる。その血栓が血流に乗って全身に飛んでしまうことがある。血栓が脳へ飛び脳梗塞を引き起こす、これが最も恐れること」だという。
心房細動から起きる脳梗塞を「心原性脳塞栓症」という。「心原性脳塞栓症は他の脳塞栓症と比較して、命に関わる重篤な脳梗塞になることが多い」と妹尾氏は指摘。「一命をとりとめたとしても、麻痺や寝たきりなど重い後遺症を残す方も多い」と話す。

心房細動のリスク高

講演では、心房細動の発症リスクとして、心臓由来の心不全や高血圧、狭心症、心筋梗塞、弁膜症のほかに、心臓由来ではない加齢や肥満、糖尿病、飲酒や喫煙の習慣、睡眠時無呼吸症候群、ストレス、甲状腺機能亢進症が列挙された。
このうち、高血圧、肥満、糖尿病、飲酒や喫煙の習慣、睡眠時無呼吸症候群はメタボリックシンドロームに深く関係している。妹尾氏は「不規則なライフスタイルの人は心房細動になりやすい。」と指摘。心房細動の患者のうち20〜30%が心不全を合併し、全脳梗塞患者の原因の20〜30%を心房細動が占める、といった他の心血管疾患との関係性も解説する。
最近では、心房細動の罹患期間が長いと認知症の発症率が1.4~1.6倍に上昇するともいわれているという。このデータは脳梗塞の既往に関わらないとのことで血管性認知症だけではなさそうだ。心房細動はこうした種々の疾患を引き起こしQOLも低下させる。心房細動を発症させない、あるいは早期の発見と介入が重要だと妹尾氏は説く。

発見から診断、治療までの流れ

妹尾氏によれば、心房細動は軽い息切れや動悸の自覚症状を訴え診断されるケースが多い。
一方で、健診の心電図異常で可能性を指摘されても無症状や軽度の場合は受診されず放置されているケースも多いという。症状があっても軽度であれば徐々に体が慣れてしまいやがて自覚しなくなる、という患者も多い。妹尾氏は、健診結果での異常検知で終わらせることなく、医療機関の受診により診断を確定させ、治療までこぎつけるよう訴える(図2)。

図2 心房細動発見から診断、治療の流れ
心房細動発見から診断、治療の流れの画像
妹尾氏提供資料より

早期発見・早期治療の重要性

確定診断後の心房細動の治療は「ABC pathway」という統合的なアプローチ法に基づく。すなわち抗凝固療法、抗不整脈薬やカテーテルアブレーションによる症状に対する治療、生活習慣病等の併存疾患に対する治療を進めていく。
妹尾氏は、心血管疾患併発の心房細動患者において、心房細動の早期治療が心血管有害事象を有意に減らしたという研究結果を紹介。心房細動の早期治療介入は、心血管有害事象の減少につながるとし、「心房細動を発見した際、1年未満に治療介入すればその後の心血管イベントを下げることができる」と患者さんに伝え、早期の治療開始を促しているという。

※カテーテルアブレーション
カテーテルを足の付け根の血管から心臓の左心房の肺静脈まで入れ、異常な電気信号を出している部位を70度~80度の熱で焼却する方法(心筋の焼却術)

高い再発リスク 家庭での術後経過確認が重要

心房細動はカテーテル治療後も30~40%の再発リスクがある。また、再発例の半数以上は無症候性という。そのため、術後も家庭等での継続的な心電図記録と経過確認が必要、と妹尾氏は患者さんに伝えている。
妹尾氏は、家庭で心電図を記録した場合と、家庭で心電図を記録せずに通常診療のみ実施した場合の心房細動の再発状況を比較した(図3)。カテーテル治療後に心房細動の再発が検出された割合は、家庭で心電図を記録しなかった通常診療のみの集団に比べ、心電図を記録した集団で多かった。

図3 家庭での心電記録と通常診療における心房細動再発の検出を比較
対象者
アブレーション手術予定の持続性の心房細動患者(最終解析対象者94名)
実施事項
12カ月のフォローアップ期間中、心電計付き上腕式血圧計を用いて毎日、朝・晩の血圧測定と心電図記録を実施。また、3カ月ごとの医療機関における通常診療にて、12誘導心電図およびホルター心電図を記録。
フォローアップ期間中の心房細動再発の検出結果
家庭での心電図記録(31名、33%)、通常診療(18名、19%)よりも多く再発を検出。家庭での心電図記録による検出は、通常診療よりも40.9±73.9日早い。
妹尾氏提供資料より

さらに家庭で心電図を記録することで「40日程度早期に心房細動の再発が発見され、医師の次のアクションに早くつながった」と妹尾氏は振り返り、家庭での心電図記録の有用性を訴える。

セルフモニタリングで実現する働き方改革
患者自身で自分の身体を守る意識づけを

カテーテル治療直後から5年間を追うと、心房細動の再発率は経時的に上昇する。妹尾氏によると、カテーテル治療後の外来間隔やフォロー継続期間は主治医によって差が大きい、という。妹尾氏は、「1年間は主治医がしっかり外来でフォローアップし、その後は、患者さん自身が家庭用の心電図記録などでモニタリングしてほしい。そこで心房細動の疑いがあると検出された際に受診してほしい」と訴える。このようなフォローアップが実現すれば、再発率のリスクをカバーしながら、医師の働き方改革の面から医療従事者の負荷も軽減できると話す。
妹尾氏は「患者さんも自分の身体は自分で守るという時代になってきているので、セルフモニタリングをしっかりしてもらいたい。医師側はそのモニタリング結果を重視し活用していってほしい」とまとめた。

【心房細動アプリ】

妹尾氏も開発に携わる心房細動患者さんのための健康管理アプリ。治療の重要性に関する解説動画なども収載。
android版
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.h_tiq.shinbosaido&hl=ja&gl=US&pli=1

iOS版
https://apps.apple.com/jp/app/%E5%BF%83%E6%88%BF%E7%B4%B0%E5%8B%95%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA/id1415593338

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