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基礎から学ぶ 薬剤師視点を生かす在宅栄養管理

2024年4月号
基礎から学ぶ薬剤師視点を生かす在宅栄養管理の画像

栄養状態が治療の成果に大きく影響を及ぼすことは広く認知されており、在宅栄養管理についての知識を持った薬剤師が多職種連携に関わることで、治療効果の向上が期待できる。2024年度の診療報酬改定でも、薬局の在宅医療へのより一層の注力に対する期待がみえるなか、今回は一般社団法人薬学ゼミナール生涯学習センター主催「在宅栄養管理で深めておきたい知識 薬剤師が診ている視点とアセスメント」(2023年10月公開講座)を取り上げ、薬剤師でNST専門療法士の認定を持つ小林篤史氏による在宅栄養管理のポイントを紹介する。

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摂食・嚥下の5段階と薬剤の影響

咀嚼・嚥下、消化・吸収、代謝、感覚の各機能は加齢に伴って低下する。小林氏は「機能低下と薬剤の関連に着目することで、薬剤師ならではの栄養管理が可能」と指摘する。
摂食嚥下障害は、①脳疾患や神経変性疾患による機能的障害、②嚥下関連器官の腫瘍・炎症などによる器質的障害、③認知症やうつ・拒食などによる神経心理的障害、に分類される。特に「薬剤の影響によって機能的障害が生じることがある点は注意すべき」と小林氏。ただ、薬剤性の嚥下障害は、原因となる薬剤の中止などで改善する可能性はあるが、それが引き金になって脱水や低栄養などを誘発し、状態を悪化させるリスクもある。小林氏は、状態の悪化を防ぐために薬剤・栄養の両面から薬剤師が服薬の是非を検討、提案できれば理想と考える。
摂食・嚥下の5段階(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)の概要と、影響を及ぼす可能性のある薬剤を図で示す。

図 摂食・嚥下の5段階と影響を与える薬剤例
先行期

食物に関する情報を認識する時期。食欲不振を起こしたり、眠気や鎮静などによる意識低下を招いたりする薬剤の影響に注意する。

準備期

口腔内に入った食物を咀嚼し、唾液分泌によって食塊を形成する時期。唾液の分泌低下による口腔乾燥や、意識低下、口腔粘膜障害、味覚障害を引き起こす薬剤の影響を考慮する。

口腔期

食塊を口腔から咽頭に送る時期。舌および口蓋間の圧力、下顎などの筋力が必要になる。筋力低下、機能障害を引き起こす薬剤の影響に留意する。特に錐体外路障害に注意。

咽頭期

嚥下反射によって食塊が咽頭を通過する時期。嚥下反射に必要な機能の協調性を低下させるような薬剤の影響に注意する。

食道期

食塊を食道の蠕動運動で胃に送り込む時期。食道粘膜に影響を及ぼす薬剤の影響に注意する。

摂食・嚥下の5段階と影響を与える薬剤例の画像
影響を与える薬剤例
【先行期】
  • 食欲不振、眠気や鎮静などによる意識低下…向精神薬、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、睡眠薬、抗ヒスタミン薬(抗コリン作用)、抗痙攣薬、医療用麻薬、亜鉛とキレート形成をする薬剤、非ステロイド性抗炎症薬
【準備期】
  • 咀嚼行動の障害…向精神薬、メトクロプラミド、ドンペリドン、錐体外路障害を起こす薬剤
  • 唾液分泌機能低下…抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、利尿薬
  • 咀嚼時の感覚異常…亜鉛による味覚障害、抗悪性腫瘍薬による味覚異常、ベンゾジアゼピン系向精神薬
【口腔期】
  • 筋肉の筋力低下や機能障害…筋弛緩薬、抗不安薬、錐体外路障害を起こす薬剤(開口・舌運動障害に注意)
【咽頭期】
  • 輪状咽頭部協調不能、下部咽頭部協調不能による誤嚥…ベンゾジアゼピン系薬物
【食道期】
  • 食道粘膜の潰瘍…非ステロイド性抗炎症薬、酸性刺激薬(テトラサイクリン系抗菌薬、抗がん剤)、ビスホスホネート製剤
  • 下部食道括約筋圧の低下…Ca拮抗薬、テオフィリン、亜硝酸剤、ベンゾジアゼピン系、ジフェンヒドラミン、プロプラノロール、アテノロール、フェノバルビタール

小林氏講演より編集部作成

低栄養による生存率の低下 脱水症と重なる特徴も押さえる

高齢になると、消化管機能の低下により、栄養素の吸収能が弱まる。また、体内の水分量が減少し、脂溶性薬物の血中濃度が上がりやすくなる。代謝機能については、肝臓で肝血流量の減少、肝機能の低下がみられる。さらに、腎血流量の減少、腎機能の低下で腎排泄型の薬剤の血中濃度が上がりやすくなる。このように、高齢者は薬剤の副作用が現れやすい状態になるため、薬剤と食事との関係に着目し、吸収、分布、代謝、排泄を意識することが重要になる。
「平成25年国民生活基礎調査」によると、日本人の65歳以上の10人に1人が転倒・骨折で介護が必要になる。小林氏は「その背景にはサルコペニア、フレイルがあり、加えて低栄養が絡むと、ふらつき
転倒・骨折
寝たきりという経過をたどることになる。そのような状態になる前に低栄養の改善に取り組む必要がある」と強調する。
入院患者の栄養状態と転帰に関する調査では、簡易栄養状態評価(MNA)の栄養状態良好群は、低栄養リスク群に比べて1年後の生存率が2倍程度高いという。また、低栄養患者の入院30日後の死亡率は、がん患者で2.5倍、慢性心不全で2倍高いという報告も小林氏は紹介。疾病の観点からも、低栄養は改善すべきリスクと考えられる。
低栄養の主な症状は、痩せてきている、足やお腹が浮腫む、握力が弱い、傷が治りにくい、などが挙げられる。その他にも、便秘が続く、口腔内・舌・唇が乾く、食欲がない、よろけやすい、だるそう・元気がない、皮膚が乾燥している、尿が少なく色が濃い、といった症状もみられるが、これらは脱水症の症状とも重なる。小林氏は、低栄養と脱水の関連性を指摘し、低栄養の状態をしっかりイメージし、判断できるようにと促す。

栄養アセスメントは見て、触れて客観的に評価

栄養管理は、栄養障害によってもたらされる機能的障害や合併症を予防し、治療成績の向上を図ることが目的であり、栄養スクリーニング・栄養アセスメント
栄養管理計画
栄養管理の実践
モニタリング/治療効果の判定栄養管理計画の見直し
治療終了
、の流れで行われる。
栄養アセスメントにおいて、小林氏が主観的包括的アセスメントとして重視するのは、体重変化(過去6カ月と直近2週間)、食事摂取量と食形態の変化、消化器症状(嘔気・嘔吐・下痢などの症状、程度、期間)、機能性(歩行状態、寝たきりなどのADL)、全身状態(浮腫、褥瘡、脱水の有無や程度)で、「スクリーニングに時間をかけず、簡便かつ誰でも理解できるような指標を使うことがポイント」とアドバイスする。さらに、「MNAの評価シートなどを使うのも有効だが、患者の表情や動き、手で触れてみたときの感触など、客観的に患者を見て評価することを重視」と付け加える。

栄養素投与量を決める7つのポイント

それでは、実際、栄養素の必要投与量はどのように決定するのか――。小林氏は慢性疾患で状態が比較的安定している患者に対する栄養素投与について、7項目の主なポイントを挙げている。

1)病態の評価と栄養アセスメントを行い、目標を定める

アセスメントとして栄養パラメーター(身体計測、血液・尿生化学、免疫能など)を評価する。おもなポイントを示す。

  • 体重減少率:1カ月で5%以上、3カ月で7.5%以上、6カ月で

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