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Special Report

令和5年度 緊急避妊薬の試験販売 結果報告書を振り返る

2024年8月号
令和5年度 緊急避妊薬の試験販売 結果報告書を振り返るの画像

緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業(厚生労働省医薬局医薬品審査管理課委託事業)として、薬局における緊急避妊薬の試験販売が2023年11月から開始されました。Part1では、2024年5月10日に厚生労働省が公開した当調査事業の令和5年度 結果報告書の内容をお伝えします。
Part 2:試験販売後の独自アンケート調査や海外との違いから課題を考える

試験販売の背景と目的

2023年11月28日から開始となった緊急避妊薬の薬局での試験販売。背景には、アクセス向上のために医師の処方箋なしで、薬局等で購入できる仕組みがこれまで繰り返し要望され、そのたびに検討されてきたことがある。
2017年に緊急避妊薬のスイッチOTC化は時期尚早と結論づけられた。その後、2020年12月の第5次男女共同参画基本計画において、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討することが盛り込まれた。2021年5月には、OTC化を望む市民団体からの新たな要望があった。OTCとする場合の課題や対応策について議論や検討の結果、一部薬局での試験的運用を通じて、データや情報の集積が望ましいとされた。
当調査事業の目的は、緊急避妊薬の適正販売が確保できるか、また、代替手段(チェックリスト、リーフレット等の活用等)でも問題ないかなどを調査すること。結果は、「緊急避妊薬が要指導・一般用医薬品として薬事承認申請された際の審査・審議における具体的対応策の選択・採否の一助となる」とされている。

試験販売の準備 薬局の条件と選定、説明会

緊急避妊薬の試験販売にあたり、まずは販売する協力薬局の条件が設定された(表1)。

表1 緊急避妊薬の試験販売を行う薬局の条件

原則として、以下a~dのすべての条件を満たすこと

a オンライン診療に基づく緊急避妊薬の調剤の研修を修了した薬剤師が販売可能
b 夜間及び土日祝日の対応が可能
c プライバシー確保が可能な販売施設(個室等)を有する
d 近隣の産婦人科医、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターとの連携体制を構築可能
  • bの夜間及び土日祝日の対応は、電話による相談対応を含めて、夜間については一般的な社会活動のある時間帯(概ね7時~23時)の間の対応ができること。モデル内の薬局間連携により対応できる体制とされた。
  • dの産婦人科医との連携については、薬局において緊急避妊が必要であるが販売不可と判断した場合や、販売・服用は可能であるが受診が必要と判断した場合に、薬局から紹介が可能な産婦人科医がいる医療機関。
  • この条件をもとに、日本薬剤師会と都道府県薬剤師会が連携し、同一都道府県内で相互に連携可能な立地にある2~3の薬局を1モデルとして、都道府県ごとに、原則として1モデル(人口が多い東京都、神奈川県、大阪府は2モデル)が構築され、合計50モデル、145薬局が協力薬局として選定された。そして、これらの薬局に対し、試験販売開始前に説明会が実施され、当調査事業の概要が周知された。

緊急避妊薬の試験販売に関する一般への情報提供

試験販売を実施する上では、緊急避妊薬が販売されていることを一般にも周知する必要がある。当調査事業の一般への周知の手段は、事業ホームページと、ポスター、リーフレットだ。
事業ホームページには、調査研究の説明、購入までの手順、留意事項、協力薬局リスト、緊急避妊薬に関する情報提供などが掲載されている。また、現時点で日本では緊急避妊薬は処方箋なしでは販売できず、あくまで調査研究として実施されている点も掲載。ポスターとリーフレットは協力薬局にデータで配布され、当該薬局が緊急避妊薬の販売を行っている旨などが記載されている。

販売対象と販売体制、プロトコールに基づく販売手順

販売対象者は、緊急避妊薬を購入して服用を希望し、研究参加に同意する16歳以上の女性(本人)、販売品はレボノルゲストレル錠(1.5mg)とされている。
表1の条件に基づいて選定した薬局で、オンライン診療に基づく緊急避妊薬の調剤の研修を修了した薬剤師が販売を行う。緊急避妊薬を販売する協力薬局リストは、事業ホームページの説明を読み理解した場合に閲覧できる。
緊急避妊薬の試験販売の手順は表2のとおり。また、販売プロトコールとして、「事前質問票」の記入内容や購入希望者の状態を面談で確認し、説明・指導の上、薬剤師の面前で服用することなどが定められた。

表2 緊急避妊薬の試験販売の手順
1.インフォームドコンセント
事業ホームページにおいて研究の説明(対象者、購入までの手順、留意事項、薬局リスト、使用する医薬品の説明等)を行うとともに、研究説明文書、同意文書、同意撤回書を掲載
2.薬局へ電話で事前相談
対象者には、事前に薬局へ電話で事前相談してもらう。薬局側は電話で以下を確認
  • 自薬局で販売可能か確認(時間、人員、在庫など)
    (自薬局で対応できない場合は、対応可能な別の薬局を紹介又は産婦人科医受診を案内)
  • 年齢の確認(16-17歳の場合は、保護者の同意等の確認事項あり)
  • 妊娠が心配な性交(UPSI)からの経過時間の確認
    (UPSI から72 時間以内に来局できない場合は販売の対象外)
3.薬局から購入希望者へ来局案内
2で販売可能であることを確認し、薬局への来局を案内。この段階で以下を説明
  • 本人が来局すること(16-17歳は保護者等と一緒に来局)
  • 事業ホームページで研究を理解し、研究参加の同意意思があることの確認、薬局での服用同意意思の確認
  • 薬局への持参物
  • 薬局で面談を行うこと、面談により販売できないケース(禁忌など)があること
4.薬局での薬剤師による面談
薬剤師と対象者が面談。販売可能か薬剤師が判断
  • 研究参加の同意取得の確認
  • 購入希望者が記入した「事前質問票」をもとに面談の上、販売が可能であるかを判断
5.(販売可の場合)緊急避妊薬の説明と服用、服用後指導
薬剤師が販売可能と判断した場合、以下を対応
  • 医薬品の使用に関する説明(説明後、服用について同意を受ける)
  • 服用を薬剤師が確認できる状態(面前)で服用
  • 服用後の指導
6.購入者アンケート
服用後(1回目)、服用から3~5週間後(2回目)のアンケートをインターネットにて実施

試験販売の結果

全体のデータ

販売を開始した2023年11月28⽇~2024年1月31日までの集計結果が発表された。販売数量の総数は、約2カ月間で2,181件。都道府県別では東京都が最多の266件、次いで神奈川県231件、大阪府169件だった。

来局した曜日別や時刻別のデータ

総数から販売対象者のID不一致等などを除いた1,982件が、解析対象とされた。
来局曜日別の件数は、月曜日が最多の20.5%であったものの、来局の曜日は比較的分散しており、土曜日は16.8%、日曜日は10.3%だった(表3)。
来局時刻別にみると、最も多いのが11時台で10.4%、次が12時台で10.2%。対応が懸念される夜間~早朝にかけて(21時~午前7時台)の来局はわずかだった(表4)。

表3 来局曜日別の件数
曜日 件数 %
月曜日 407 20.5
火曜日 273 13.8
水曜日 256 12.9
木曜日 240 12.1
金曜日 270 13.6
土曜日 332 16.8
日曜日 204 10.3
合計 1,982 100.0
表4 来局時刻別の件数
時刻 件数 % 時刻 件数 % 時刻 件数 %
0:00-0:59 2 0.1 8:00-8:59 25 1.3 16:00-16:59 178 9.0
1:00-1:59 1 0.1 9:00-9:59 150 7.6 17:00-17:59 184 9.3
2:00-2:59 1 0.1 10:00-10:59 186 9.4 18:00-18:59 193 9.7
3:00-3:59 1 0.1 11:00-11:59 206 10.4 19:00-19:59 88 4.4
4:00-4:59 1 0.1 12:00-12:59 203 10.2 20:00-20:59 33 1.7
5:00-5:59 1 0.1 13:00-13:59 170 8.6 21:00-21:59 6 0.3
6:00-6:59 1 0.1 14:00-14:59 167 8.4 22:00-22:59 6 0.3
7:00-7:59 3 0.2 15:00-15:59 170 8.6 23:00-23:59 6 0.3
合計 1,982 100.0

購入者へのアンケート結果

緊急避妊薬の購入者における満足度や理解度

購入者に対しては、服用直後にアンケートを依頼している。その中で、今回の緊急避妊薬の販売や服用の対応についての満足度を確認している。
それによれば、「面談した薬剤師の対応」「説明のわかりやすさ」「プライバシーへの配慮」への満足度は高く、「とても満足」の割合が8割以上を占め、「概ね満足」を含めると95%以上を占めた。一方で、「服用するまでの手続き」は「とても満足」が76.1%、「支払った費用」についての「とても満足」は38.4%であった(図1)。なお、処方箋による調剤後に服用した人の満足度においても類似の傾向がみられた。
購入・服用した人における薬剤師の説明に対する理解度については、99.8%が3段階の選択肢のうち最も高い理解度を示す「よく理解できた」を選んでいた。

図1 緊急避妊薬の服用についての満足度
緊急避妊薬の服用についての満足度の画像

薬局で支払った緊急避妊薬の費用と、薬局までの移動時間

薬局で支払った緊急避妊薬の費用は、7,000〜9,000円が99.5%とほぼ全てを占めた。もっとも、それ以外の回答には費用負担への助成制度の利用、他薬剤の購入などが含まれた可能性があるという。
薬局までの片道の移動時間は、1時間未満が77.4%だった。ただし、1時間未満の内訳は不明(表5)。

表5 薬局までの移動時間
時間(片道) 件数 %
1時間未満 1,271 77.4
1時間以上2時間未満 308 18.7
2時間以上3時間未満 21 1.3
3時間以上10時間未満 9 0.5
10時間以上 33 2.0
無回答 1 0.1
合計 1,643 100.0

その後の避妊状況、今後利用したいか

購入者には、服用後3~5週間後の状況もアンケートで調査している(回答数:1,063件)。「生理があった」は89.9%、「産婦人科を受診」は14.4%。「産婦人科を受診しなかった」(85.6%)の主な理由は、生理が確認できたためだった。
また、今後、緊急避妊薬の服用が必要になったらどうしたいか、という問いに対しては、「医師の診察を受けずに、薬局で薬剤師の面談を受けてから服用したい」という回答が最多の82.2%だった(表6)。

表6 今後、緊急避妊薬の服用が必要になったら
時間(片道) 件数 %
対面で医師の診察を受けてから服用したい 89 8.4
オンラインで医師の診察を受けてから服用したい 65 6.1
医師の診察を受けずに、薬局で薬剤師の面談を
受けてから服用したい
874 82.2
上記以外の方法がよい 35 3.3
合計 1,063 100.0

販売薬局や連携の産婦人科医の振り返り

試験販売のツール(チェックリスト、リーフレット)に対する販売薬局の所感

販売薬局(145件)への事後アンケートにおいて、販売可否判断に用いたチェックリストについての意見を聞いた結果、「チェックリストによって、緊急避妊薬販売の可否判断は容易にできたか」という問いに対して、「そう思う」もしくは「ややそう思う」と回答した割合は89.7%(130件)だった。「チェックリストに改善すべき項目等があったか」に対して「あった」と回答した割合は48.3%(70件)であった。改善すべき項目としては、「妊娠の可能性」が最も多く挙げられた。
また、緊急避妊薬販売において役に立った研修や経験として、販売薬局の86.2%(125件)が「オンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤」に係る研修が役に立ったと回答した。

産婦人科医の事後アンケート

販売薬局と連携する産婦人科への事後アンケートも集計されている。それによれば、「薬局からの紹介内容が不適切と考えられたことはありましたか」という問いに対しては、「あった」が0件、「なかった」が83.3%(10件)、「わからない」が16.7%(2件)だった。「緊急避妊薬を服用した患者さんは、薬剤師の説明を理解していたと考えますか」の問いに対しては「そう思わない」が8.3%(1件)、「わからない」が16.7%(2件)であった(図2)。「そう思わない」の理由(自由記述)は、「本当に危険な時期の説明がない。今後の対策についての説明がない」であった。薬局からの紹介内容や薬剤師の説明は概ね問題ないという回答が多かったと言えるだろう。

図2 連携した産婦人科医の所感
連携した産婦人科医の所感の画像
図表出典:令和6年3月公益社団法人日本薬剤師会 令和5年度厚生労働省医薬局医薬品審査管理課事業 「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業報告書」より作成

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試験販売後の独自アンケート調査や海外との違いから課題を考えるの画像

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