2024年10月1日より始まる長期収載品に関する選定療養費制度。2024年3月末の厚生労働省からの通知以降、対象品目や計算方法、患者向け案内など様々な情報が示され、対応の準備を急ぐ薬局も多い。今回は、YouTubeチャンネル「薬局のアンテナ」(2024年9月2日時点チャンネル登録者数;8,370名)で、薬局に関わる全ての方に役立つ情報を日々発信する運営者 てっちゃん氏に、当制度の要点とよくある疑問点などを伺った。
※本記事は2024年8月28日時点の情報で作成しております。今後の動向により、解釈が変わることもございますのでご留意ください。
選定療養費制度導入の背景
2024年10月1日より、長期収載品の処方または調剤について、選定療養費制度が導入されます。長期収載品とは、後発医薬品のある先発医薬品を指します。
そもそも選定療養とは、患者さんが追加費用を支払って選ぶ特別な医療サービスで、保険診療と併用が認められている、大まかにいえば「特別に医療保険と自費を組み合わせても良い」仕組みと捉えることができます。快適性や利便性、医療機関の選択に係るもの、具体的には個室利用などの差額のベッド代や、紹介状なく大病院を初診で受診した際などが該当します。先発医薬品については、中医協の「長期収載品における保険給付の在り方の見直し」の議論のなかで、医師が先発医薬品を指定する理由として、「患者希望が多い」との調査結果が話題に上がりました。いわゆるブランド選択のような先発医薬品の希望は、選定療養の対象と位置づける流れとなりました。
仕組みのおさらい
多くの長期収載品が選定療養の対象品目に該当します(対象外の成分は全体の3%程度)。基本的な考え方は、
- 後発医薬品の上市後5年以上のもの(後発医薬品への置換率が1%未満のものは除く)、
- 後発医薬品の上市後5年を経過していなくても、後発医薬品への置換率が50%に達しているもの、
- 長期収載品の薬価が、後発医薬品の最も高い薬価を超えていること
一方で、次のような場合は選定療養の対象外となります。
- 医療上の必要性があると認められる場合
- 在庫状況等を踏まえ、当該薬局において後発医薬品の提供が困難であり、長期収載品を調剤せざるを得ない場合
処方箋様式で選定療養の対象か否かを見分ける
選定療養費制度の導入に伴い、2024年10月から処方箋の様式も変更されます。「変更不可(医療上必要)」と、「患者希望」欄が設けられることになりました(図1)。「変更不可」の欄にチェックがあれば、選定療養の対象外、つまり「医療上の必要性により後発医薬品に変更できない(長期収載品を処方する)」ことを示します。一方で、「患者希望」欄にチェックがある場合は、選定療養の対象になります。新様式の処方箋を応需した際は、どちらの欄にチェックがあるかの確認が必要です。
ただし、10月以降も当分の間、現在の処方箋の様式(改正前処方箋)を手書き等で修正することにより使用できます。記載例と確認事項を図1で示します。
- 医療上の必要性があり、後発医薬品への変更不可の場合:「変更不可」の欄に「ㇾ」または「×」と「医療上必要」の記載、かつ「保険医署名」欄に署名または記名・押印する
- 患者希望により、長期収載品を銘柄名処方する場合:処方薬の近傍に「患者希望」等を記載し、当該判断が保険薬局に明確に伝わるようにする
- 銘柄名処方された長期収載品で、「変更不可」欄に「ㇾ」または「×」がない場合/「患者希望」の記載がない場合の長期収載品の取り扱いは薬剤師が判断
監修者提供資料をもとに編集部作成
計算方法の具体例
厚生労働省のHPには「長期収載品の選定療養の対象医薬品リスト」が公開されています。当リストには、「薬価基準収載医薬品コード」、「品名」、「成分名」、「メーカー名」、「薬価」、「後発医薬品最高価格」、「長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1」、「保険外併用療養費の算出に用いる価格」などが掲載されており、これをもとに計算します。費用のイメージを掴みやすいよう、具体的例を示します(図2)。
品名 | 成分名 | 薬価 | 後発医薬品 最高価格 |
長期収載品と 後発医薬品の 価格差の4分の1 |
保険外併用療養費 の算出に用いる 価格 |
---|---|---|---|---|---|
XX錠10mg | ***** | 100.0 | 49.3 | 12.68 | 87.32 |
A)特別の料金(選定療養による負担分)
12.68円×2錠=25.36円3点
3点×30日分=90点900円
900円×1.1(消費税)=990円
B)選定療養を除く保険対象となる費用の自己負担分
87.32円×2錠=174.64円17点
17点×30日分=510点5,100円
5,100円×3割=1,530円
★患者負担の総額(A+B)
990円 + 1,530円 = 2,520円
C)保険適用分
5,100円×7割=3,570円
- 技術料部分は別途負担が発生
- 頓服・外用・注射も現行の薬剤料の計算ルールに沿って計算
- 選定療養の対象薬剤が複数の場合は所定単位ごとに計算
監修者提供資料をもとに編集部作成
要するに、選定療養による負担分と選定療養分を除く従来の保険対象となる費用、それぞれで薬剤料を計算するというように分けて考えるということです。これは薬剤料だけの話ですので、その他の技術料の部分、調剤基本料や薬学管理料などについては今まで通り別途負担が発生します。頓服や外用、注射についても同様の考え方で計算します。
選定療養と特定薬剤管理指導3
選定療養は、特定薬剤管理指導加算3(ロ)の算定要件にも関係します。特定薬剤管理指導加算3は「保険薬剤師が患者に重点的な服薬指導が必要と認め、必要な説明及び指導を行ったときに算定する点数」であり、通常の指導に加えてより丁寧な説明が必要となる場合を評価した点数です。
[特定薬剤管理指導加算3(ロ)(5点/回)の選定療養に関する算定要件概要]
- 患者1人当たり、当該医薬品に関して最初に処方された1回に限り算定
- 「調剤前に医薬品の選択に係る情報が特に必要な患者に説明及び指導を行った場合」で、「後発医薬品が存在する先発医薬品であって、一般名処方又は銘柄名処方された医薬品について、選定療養の対象となる先発医薬品を選択しようとする患者に対して説明を行った場合」
- 説明の結果、後発医薬品を選択した場合も算定可能
当加算を算定する場合は「薬剤服用歴等に対象となる医薬品を分かるように記載すること」とされているため、記載を忘れないようにしましょう。