──今回の薬価制度改革は、「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」という2つの課題の実現に向け、新薬収載時の評価が拡充された一方、新薬創出等加算については対象品目が絞り込まれる内容となりました。制度改革の背景とめざす姿をあらためて教えてください。
2016年度末に内閣官房長官、経済財政政策担当大臣、財務大臣、厚生労働大臣の4大臣合意による「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(以下、基本方針)が示されました。その背景にはオプジーボのような効能追加等により市場規模が大幅に拡大する場合を含めて、薬価制度について、いろいろとご批判やご指摘をいただき、抜本改革を進めることになりました。
基本方針には「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立し、「国民負担の軽減」と「医療の質の向上」を実現することを目的として、2018年度に抜本改革を行うと記されています。その中で、一つは長期収載品に依存するモデルからより高い創薬力を持つ産業構造への転換、それから新薬創出等加算について、真に有効な医薬品を適切に見極めることなどが基本方針に盛り込まれ、これに沿って2018年度薬価制度の抜本改革が取りまとめられました。
──新薬創出等加算は対象範囲を絞り込むことになりました。
新薬創出等加算は企業要件を満たせば事実上全ての新薬が対象となり、革新性の低い医薬品の薬価も維持されることが課題として指摘されていました。一方で、特許期間中の新薬の薬価の引き下げを猶予することは重要な制度であるとも理解しています。
真に有効な医薬品を適切に見極めて評価することが今回の見直しで重要な点だったと考えています。もう一方で、新薬創出等加算はドラッグ・ラグの解消に大きく寄与してきたと思っています。製薬企業がさらなる革新的新薬の開発とドラッグ・ラグの解消に取り組むインセンティブを残す必要がありましたから、新しく企業指標を設けて段階的に評価する仕組みを設けました。このように、①革新的新薬を見極めるという品目要件の見直しと、②さらなる革新的新薬の開発やドラッグ・ラグ解消に取り組むよう企業指標による達成度・充足度に応じて加算にメリハリをつけるという企業要件・企業指標の見直し、その2つが大きな見直しの柱だったと考えています。
特に、市場実勢価格主義である日本の薬価制度の中で、薬価を維持していくべき品目はどのようなものであるべきかということは大変難しい課題でした。そのような中で、最終的には、オーファンドラッグや臨床的有用性があるとして薬価上の加算がついた医薬品などのほか、薬の新しいメカニズムにより、①既存治療で効果不十分な疾患に有効性を示した医薬品、②既存治療より優れた効果を示した医薬品、③その効能を有する他の医薬品が存在しないことなどを要件として、対象品目を選定することになりました。これらの品目要件は、臨床上の意義を重点に考えられたものであり、つまり、患者にとっていかに有用な医薬品であるかどうかが決め手になったものと考えています。
──長期収載品は10年を経過した品目の薬価が大幅に引き下げられた一方、基礎的医薬品の対象範囲が拡充されました。
日本は欧米に比べるとまだ長期収載品のシェアが高い傾向にありますが、長期収載品に依存するのではなく、次の新薬を開発していくのが製薬産業の構造として望ましいと考えています。そのような問題意識から長期収載品はかなり大胆な改革が行われました。具体的には、G1(後発品置換率80%以上)なら6年後、G2(後発品置換率80%未満)は10年間かけて後発品の価格へ段階的に引き下げていくという仕組みを導入しています。これについては、10年先までの方向性を示したものです。薬価制度に限らず、10年先までの方向性を示すといったことはあまりないと思います。それだけの大きな改革であるからこそ、10年先までの方向性を示すといった予見性を示すことが、この見直しには不可欠だと考えたものです。
製薬企業がビジネスモデルを転換していくことは大変重要ではありますが、明日から急に変わることができるものではありません。そういった点からも、一定の予見性とともに仕組みを導入したことが重要なポイントだったと思います。
また、2016年度薬価制度改革で、一般的なガイドラインに記載されるなど、広く医療機関で使用されているような医薬品について、一定の要件を満たすものを基礎的医薬品として、最も販売額が大きい銘柄に価格を集約して薬価を維持する制度を作りましたが、今回は生薬などを中心に範囲の拡充を行いました。長期収載品に依存しない仕組みがある一方で、長い期間、臨床現場での使用実績があり、医療上必要性の高い医薬品を下支えすることは重要だと考えています。
──後発医薬品は初収載から12年を経過した後は原則として1価格帯に集約されることになりました。
後発品は同じ成分なのに銘柄ごとにいろいろな価格があって、医療現場からわかりにくいという指摘などを背景に2012年度薬価制度改革において、価格帯を集約して3価格帯になりました。
今回の見直しでは、長期収載品の薬価は、後発品の薬価を軸にして段階的に引き下げることになり、これに伴い、長期収載品のG1、G2が始まって2年たったところ、つまり、後発品上市から12年後に、後発品も原則として1価格帯に集約する仕組みとなりました。
──今般の見直しを踏まえた次期改革に向けた課題をお聞かせください。
「薬価制度の抜本改革について(骨子)」の別紙の中で検討課題が示されています。その中では、新薬創出等加算の企業指標について「引き続き、製薬企業の革新的新薬開発やドラッグ・ラグ解消の取組・実績を評価するものとして適切かどうかについて、新薬開発等に係る実態も踏まえつつ、検証を行い、次回以降の改定への見直し・反映を検討する」と記載されています。
また、イノベーションの評価に関し、効能追加等による 革新性・有用性の評価の是非について検討を行うことも盛り込まれています。
長期収載品については、価格引き下げ後の、①後発品の置換率の状況、②後発品の上市状況、③安定供給への対応状況等を踏まえ、段階的引き下げまでの期間の在り方について検討を行うことも盛り込まれています。
次期改定に向けては、このようなことについても検討していくことになると考えています。
──薬価制度の抜本改革は薬剤師にどのような影響を与えるのでしょうか。薬剤師へのメッセージをお願いします。
薬剤師の先生方におかれましては、目の前の患者さんに対して適切な薬物療法を提供するという役割が何にもまして重要だと思います。さらに、医薬品については、研究開発から市販後の安全対策など幅広いステージがあり、それぞれのステージで様々な取り組みがなされるとともに、それに応じた仕組みが設けられています。薬剤師の先生方には、このような医薬品に係る幅広い知識が求められていると思います。そのような中で、薬価制度も医薬品の価値を形成する重要な制度であり、薬価とは医薬品の価値を反映したものです。薬価制度の不断の見直しの中で、今の薬価制度があり、個別の薬価にその医薬品の価値が反映されています。「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立させる中で薬価制度が構築され、それに基づき、具体的な薬価が決められていくものと考えています。そういう切り口も踏まえて、医薬品の価値を理解していただくことも大切ではないかと思います。