晩婚化・晩産化で不妊が増加
日本人女性の平均初婚年齢は2010年で28.8歳、第1子出生時の平均年齢は29.9歳と、30歳前後で結婚して最初の子どもを出産する人が多い。一方で、30歳を超えると不妊率は上昇し始め、30歳~34歳で15%、35歳~39歳で30%、40歳~44歳では64%にまで高まる。女性は高齢になるほど妊娠しにくいだけでなく、妊産婦死亡率や周産期死亡率も高くなるため、不妊の問題は深刻化・複雑化している。
メルクセローノ株式会社が2017年4月、20代~40代の男女約3万人を対象に実施したインターネット調査によると、既婚女性の32.9%が不妊の悩みを経験していると回答し、4割は不妊症を自覚して医療機関を受診するまでに半年以上かかっていた。受診が遅れた理由をみると「自然に任せたい」が5割、「良い病院・クリニックがわからない」が2割を占め、不妊に関する認識と情報の不足が受診の遅れを招いている可能性が示唆された。
日本産婦人科学会は、“避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず妊娠の成立をみない場合”を不妊と定義し、その期間の目安を1年としている。
不妊症の主な原因は、卵管閉塞や狭窄などの卵管因子が30%~35%、排卵障害などの排卵因子が25%~30%。男性側に原因がある割合も20%~40%ある。男性側の問題では精管閉塞や無精子症、インポテンツなどが挙げられる。治療法は原因によって異なるが、卵管因子の場合は手術や人工受精など生殖補助医療(ART)が行われ、排卵に障害がある場合は薬物による排卵誘発治療が選択される。苛原氏によると日本は人口あたりのARTの実施登録施設数が世界で最も多く、2014年にARTによって生まれた子どもの数は約4万6千人に上る。ARTで生まれる子どもの数は年々増えているにもかかわらず、ARTに対する社会的な理解は進んでいないのが実態だ。
仮にARTを実施しても妊娠できる年齢には限界がある。日本産婦人科学会のデータによるとARTを受けた患者(2014年)の年齢は、40歳をピークに30代後半から40代前半が多いが、ARTの妊娠率は35歳から大きく低下する。苛原氏は「何歳になっても産めると思っている人がいるがそうではない。不妊治療の正確な情報を国民に伝えることが大切です」と強調した。
治療と仕事の両立は職場の理解が不可欠
不妊体験者の支援活動を展開するNPO法人Fine理事長の松本亜樹子氏は、多くの患者が身体的、精神的、経済的負担を抱えながら不妊治療を受けている現状を報告した。同団体が行った調査では治療をきっかけに約6割の女性が退職しており、「治療と仕事の両立には職場の理解が必要」と訴えた。