うつ傾向がある人の9割診断・治療を受けていない
塩野義製薬が2016年、一般を対象に行ったインターネット調査で、身体的あるいは精神的不調を訴え、うつ傾向のある人の9割はうつ病の診断・治療を受けていないことがわかった。また、その半数はかかりつけの一般内科医がいたが、患者側に心身の不調について相談する意向があっても、実際に相談したのは1割という。
うつ傾向のある人は「疲労倦怠感」「肩、腰、頸の痛み」「頭痛」などの身体的な不調や、「重い感じ」「不安」「話や本の内容が入ってこない」などの精神的な不調を訴える割合が高いことも明らかになった。さらに、不眠症、慢性頭痛、過敏性腸症候群の患者では7割〜8割にうつ傾向が見られた。
心身の不調を長期間放置していると症状が悪化し、治療も長引くことになる。うつ病の再発を繰り返し、自殺念慮に苛まれることもある。うつ病の重症化を防ぐためにはうつ傾向が見られた時点で迅速な診断・治療が重要になる。藤田保健衛生大学医学部精神神経科学講座教授の内藤宏氏はアンケート調査結果を受けて、「患者のうつ病の症状や自殺の徴候にいち早く気付き、適切な対処を行って、専門の相談機関へつなぐことができるかかりつけ医に、うつ病のゲートキーパー(門番)としての役割を期待したい」と述べている。
愛知県では2006年から産業医や内科医(かかりつけ医)と精神科医が連携して、コミュニティーレベルでのうつ病の早期介入を図っている。その中心的な役割を担う、西尾市にある宮崎医院院長の宮崎仁氏は、従来、自律神経失調症や不定愁訴症候群といわれていた病態をMedically Unexplained Symptoms(MUS)として捉えている。
一般内科での早期発見に精神科診療のテクニックを導入
MUSは、何らかの身体疾患があると思わせる症状が認められるが、適切な診察や検査を行っても原因となる疾患が見いだせない病態だ。プライマリケアではMUSは外来患者の3割~4割を占め、風邪に次いで多いという。「MUSのなかにはうつ病が見落とされている可能性がある」と宮崎氏は指摘する。
同じうつ病でも、精神科を受診するうつ病患者は重症の傾向があるが、一般内科で診るうつ病が軽症であるとは限らない。そこで、内藤氏、宮崎氏らはPIPC(Psychiatry In Primary Care)研究会を立ち上げ、内科医が精神科診療のテクニックを導入してうつ傾向の患者をスクリーニングするトレーニングを行っている。日常診療では、同研究会が独自に作成した問診チェックリストが使われる。
内藤氏は「うつ病は誰でもかかる可能性がある。患者は心身の不調を感じたら、まずはかかりつけ医にしっかり伝えることが重要。医療従事者は、患者の中にうつ傾向のある人が潜在している可能性を認識し、日々の診療にあたってほしい」とまとめた。