日薬連による「医薬品供給調整スキーム」
2019年に発生した抗菌薬「セファゾリンナトリウム」の供給不安事例や、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、2020年2月に日本製薬団体連合会(日薬連)が策定した。医療用医薬品の供給不安発生時における供給調整を行い、厚労省と連携してあらかじめ定めた手順に基づいて対応策を推進する。市場シェア(数量ベース)で30%以上(コロナ特別運用では20%以上)の医療用医薬品が1ヵ月以上欠品するケースに同スキームを適用する。
2020年12月、経口抗真菌剤『イトラコナゾール錠 50「MEEK」』(製造販売元:小林化工株式会社)にベンゾジアゼピン系睡眠剤「リルマザホン塩酸塩水和物」が混入、自主回収となった件を発端に、同社関連製品の自主回収や出荷停止が相次ぎ、日薬連が13成分に対して初めて同スキームを発動した。
【対象】
アトルバスタチンカルシウム水和物、リドカイン塩酸塩、オロパタジン塩酸塩、クロピドグレル硫酸塩、ナファモスタットメシル酸塩、テモゾロミド、バルプロ酸ナトリウム、バンコマイシン塩酸塩、アシクロビル、ファムシクロビル、フェキソフェナジン塩酸塩、メサラジン、プランルカスト水和物
◼︎医薬品供給調整スキームの手順
STEP.1で直ちに十分な供給が実現しなかった場合、STEP.2へ進む
【STEP.1】
日薬連は、供給調整が必要との連絡をメーカーから受けると、「供給調整チーム」の招集を決定。供給不安が発生したメーカーをチームリーダーとし、当該医薬品の同一成分薬及び代替薬を持つメーカー等で結成される。供給調整チームは、当該医薬品・同一成分薬・代替薬の在庫量の評価、出荷調整や増産の検討等を行い、厚労省医政局経済課とも綿密な連携を図って対応にあたる。
【STEP.2】
経済課は、医療機関へ当該医薬品使用の適正化を促し、治療の中断等の重大事案の発生が懸念される場合は厚労省へ連絡するよう事務連絡を発出する。経済課を通して重大事案の報告を受けると、供給調整チームは当該医療機関への供給調整の実施等を行う。
厚労省による
医薬品の安定確保を図るための取組
厚労省でも2019年の「セファゾリンナトリウム」供給不安事例や、その他さまざまな要因で供給不安事案が発生、関係学会等から安定的な医薬品供給を求める要請を受け、2020年3~8月に「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」を開催し、9月に取りまとめを公表した(以下概要)。
◼︎安定確保医薬品を選定し、優先度でカテゴリ分け
医療上必要不可欠であって、汎用され、安定確保が求められる医薬品551品目を「安定確保医薬品」と位置づける。その中でも「対象疾患の重篤性」「代替薬の有無」等を勘案して優先度を付け、取組の優先度別にカテゴリ分けをする。
◼︎安定確保医薬品に関するフェーズ別の対応方向性を提示
上記カテゴリを考慮しつつ、①「供給不安の予防」②「供給不安の兆候をいち早く補足し、早期対応に繋げる」③「実際に供給不安に陥った際の対応」の3つのフェーズで取組を進める。
具体的な内容は、主にメーカーや卸を対象とするものだが、診療指針の記載方法が各医薬品やその代替薬の医療現場での使用方法に影響しているとして、各学会には「診療指針等の必要に応じた記載内容の見直しの実施」が望まれている。
大規模に発生した供給不安に対し、個々の医療現場で対応を行うことは非常に困難なことである。ただ、こうした供給不安発生時の対応を含む診療指針の改訂が行われた際には、実際の発生時に大きな混乱を防ぐうえで、事前に情報収集をしておくことは大切だろう。
- 厚生労働省「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議取りまとめ」(令和2年9月)、「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議WG議事概要」(令和2年11月)
- 日薬連・品質委員会「医薬品業界の取組みについて」(2020年12⽉25⽇)
- 日刊薬業 2021年1月4日掲載記事