新型コロナウイルス感染症でも実証されたナッジの効果
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために、手指の消毒を促す様々な試みが行われました。例えば、京都府宇治市の市役所では、消毒液を置いておくだけでは利用頻度が低いと判断し、出入り口の数歩手前から消毒液が設置された場所までの床面に、イエローテープで矢印を描いて誘導しています。また、ドアノブなどに貼り付ける「手を洗いたくなるシール」は、ウイルスを模したデザインの透明シールで、視覚的に手洗いを促す効果があると話題になりました。
このように、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチを、行動経済学では「ナッジ(nudge)」と呼んでいます。ナッジという言葉は、注意や合図のためにひじで人をそっと突くことを意味する英単語です。
ナッジ理論は米シカゴ大学の行動経済学者リチャード・セイラー氏が確立したもので、米ハーバード大学の法学者キャス・サンスティーン氏との共著『実践 行動経済学(Nudge : Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness)』(Yale University Press、2008/邦訳2009年、日経BP社)の冒頭では、「便器のハエ」の事例が紹介されています。「的に狙いを定める」という人間の心理を利用し、便器にハエの絵を描くことで、床に小便を飛び散らせないようにしたもので、オランダのアムステルダム・スキポール空港の清掃費を80%削減するという経済的効果をもたらしたそうです。
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