
クマゼミなどの透明な羽は、林立する“突起”で物理的に細菌を殺す
2018年8月、「関大チーム 最強『セミの羽』抗菌材 安全な製品開発期待」という見出しの記事が毎日新聞のニュースサイトに掲載されました1)。クマゼミの羽の構造をまねて、強力な抗菌効果がある材料を作り出すことに、関西大学システム理工学部機械工学科教授の伊藤健氏のチームが世界で初めて成功した、というものです。セミの羽と抗菌材が、いったいどのように関係しているのでしょうか。
この抗菌材の開発のベースとなる驚くべき発見が2012年に報告されています2)。豪スウィンバーン工科大学のエレーナ・イワノワ氏が率いる研究チームが、抵抗力の低下した人に呼吸器感染症や尿路感染症、敗血症などを引き起こす緑膿菌に対して、セミの羽が強力な殺菌作用を及ぼすことを見出したのです。同研究チームはベニヒメトンボを用いてさらに研究を推し進めました3)。トンボの羽の表面を電子顕微鏡で見ると、高さ240ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)の突起が林立しています。びっしりと並んだ突起によって羽の表面積が増え、細菌の吸着量が増加することに加え、この構造自体が細菌を引き寄せる力(毛細管力)を持っています。そのため、この“トラップ”にかかった細菌は身動きできなくなります。そして、突起により細菌の細胞壁が変形し、破壊されて死滅してしまいます。つまり、セミやトンボの羽は、林立した突起によって “物理的”に殺菌していたのです。
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