住む場所によって驚くほど違う “暑さへの体づくり”
夏になると怖いのが熱中症です。特に、涼しい日が続いていきなり暑くなると熱中症のリスクが高まりますが、これは体が暑さに慣れていないからだと考えられます。このリスクを防ぐため、徐々に体を暑さに順応させることが必要で、これを「暑熱順化」と呼びます。
暑熱順化には、数日から数十日間で起こる短期暑熱順化と、数年または数世代にかけて起こる長期暑熱順化とがあります。この2つのタイプは同じ暑熱順化ではあるものの、暑さに対する体づくりが異なります。
四季がある温帯地域に住む日本人の場合は短期暑熱順化が起こり、暑くなるにつれて発汗量が増え、その汗の蒸発によって体温上昇が抑えられ、次第に暑熱に耐えられるようになります。
一方、東南アジアやアフリカ中央部などの熱帯地域に住む人々は、長期暑熱順化によって発汗量を減少させ、その代わりに皮膚への血流量を増やして皮膚温を高く保ち、広い体表面積で放熱をしています。つまり、外気温が体表の熱を奪ってくれるような体の仕組みをつくり上げるのです。これは、汗腺能力が未発達な子どもの放熱システムとよく似ています。
長期暑熱順化のメリットは、発汗により体液が失われるリスクを抑えられること。逆に短期暑熱順化で発汗量を増やす日本人は、脱水に陥るリスクを避けられないので、こまめな水分補給と適度な塩分摂取が欠かせません。
このように、日本人と熱帯地域に住む人々では、全く異なる方法で暑さに対する体づくりを行っているのですが、これは民族による違い(遺伝的要因)がもたらすものなのでしょうか。それとも住む場所の気候の違い(環境的要因)でしょうか──。
これまでの報告によると、たとえばマレーシア人が日本に滞在したとき、その期間が長くなるにつれて発汗量が増え、日本人のタイプに近づくことが示されています1)。反対に、日本人が熱帯地域に居住している期間が長くなると、発汗量が減少し、熱帯地域の人々のタイプに近づきました2)。さらに、民族による汗腺数を比較してみると、日本で生まれてフィリピンに移住した日本人よりも、フィリピンで出生した日本人のほうが、フィリピン人の汗腺数に近くなることも分かっています3)。
これらのことから、暑熱順化の一部は後天的に獲得されるものだと考えられています。住んでいる地域の気候に順応するように、体のシステムが変わっていくというわけです。
短期暑熱順化では早めに暑さへの耐性を獲得できますが、その効果も比較的容易に失われます。日本人の場合、秋になると暑熱順化はリセットされるため、毎年暑さに備える体づくりを行う必要が生じるのです。
- Lee JB, et al.: J Thermal Biology 2004; 29: 743-747
- Bae JS, et al.: Pfugers Arch 2006; 453: 67-72
- Kuno Y: human Perspiration. Charles C Thomas Publisher, Springfield, Illinois, 1956