くしゃみは、無防備にしても、鼻をつまんでしても危険
欧米に旅行や仕事で訪れた際、くしゃみをしたときに周りの人から声をかけられたことはありませんか。たとえば、イギリスやアメリカでは「Bless you(ブレス・ユー:神の祝福あれ)」、フランスでは「Que dieu te [vous] bénisse!(ク・デュー・トゥ(ヴ)・ベニス:神のご加護がありますように)」、イタリアでは「Salute!(サルーテ:ご健康を!)」などです。これは昔、くしゃみをすると魂が抜け出て、代わりに悪魔が入り込むという言い伝えがあり、それを防ぐために周りの人が言葉をかける習慣が生まれた、といわれています。
中世の日本でもくしゃみをした本人、またはその近くにいた人が、「くさめ」という呪文を唱え、厄除けをする習わしがあったようです。これも、くしゃみをすると魂が抜け出て、寿命が縮まると信じられていたからです。「くさめ」自体の語源は明らかになっていませんが、その後、くしゃみという行為そのものをあらわす言葉になりました。
くしゃみの原因としては、鼻粘膜に対する物理的な刺激やアレルギー反応などが挙げられ、太陽光などの強い光刺激でも起こります。また最近では、「寒暖差アレルギー」によるくしゃみ、鼻水、鼻づまりも注目されています。花粉症などの一般的なアレルギーはアレルゲンに反応して起こりますが、寒暖差アレルギーはアレルゲンやウイルスは関係ありません。昨日までは気温が高かったのに、今日は急に冷え込んだといったように、急激な温度変化が引き金になってくしゃみなどが出ます。医学的には「血管運動性鼻炎」と診断され、詳しいメカニズムは不明ですが、周囲の環境に鼻の粘膜が過敏に反応して発症すると考えられています。
気をつけたいのは、骨がもろくなっていたり、関節や椎間板の機能が衰えているような高齢者では、くしゃみをしたはずみで肋骨が折れたり、ぎっくり腰になったりすることです。では、鼻をつまみ口を閉じて、くしゃみによる体への負担を減らせばよいかというと、これも問題があるようです。鼻を手でつまみ、口を閉じたままくしゃみをした男性が喉の奥を損傷したという症例が報告されています。この男性を診療したイギリスの病院医師は、鼻をつまんで口を閉じてくしゃみをすると、呼吸器や鼓膜を損傷したり、脳に動脈瘤がある人は脳動脈瘤の破裂につながる恐れがあると注意を促しています1)。
くしゃみによる体への負担を和らげるには、①テーブル(または壁)に両手をつく、②テーブルがない場合は腰を曲げずに背中を真っすぐに保った状態でする――という方法が有効であることが示されています2)。
くしゃみによって悪魔が入り込むことはありませんが、「たかがくしゃみ」と甘くみないほうがよいようです。
- Yang W, et al.: BMJ Case Rep 2018 Jan 15; doi: 10.1136/bcr-2016-218906
- Hasegawa T, et al.: Gait Posture 2014; 40: 670-675