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私たちは「ドーパミンの奴隷」なのか?

2018年5月号
ドーパミンの法則の画像

私たちは「ドーパミンの奴隷」なのか?

いつでも自由に食べられるエサと、レバーを押したときだけ出てくるエサを用意した場合、ラットはどちらを食べるでしょうか。正解は、レバーを押したときだけ出てくるエサです。
は、もう1問。ある団体に所属するときに、希望すれば誰でも入会できる場合と、試練(儀式や試験など)を経ないと入会できない場合とでは、どちらのほうがその団体への帰属意識や愛着が強くなるでしょうか。もう、おわかりですね。こちらの場合も試練があったほうが正解となります。
このような研究から、脳は何もしないで手に入るものよりも、何か課題をこなして手に入れたものを好むことが示され、「コントラフリーローディング(contrafreeloading)」と呼ばれています。コントラは「逆・反対」、フリーローディングは「たかる」という意味なので、日本語では「逆たかり行動」と訳されています。
この現象は、哺乳類だけでなく、鳥類や魚類を含めてほぼすべての動物に見られるようです。人間の場合、マウスと同じような実験をすると、特に就学前の子どもは100%近くが課題のあるほうを選びます。コントラフリーローディングの状態のとき、脳の中ではドーパミンが多く分泌されます。ドーパミンは快感や多幸感を得たり、意欲を感じたり、運動調節に関わる機能を担っています。つまり、課題が与えられ、それを解決していくことに、人間を含めた多くの動物が「快感」を得るということです。
ドーパミンに関しては、昆虫での興味深い事例も報告されています。シジミチョウの幼虫は蜜を分泌してアリに与え、アリはシジミチョウの天敵を排除するという共生関係が知られていますが、この関係が互いにもたらす「利益」は釣り合っていません。なぜなら、アリにとっては、たとえ蜜が得られなくても、他のエサを探すことができるのに対し、シジミチョウの幼虫はアリに頼らなければ天敵から身を守れないからです。つまり、シジミチョウの幼虫が得られる利益のほうが大きいのです。では、なぜこの共生関係が成り立っているのでしょうか。
驚くべきことに、蜜にはドーパミンを抑える働きがあったのです。その結果、アリの歩行活動性が低下して、シジミチョウの幼虫の周囲にとどまることになります。行動を制限されたアリは、蜜をもらわないと生きていけないため、ボディガード役を続けざるをえないというわけです。
このように、ドーパミンの増減が動物の行動に大きな影響を及ぼすことから、東京大学薬学部(大脳生理学専攻)の池谷裕二教授は、「私たちは基本的にドーパミンの奴隷なのです」と指摘しています。

参考文献
池谷裕二『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版』(講談社)
Masaru K, et al.: Current Biology 2015: 25; 2260-2264

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