「?(科学的疑問)」を「!(驚きの発見)」に変える情熱
ユニークでちょっと風変わりな研究を表彰するイグ・ノーベル賞。1991年に、イスラエルの科学誌『The Journal of Irreproducible Results(再現不能な結果)』の編集者マーク・エイブラハムズ氏によって創設され、1995年からは同氏が創刊した米国の『The Annals of Improbable Research(ありそうもない研究)』が主催しています。選考基準は、人々を笑わせ、そして考えさせること。
2017年には、「なぜ老人の耳は大きいのか?」という研究が解剖学賞を受けています。この研究結果によると、私たちの耳は1年で平均0.22mm大きくなっていますが、これは“成長”しているのではなく、“引力”によるものだそうです。
過去に医学・医療・健康関連で受賞した研究を振り返ってみると、1999年には「出産する女性を助ける装置の発明」に対して健康管理賞が贈られています。この装置は、女性を丸いテーブルに固定し、その後テーブルを高速で回転させ、遠心力によって出産を促すものでした。
2001年の公衆衛生賞は、「思春期の少年にとって、鼻をほじくることは普通の行動である」という医学的発見を突き止めた研究が受賞しています。
2007年は「剣を飲み込む芸とその副作用」についての研究が医学賞を受賞。46人の剣術師を調査した結果、剣を飲み込むことで喉の痛みや嚥下障害、消化管出血が生じやすいものの、食道に起きた穿孔の予後は良好という結果を報告しています。
2008年の医学賞は、「高価な偽薬(プラセボ)は安価なプラセボよりも効力が高い」ことを示した研究に贈られました。これは、高価な薬だとして渡された人たちのほうが、低価格の薬だとして渡された人達よりも、痛みの軽減度が大きいことを証明したものです。「高い薬は効く」という思い込みが、こうした違いを生むようです。
以上はどれも海外の研究者によるものですが、日本人も負けてはいません。2013年に、「心臓移植手術を受けたマウスにオペラを聴かせた効果」という研究で、帝京大学を中心とするチームが医学賞に輝いています。この研究は、心臓移植したマウスにヴェルディのオペラ「椿姫」を聴かせると、聴かせない場合と比べて3倍以上も長生きし、移植への拒絶反応を抑える細胞も増えていたことを明らかにしました。
これらの研究は、一見奇をてらったもののように感じますが、いずれも探求心にあふれています。「?(科学的疑問)」を「!(驚きの発見)」に変えるため、研究者たちは日々情熱を注いでいるのです。