集団のメンバーが増えると発生する「社会的手抜き」
おもりをつけたロープを綱引きのように引っ張ったとき、1人、2人、3人、8人と人数を増やすと、引っ張る力はどのように変化するでしょうか。
この実験結果を、フランスの農業工学者マクシミリアン・リンゲルマンが報告しています1)。それによると、1人のときは63kg、2人では118kg、3人では160kg、8人では248kgと、当然ながら人数が増えるに伴って、より重たいおもりを引っ張ることができました。しかし、1人のときの引っ張る力を100%とした場合、2人のときは93%、3人では85%、8人では49%と大幅に低下していたのです。
このような、集団のサイズが大きくなるにつれて、メンバー1人あたりの能力が低下するという現象は、やがて「リンゲルマン現象」と呼ばれるようになりました。
その後の研究の結果、リンゲルマン現象を引き起こす要因として、力の方向やタイミングがそろわない「協調失敗によるロス」と、メンバーのモチベーションが下がる「動機づけ低減によるロス」の2つが指摘されました2)。この「動機づけ低減によるロス」を「社会的手抜き(Social loafing)」と名づけたのが、米国の社会心理学者ビブ・ラタネらです3)。
では、「社会的手抜き」はどうして起こるのでしょうか。その発生条件を調べた研究では、「集団のサイズが大きくなると手抜きが見つかる可能性が低くなるので、人はあまり努力しなくなる」ことが示されました。集団のメンバーが多くなれば、「自分1人が手を抜いても大丈夫だろう」という心理が働き、パフォーマンスが低下するわけです。と同時に、「個々人の作業量が目に見えるようなかたちで識別できるような条件下では手抜きが抑えられる」こともわかりました4)。
これらの知見を踏まえ、集団のパフォーマンスを最大限に発揮させるには、個々の役割を明確にし、個人の努力や成果を目に見えるかたちで示すことが重要だと考えられるようになりました。
医療連携などでは、異なる立場や専門性を持つ多職種のメンバーで構成されます。このような異質の役割を持つ集団では、個人の役割が明確なため、「社会的手抜き」は起こりにくいといわれます。しかし、意見の衝突が生じやすいという側面もあるため、集団全体の「方向性の決定」とメンバー間の「情報共有」が、パフォーマンスを上げる重要なポイントになります。特に、どのような基準(効率性、コスト、顧客〔患者〕など)で意見のすり合わせを行うかをあらかじめ決めておくことが大切です。
- Ringelmann M. Annales de l'Institut National Agronomique. 1913; 12: 1-40
- Ingham A, et al. J Exp Soc Psychol. 1974; 10: 371-384
- Latané B, et al. J Pers Soc Psychol. 1979; 37: 822-832
- Kerr NL, Bruun SE. Pers Soc Psychol Bull. 1981; 7: 224-231