長い距離を速く走るほど健康によい、は間違い!?
NHKの大河ドラマ「いだてん」に登場する金栗四三は、1912年に開催されたストックホルムオリンピックのマラソンに出場した、日本人初のオリンピック選手です。そのレース中に金栗は熱中症によって意識を失い、近くの民家で介抱されて、目覚めたのは翌日のことでした。そのまま帰国したため、「競技中に失踪し、行方不明」という扱いになっていたのですが、そのことに気づいたスウェーデンのオリンピック委員会が、1967年のストックホルムオリンピック開催55周年記念式典に金栗を招待。70代半ばになっていた金栗は、ストックホルムのスタジアムをゆっくりと走って、ゴールのテープを切りました。「日本の金栗、ただいまゴールイン。タイム、54年8カ月6日5時間32分20秒3、これをもって第5回ストックホルムオリンピック大会の全日程を終了します」スタジアムでは、こうアナウンスされました1)。
金栗は箱根駅伝の開催に尽力するなど、マラソン界の発展に大きく寄与しました。こうした先人たちの礎によって、いまやマラソンは国民的なスポーツとなっています。一般でもフルマラソンの完走を目指して、あるいは健康維持・増進やダイエットなどを目的に、多くの人がランニングを生活の中にとりいれています。
しかし、ランニングを始めたものの、挫折してやめる人も多いようです。9~11月にランニングを始めた男女378人を対象とした調査2)では、半年以内でやめた人がおよそ70%にものぼることがわかりました。継続できるかどうかの大きなカギが、“休足日”。継続できたランナーは3日に1回の割合で走っていることが多かったのに対し、挫折したランナーは2日に1回または毎日走っている人が多くいました。適度に日にちを空けながら走るのが、長続きするコツだといえそうです。
特に中高年ランナーは無理をして走ると、腰や膝を痛めてしまいます。中高年ランナーの走行距離の目安として、日本臨床スポーツ医学会は国内外の研究結果をもとに、男性は1カ月あたり約200km、女性は1カ月あたり約150kmまでにとどめるのが望ましいとしています3)。また、平均年齢44歳の男女を対象に、ランニングと死亡リスクの関係を調べた米国の研究(平均追跡期間: 15年)4)では、週51分未満のランニングにとどめた人たちで最も心血管疾患の死亡リスクが低く、それ以上ランニング時間が長くても、死亡リスクのさらなる低下は認められませんでした。さらに、走るスピードについてみると、時速10km未満でゆっくりと走る場合と、それ以上の速さで走る場合を比べても、死亡リスクに差はありませんでした。
つまり、長い距離を速いスピードで走る必要はなく、3日に1回(1カ月間に10回)、1回あたりの距離は男性2km、女性1.5kmを目安に、時速8km程度(時間にして15~20分)でゆっくりとランニングすることで、健康維持・増進が可能だと考えられます。
- 時事通信社, 時事ドットコム : 近代オリンピックとその時代【5】日本が初参加
https://www.jiji.com/jc/v2?id=20091002olympic_games_history_05 - タニタ、デサント「9月~11月にランニングを始めた経験があるランナーの実態調査」 (調査期間: 2013年8月)
http://www.descente.co.jp/jp/column/running-research.html - 日本臨床スポーツ医学会 : 骨・関節のランニング障害に対しての提言. 日本臨床スポーツ医学会誌 2005; Vol.13 Suppl.: 243-248
- Lee DC et al.: J Am Coll Cardiol. 2014; 64: 472-481