耳垢の役割を認識し、過度な耳掃除は避けるべき
耳掃除は気持ちがよく、ついつい耳かきや綿棒を手にしてしまいますが、耳垢の除去は医学的に見て有益なのでしょうか?この件について、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会は2017年1月に発表した『Clinical Practice Guideline: Cerumen Impaction(臨床診療ガイドライン:耳垢栓塞)』1)において、「過度の耳掃除を行ってはいけない」と強く呼びかけています。
同ガイドラインには、耳に関する「Dos and Don’ts(すべきこと&してはいけないこと)」が掲載されています。それによると、痛みや聴力低下、耳鳴りなどの症状がなく、外耳道を塞いでいない限り、耳垢は残すべきであるとしたうえで、「してはいけないこと」を次のように明記しています。
耳に関する“してはいけないこと”
- 過度に耳掃除を行うこと。
- 綿棒、ヘアピン、爪楊枝などを耳に入れること。これらは耳を痛め、鼓膜などを損傷する危険性がある。
- イヤー・キャンドルを使うこと。イヤー・キャンドルには耳垢を除去する効果はなく、外耳道や鼓膜に重い損傷を引き起こすことがある。
- 耳の症状(痛みや聴力の低下、耳鳴りなど)があるのに、医療機関を受診しないこと。
- 補聴器の手入れ・掃除を怠ること
イヤー・キャンドルは、耳の中に特別なろうそくを立てて火をつけ、その熱の作用で身体の中の毒素を出すという触込みで行われているものです。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会はこの効果を否定しています。
そもそも耳垢は、「外耳道と鼓膜の保護・乾燥防止」、「細菌・真菌に対する感染防御」、「昆虫の侵入防御」という役割を担っています。同ガイドラインの「過度の耳掃除を行ってはいけない」という考え方は、このような耳垢の役割を重視しており、さらに耳掃除によって鼓膜を損傷する事故が多いことに対し、警鐘を鳴らしているといえるでしょう。また、外耳道は表皮が薄く、耳掃除をしすぎると皮膚を荒らし、湿疹を招くこともあります。こうしたことから、過度に耳掃除を行うことは避け、耳かきや綿棒は鼓膜に当たらないように先端に近い部分を持って使用したほうがよいと思われます。
一方、高齢者の場合は認知機能の衰えによる清潔への関心の低下が耳垢栓塞を起こしやすいとされているため、注意が必要です。60歳以上の日本人男女792人を対象とした研究2)では、耳垢によって聴力が低下している場合があることが示されており、高齢者の耳垢に対しては周囲の人のケアが必要だと考えられます。
- Schwartz SR, et al.: Otolaryngol Head Neck Surg. 2017; 156: S1-S29
- 杉浦彩子, ほか: 日本老年医学会雑誌 2012; 49: 325-329