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薬剤耐性の法則

2020年3月号
薬剤耐性の法則の画像

薬剤耐性菌の出現を抑えることは可能か

抗菌薬の不適切な使い方により、その抗菌薬が効かなくなる「薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)」が、1980年代以降、世界的な問題となっています。英国政府の要請でまとめられた調査レポート(通称:オニールレポート、最終報告2016年)では、このままの状態が続くと2050年には世界全体で年間1,000万人がAMRで死亡する、と推測されています1)
事態を打開するため、2015年に世界保健総会でAMR対策に関するグローバルアクションプランが採択されました。これを受けて日本でも2016年にAMR対策アクションプランが策定され、「2020年の人口1,000人当たりの1日の抗菌薬使用量を2013年の水準の3分の2に減少させる」ことなどが成果指標として設定されています2)。現在、AMRに関して日本はどのような状況にあるのでしょうか。
日本ではこれまでAMRによる死亡者数は明らかになっていませんでしたが、国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターと国立感染症研究所薬剤耐性研究センターが行った研究結果が2019年に報告されました3)。同報告によると、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による菌血症死亡者数は2011年の5,924人から2017年の4,224人と減少していたものの、フルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)による菌血症死亡者数は2011年の2,045人から2017年の3,915人へと増加しており、この2種だけで年間約8,000人が死亡している実態が示されました。
また、AMR臨床リファレンスセンターの調査4)によると、抗菌薬全体の処方件数は減少傾向を示していますが、2012年4月~2017年6月の間に、抗菌薬の効果が期待できない非細菌性の急性気道感染症(感冒、急性咽頭炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎など)に対して抗菌薬が処方されたのは100受診当たり31.65件もありました。処方された抗菌薬は第3世代セファロスポリン系(40.1%)、マクロライド系(34.1%)、フルオロキノロン系(14.4%)と広域抗菌薬が多くを占めており、不適切な処方例はまだ多いようです。
しかし、AMRは処方側だけの問題ではありません。全国の診療所医師を対象としたアンケート調査5)では、感冒に対して抗菌薬を処方した理由として、感染症状の重症化防止(29.8%)、細菌性二次感染予防(25.8%)、ウイルス性か細菌性かの鑑別に苦慮(24.4%)に次いで、「患者・家族の希望」による処方が12.4%もありました。つまり、医師は感冒に抗菌薬は効かないとわかっていても、患者側が強く望むと断り切れずに処方しているのです。このことは、「感冒に抗菌薬が効く」と誤解している国民が多く存在していることを伺わせます。実際、これを裏づけるように、全国の一般男女688人(10代~60歳以上)を対象に行った調査6)では、「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果がある」と誤った認識をもっている人が45.6%、「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」と間違った認識をもっている人は64.0%もいることが示されています。
 AMRを防ぐには、「抗菌薬、抗生物質は細菌にしか効果はなく、かぜやインフルエンザウイルスには効果がない」ということを広く一般に啓発していくことが必要だと思われます。

  1. chaired by Jim O’Neill: Tackling drug-resistant infections globally: Final report  and recommendations(May 2016)
  2. 国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議: 薬剤耐性(AMR)対策アクションプ ラン2016-2020(平成28年4月5日)
  3. Tsuzuki S, et al.: J Infect Chemother. 2019 Dec 1. pii: S1341-321X(19) 30335-6 DOI: 10.1016/j.jiac.2019.10.017
  4. Kimura Y, et al.: PLoS One. 2019 Oct 16;14(10):e0223835. DOI: 10.1371/ journal.pone.0223835
  5. 具 芳明, 他.: 日本化学療法学会雑誌 2019; 3: 295-307
  6. 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター: 抗菌薬意識調査 レポート2019(2019年9月24日)

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