医薬品と健康食品との違い
医薬品と健康食品(図1)の違いはいくつかありますが、最も重要な違いは品質です。医薬品は流通している全ての製品がGMP(Good Manufacturing Practice)に準じて製造されていますが、健康食品は錠剤・カプセル状の製品であっても、その品質はまちまちで、場合によっては表示されている成分が含有されていない製品さえあります。また、悪質なものでは医薬品成分を違法に添加した製品もあります。そのような粗悪な製品はインターネットなどで流通しているものが多いため、信頼できるメーカーの製品や正規の流通経路で販売されているもの以外について、患者さんから相談を受けた場合は、利用しないようにアドバイスしましょう。
図1 健康食品とは
健康食品と呼ばれるものについては、法律上の定義はなく、広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指しているものです。
そのうち、国の制度としては、国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たした「保健機能食品制度」があります。
厚生労働省ホームページを参考に作成
また、「健康食品で病気が治った」といった宣伝広告をよく目にしますが、健康食品は病気の治療を目的につくられたものではありません。あくまで食品であり、医薬品のような治療効果はありませんので、病気の治療目的に利用している患者さんには、そのことをきちんと伝えましょう。
健康食品による健康被害
医薬品(合成品)と違い、健康食品は天然、自然由来の成分でつくられているから安全だと信じている消費者は多く、また患者さんにおいても、「食品だから」と医師、薬剤師に健康食品の利用を伝えない方も多くいます。このような状況において、健康食品の利用が原因と思われる体調不良を経験している人が一定の割合で報告されています(図2)。先に述べた粗悪な製品を用いた場合、重篤な被害につながりますが、日本においてその頻度は決して高くはありません。しかしながら、きちんとした製品を利用しているにもかかわらず、利用者の体質や誤った使い方が原因で体調不良を感じている人がいます。
「いわゆる健康食品」の健康被害情報 | |||||||||
16年度 | 17年度 | 18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | |
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報告件数 | 38 | 39 | 15 | 30 | 26 | 23 | 16 | 20 | 10 |
製品数 | 41 | 58 | 17 | 42 | 33 | 40 | 19 | 25 | 12 |
肝機能障害 | 11 | 13 | 2 | 10 | 11 | 8 | 7 | 5 | 1 |
発疹等皮膚症状 | 6 | 11 | 3 | 4 | 2 | 5 | 6 | 8 | 7 |
消化器症状 (下痢、腹痛、嘔吐等) |
11 | 9 | 7 | 9 | 10 | 10 | 1 | 6 | 5 |
(注:24年度は10月末までのデータ)
厚生労働省には、保健所を介して年間20件程度の報告が上がっている。ただし、国民生活センターには年間数百件の健康被害相談が寄せられている。
厚生労働省ホームページおよび平成26年度厚生労働科学研究「いわゆる健康食品による健康被害情報の因果関係解析法と報告手法に関する調査研究」を参考に作成
患者さんから健康食品が原因と思われる体調不良を相談された場合、下痢やアレルギー症状であれば、大抵は摂取をやめることで改善しますので、摂取をやめるように指導してください。ステロイドホルモンによる副作用が疑われる場合は、摂取をやめさせると離脱症状を引き起こしてしまいますので、摂取をやめさせずに、すぐに医療機関を受診するように伝えてください。また、可能であれば保健所に連絡してください。些細な情報であっても、同様の報告が上がってくることで被害の拡大防止につながります。
医薬品と健康食品の相互作用
患者さんによる健康食品の利用で最も注意しなければならないのは、医薬品との相互作用です。現在、相互作用を起こす危険性がある健康食品素材として厚生労働省から注意喚起されているものはセント・ジョーンズ・ワート(西洋オトギリソウ)だけです。しかしながら、それ以外にも医薬品と相互作用を起こす可能性のある素材は数多く存在します。その一方で、それらの素材を含む健康食品を利用した場合、必ず相互作用が起きるわけではありません。健康食品の摂取量、摂取期間、摂取するタイミング(同時に摂取する、時間をずらして摂取するなど)、患者さんの体質(場合によっては遺伝子多型)など、さまざまな要因がかかわってくるため、同じ組み合わせであっても相互作用を起こす人もいれば、安全に利用できる人もいます。また、多くの患者さんは複数の健康食品と複数の医薬品を同時に摂取しているため、相互作用を明確にするのは不可能といっても過言ではありません。そのため、健康食品と医薬品を併用させないことが原則です。併用する場合には必ず医師や薬剤師に相談するように伝えてください。その時点で相互作用が判断できなくても、患者さんが体調不良を訴えた場合に健康食品の利用を把握していれば、まずは健康食品の利用をやめてもらうという判断ができます。健康食品の利用を把握していなければ、薬を変える、投与量を増やす、減らすといった誤った処置を行う可能性もあるのです。
保健機能食品とは
保健機能食品とは国が認めた健康食品の制度であり「栄養機能食品」「特定保健用食品」「機能性表示食品」の3つの食品で構成されています。
「栄養機能食品」とは、13種類のビタミン、6種類のミネラルまたはn-3系脂肪酸のいずれかを下限量~上限量の範囲内で含有していれば、国の審査・許可を受けることなく、定められた機能を表示し、販売することができる規格基準型の食品です。しかしながら、国に届け出る必要がないため、市場に出回っている栄養機能食品を見てみると、本来、目的とされるビタミン・ミネラルの表示が小さく記載されている一方で、ポリフェノールや植物エキスなどの成分および機能を強調して販売されている製品も数多く見受けられます。また、栄養機能食品を知っている人は少なく、ビタミン・ミネラルを摂取するなら栄養機能食品を利用しようという意識が消費者にはほとんどありません。本来、食事から十分な栄養が摂れない場合に利用する製品であり、保健機能食品の中で最も重要なはずの食品ですが、制度としてうまく機能しているとはいえません。
「特定保健用食品」はトクホと呼ばれ、保健機能食品の中で最も馴染みのある食品です。特定保健用食品は、国が安全性および有効性を認めた上で表示許可を出している製品であり、俗にいう「国からのお墨付き」を得た健康食品です。この特定保健用食品においても消費者の健康の保持・増進に役立っているとはいい難い現状があります。国が有効性を認めていますが、医薬品のようなはっきりとした効果は得られず、あくまでも生活習慣を改善した上で利用するのが前提です。たとえば、脂肪の燃焼を助ける製品では、それ自体が脂肪を燃焼させるわけではないので、運動しなければやせません。また、脂肪や糖の吸収を抑える製品であっても、抑えられるのはほんの一部で、食生活を見直さない限り改善は見込めません。いくら国からのお墨付きを得た製品であっても、適切に利用しない限り、その効果は得られません。また、昨年、血圧関連の製品広告に対して消費者庁が注意喚起したのは記憶に新しいところです。特定保健用食品であっても、治療効果はないということを患者さんに理解してもらいましょう。
「機能性表示食品」は、消費者の皆さんが製品を適切に選択し健康維持に役立てるための制度として、平成27年4月1日に始まりました。機能性表示食品は特定保健用食品に似ていますが、安全性・有効性に関して国は審査をしません。機能性を表示するには、事業者の責任において安全性を確保し、表示する機能性の科学的根拠を示すことが必要となります。そのため、「本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」という表示が義務付けられています。また、機能性表示食品の特徴として、製品の安全性・有効性に関する情報が消費者庁のホームページにて公開されています。消費者庁は、消費者自身が届出情報を確認し、製品選択に役立てるように呼び掛けています。しかしながら、消費者庁のホームページのどこに掲載されているのかわかりづらく、その内容も消費者にはわかりにくいことが指摘されています。これでは折角、情報公開しても、消費者が製品選択に役立てることはできません。
情報提供のあり方を工夫することが求められています。
図3 「健康食品」の安全性・有効性情報サイト
健康食品を適切に利用するためには
健康な人は、栄養(ビタミン・ミネラル)補給のために健康食品を利用している人が多く、重篤な体調不良を起こす可能性は低いのですが、ハイリスクグループと呼ばれる幼児・小児、妊産婦、高齢者、病者による利用には注意が必要です。とくに、患者さんが利用する場合、病気の治療目的で利用している人がかなりの割合でいます。その場合、その効果(治療効果)を得ようと過剰に摂取したり、複数の製品を同時に利用している人もいます。また、多くの患者さんが医薬品も同時に摂取しています。このような状況では、健康食品単独のリスクだけでなく、医薬品との相互作用からくるリスクも考慮しなければなりません。健康食品に対して過度に期待せず、まずは生活習慣(食生活・運動習慣)を改善し、その上で、本当に健康維持に役立つかを考えて、あくまでも補助的に利用するようにアドバイスしましょう。
おわりに
患者さんの中には健康食品の利用について医師や薬剤師に伝えていない人が多くいます。薬剤師の皆さんは積極的に利用状況を聞き取るようにしてください。頭ごなしに健康食品の利用を否定してしまうと、その後は医師や薬剤師に相談しなくなります。その場合、被害が起きた際に適切に対処できず、かえって被害を悪化させてしまう可能性もあります。明らかに怪しい製品や治療の妨げになる場合を除き、患者さんの意思を尊重しながら相談に乗ることが重要になってきます。
超高齢化社会、スイッチOTC、かかりつけ薬剤師・薬局、セルフメディケーションと薬剤師としての役割は益々重要になってきます。その中で患者さんの健康食品の利用についてもケアしていかなければなりません。医薬基盤・健康・栄養研究所では「健康食品」の安全性・有効性情報サイト(図3)を通じて情報提供を行っていますので、是非、皆様のお役に立てていただければ幸いです。
WEBサイト→https://hfnet.nibiohn.go.jp/