活発な医療連携の中から発足した「ふじえだCKDネット」
藤枝市では、以前から各診療領域での病診連携が密に行われ、専門医不足の状況においても助け合いで補ってきました。藤枝市立総合病院で副院長を務める横山日出太郎先生は、「当院では、脳外科の医師が在籍していなかった時期には、近隣の診療所にいらっしゃる専門医の先生にCT画像を読影していただいたり、連携を密にし、近隣の焼津市立総合病院の助けを借りて乗り切りました」とおっしゃいます。
また、藤枝市では地域包括ケア体制を整えるための専門会議が行政や医師会を交えて行われており、そこでも積極的な課題共有と議論が交わされてきました。その中でCKD患者さんへの対応が不十分であることが問題として取り上げられ、藤枝市立総合病院の副院長兼腎臓内科長の山本龍夫先生を中心に対策を練り始めたのが、ふじえだCKDネット発足の契機にあるとのことです。山本先生が着任されるまでは常勤の腎臓内科医が不在でしたが、2014年4月より着任されたことで、腎臓に関する専門的な診療体制が整いました。横山先生は、「地域包括ケア専門会議では高齢者を中心とした在宅患者さんに薬物を適正に使用するための検討を行ってきましたが、その中で残薬が増えている患者さんがみられることや、腎機能に影響を与える薬の処方がみられることが指摘されました。これらを踏まえ、藤枝市ではCKDに対する医療レベルの向上を目指し、ふじえだCKDネットを構築することになりました」と説明されます。
ドクタープロフィール
藤枝市立総合病院 副院長
横山 日出太郎 先生
- 1977年 横浜市立大学医学部卒業
- 1977年 横浜市立大学病院研修
- 1979年 横浜市立大学第一外科
- 1980年 横浜市立港湾病院外科
- 1981年 横浜市立大学中検病理
- 1983年 済生会横浜市南部病院外科
- 1991年 藤枝市立志太総合病院外科
- 2006年 藤枝市立総合病院(平成7年に改称)外科部長
- 2009年 藤枝市立総合病院 副院長
藤枝市のCKD診療向上に向けての仕組み作り
また、かかりつけ医の先生が適切なCKD診療を行っていくために、山本先生は『かかりつけ医の先生にお願いしたいCKD診療』の冊子を作成されました。これについて、志太医師会の理事を務める高橋博先生は、「これまで藤枝市の診療所では、各先生方の裁量でCKDの診療をされてきましたが、山本先生が藤枝市でのCKD診療方針を策定してくださいました。冊子には薬物療法や栄養指導、腎臓専門医への紹介基準などを含め、診療に必要な事項が明確に記載されています。これにより初めて藤枝市でのCKD診療が標準化され、またCKDに対するかかりつけ医の認知度も高まりました」と説明されます。
山本先生は、かかりつけ医の先生方がCKD診療を行う上で注意すべき点の1つに、よく使われる薬の中に腎排泄性の薬や腎臓に影響を与える薬が多くあることを挙げられます。「ふじえだCKDネットは、薬剤師会も参加しているのが他の地域での医療連携と異なる特徴の1つかと思います。医師と薬剤師の連携により薬の情報を共有し、CKD患者さんの病態にあわせて適切な薬を選択されるようになっていくことを目指しています」と強調されます。
ドクタープロフィール
藤枝市立総合病院 副院長・腎臓内科長
山本 龍夫 先生
- 1980年 浜松医科大学医学部医学科卒業
- 1987年 医学博士(浜松医科大学)
- 1993年 浜松医科大学第一内科講師
- 1998年 聖隷浜松病院腎臓内科部長
- 1999年 浜松医科大学第一内科講師
- 2011年 沼津市立病院 副院長・第二内科部長
- 2014年 藤枝市立総合病院 副院長・腎臓内科長
「ふじえだCKDネット」におけるCKD患者さんの掘り起こし
ふじえだCKDネットではCKD患者さんをスクリーニングするルートとして、①行政主導の特定健康診査、②藤枝市立総合病院、③内科系標榜診療所の3つを想定しています。特定健康診査の結果、ハイリスクのCKD(70歳未満の成人でeGFRが50mL/分/1.73m2未満または70歳以上でeGFRが40mL/分/1.73m2未満)と判定された患者さんについては、行政(保健センター 健康推進課)の担当者が対象者の家まで訪問し、病院を受診するように指導されているとのことです。また、藤枝市立総合病院では腎臓内科以外を受診されている患者さんについてもスクリーニングを行っており、これについて山本先生は、「CKD以外の疾患で受診された患者さん、例えば心臓が悪くて循環器科に通っていらっしゃる方や、外科の手術を受けるために入院している方など、他の疾患で病院を受診している患者さんも対象としています」と説明されます。
多職種で取り組む「ふじえだCKDネット」の稼働にあたって
ふじえだCKDネットにおいては、かかりつけ医の先生方が多くの患者さんを診療していくことになりますが、その中で連携をより深めていくことが重要、と高橋先生はおっしゃいます。「1人だけで頑張っても機能しないと思いますので、専門的なことは腎臓内科専門医に、栄養指導は管理栄養士に、薬については薬剤師の先生に協力を仰ぐ。このように多職種の連携で行っていくことが、ふじえだCKDネットの原動力であると思っています」
ふじえだCKDネットの連携システム
ドクタープロフィール
志太医師会 理事/高橋医院 院長
高橋 博 先生
- 1986年 浜松医科大学卒業
- 1993年 藤枝市立総合病院腎臓内科非常勤医師
- 1996年 高橋医院開業
お薬手帳に「Check!CKDシール」を貼って情報共有
ふじえだCKDネットにおいて、薬剤師は患者さんの腎機能の値に応じた薬の監査や、医師への疑義照会・情報提供を行う役割を担っています。藪崎先生は、「CKD患者さんが健康食品やサプリメントなどを飲んだりして薬の効き目が悪くなったり、薬により腎機能がさらに悪くなったりするなどの問題が生じていたため、『Check!CKDシール』を目安に服薬指導や薬剤選択を行っていきます。患者さんの検査結果を共有し、それを基に適切な医療提供を行っていくことが、藤枝市の医療向上につながっていくと考えます」とおっしゃいます。
「かかりつけ医の先生にお願いしたいCKD診療」の表紙
患者さんの意向を重視した個別の栄養指導
「食事は大きな楽しみの1つであることから、食事制限に対する患者さんのストレス軽減のために、患者さんの嗜好を聞くなどして、制限がある中でもその人らしい食生活ができるようにサポートしていくことを目指している」と目標を語られます。
職種の輪を広げてCKD診療の向上を目指す
ふじえだCKDネットでは、各々の職種が異なる役割を担っていくことになりますが、他職種の仕事内容を理解し合い、互いの仕事を無駄にしないことが大切である、と横山先生はおっしゃいます。「職種の輪を広げ、互いに連携を深めていくことが藤枝市のCKD診療のレベル向上につながると考えています」