
薬剤師に期待される服薬指導・薬物治療適正化のポイント
- TC療法では悪心・嘔吐、末梢神経障害、脱毛の対処方法を伝える
- 悪心・嘔吐では少量ずつ食事を摂る、水分補給を心がけるなど生活上のアドバイスも大切
- ベバシズマブは消化管穿孔を注意喚起する
- 初回治療では治療強度を維持する、再発・進行例はQOLを維持する
Part.2 治療目標と患者の生活にそった服薬指導に努める
手術と薬物療法で根治を目指す 副作用は自覚症状の聞き取りがカギ
東京慈恵会医科大学附属第三病院薬剤部がん専門薬剤師の安藤尚美氏によれば、薬物療法の副作用においては、治療目標を意識して患者の日常生活に合わせた対応が最も重要になる。
「薬剤師は日常生活をきちんと送れるかという視点で説明を心がけ、患者さんの自覚症状をいち早く受け止め、相談に乗ってほしい」と語る。また、術前・術後の化学療法と再発・進行の場合とでは治療目的や方法が異なる。治癒を目指す初回治療においては治療強度を落とすことは、再発リスクを上げる可能性があるため副作用を管理し治療を遂行する必要があるが、再発・進行例では治療を長く続けつつ、患者のQOLを優先する。薬剤師は、治療方針や病期など患者の状況を理解したうえで、患者の生活に即したアドバイスを行うことが求められる。安藤氏は「初回治療では病巣を完全に摘出する完全手術の後に、きっちり抗がん剤を使っていくことで根治を目指します。再発の場合は、再発までの期間によって薬の選択肢が異なるのでそれも念頭に置いてほしいと思います」と語る。
卵巣がんの標準化学療法は術後のTC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)である。一般に外来で行うことが多いが、一部は入院で実施し、薬剤師の適切な関わりが求められる。
タキサン製剤のパクリタキセルは、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管の重合を促進し、がん細胞の分裂を阻害して抗腫瘍効果を表す。一方、プラチナ製剤のカルボプラチンは、がん細胞に取り込まれて、DNA合成を阻害する。これらにより、がん細胞の増殖を抑えて死滅に導くもので、エビデンスレベルが最も高い化学療法である。
パクリタキセルは、成分や溶解補助剤に起因するアレルギー症状が引き起こされることが知られており、事前に抗アレルギー剤を投与する。また、無水エタノールが添加されているため、眠気やふらつき、動悸などを生じることもある。アルコールに対してアレルギーがあったり、アルコールに弱い人には慎重な投与が必要である。
パクリタキセルによるアレルギー症状は、治療開始後、1回目または2回目で起こることが多い。急激に血圧が低下するような重篤なケースは100人に1人程度、皮疹などの軽度のものは10人に2人程度とされる。カルボプラチンのアレルギー症状は長期治療後に発症することが多い。いずれも症状は、紅斑、頻脈、胸部苦悶感、呼吸困難など。アレルギー症状が重いために投与を継続できない場合以外は、ほとんどの卵巣がんの進行例で、TC療法または、パクリタキセルを毎週投与するdose-dense TC療法を用いることになる。
安藤氏は、「TC療法の2剤は化学療法によく用いられる薬で、副作用も既知のものが多いため、事前に対策がしやすい。女性は脱毛と吐き気を気にする人が多いので、不安を和らげるよう努めてほしいと思います」と語る。
TC療法に伴う脱毛、嘔気 末梢神経障害への対処法
TC療法に多い副作用の一つである脱毛は、国立がん研究センターが行った、抗がん剤治療中の患者が感じている身体症状の苦痛に関するアンケート調査(表3)において、外見の変化に関する項目で、女性患者の1位にあげられる。脱毛は、初回投与から2〜3週間で毛髪が抜け始めるが、一時的なことであり、治療終了後2〜3ヵ月で再び生え始める。「術前・術後の化学療法の場合はコースが決まっているので、終われば髪質が変わることもありますが以前に近い状態に戻ります」と伝えると、患者の安心感が得られやすい。反対に再発・進行例では毛髪が元に戻ることは、その治療が何らかの理由で継続できないことにつながるため、安易な発言は控えるべきである。最近はとても良いウィッグやメイク方法を積極的に提供する企業がある。薬剤師からも情報提供し、事前に準備ができることで、患者が安心して治療を受けられる環境を整えるよう貢献していくべきである。
表3 抗がん剤治療による副作用の苦痛度ランキング
順位 | 症状 |
---|---|
1 | 全身の痛み |
2 | 吐き気 |
3 | 発熱 |
4 | 口内炎 |
5 | しびれ |
6 | 便秘 |
7 | 下痢 |
8 | 頭痛 |
9 | だるさ |
10 | 足のむくみ |
11 | 不眠 |
12 | 味覚障害 |
13 | 治療部分の痛み |
14 | 食欲の低下 |
15 | 顔のむくみ |
16 | 湿疹 |
17 | かゆみ |
18 | 頭髪の脱毛 |
19 | 息切れ |
20 | 足の爪がはがれた |
順位 | 症状 |
---|---|
1 | 頭髪の脱毛 |
2 | 吐き気 |
3 | しびれ |
4 | 全身の痛み |
5 | 便秘 |
6 | まつ毛の脱毛 |
7 | だるさ |
8 | まゆ毛の脱毛 |
9 | 足の爪がはがれた |
10 | 味覚障害 |
11 | 足のむくみ |
12 | 顔の変色 |
13 | 手の爪が割れた |
14 | 口内炎 |
15 | 手の爪がはがれた |
16 | 不眠 |
17 | 手の爪が二枚爪 |
18 | 発熱 |
19 | 顔のしみ |
20 | 顔のむくみ |
薄いオレンジ部分は、外から見られる身体症状です
国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センターの調査資料
を参考に編集部作成
同じく頻度が高い悪心・嘔吐は、抗がん剤の投与から24時間以内に現れる急性のものと、投与後24時間以降から発現し1週間ほど持続する遅発性のものがある。投与開始前に、あらかじめ予防的に5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン、NK1受容体拮抗薬を投与するが、どうしても悪心が残ってしまう場合がある。安藤氏は、「吐き…