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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【糖尿病合併症】合併症の個別評価から血糖・脂質・血圧を総合的にみる

2017年9月号
糖尿病合併症 Part1 “群盲象を評す”合併症の個別評価から血糖・脂質・血圧を総体的にみるの画像
糖尿病に合併する疾患といえば、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症の3大合併症が知られているが、高血糖による血管合併症は全身に及び、さまざまな臓器や器官が障害を受ける。糖尿病合併症を予防するには、血糖をコントロールして糖尿病の進行を抑える必要がある。しかし、合併症は糖尿病が発症する以前から始まっていることをうかがわせる研究結果も報告されている。糖尿病に詳しい東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授の宇都宮一典氏に合併症の病態、進展などについて、また同大学附属病院薬剤部の伊藤圭介氏に薬物治療や服薬指導などについて聞いた。

Check Point

糖尿病の発症以前から、インスリン抵抗性による臓器障害が進行している 糖尿病腎症はメタボリックシンドロームによる腎障害に高血糖による腎障害が重なる複合的な病態 腎不全期はたんぱく質と食塩を減らし、炭水化物と脂質を増やしてエネルギーを確保 高齢糖尿病患者の治療目標は、老年症候群の予防と健康寿命の延伸 メタボの時点から糖尿病合併症を視野に入れた服薬指導を行う

Part.1 “群盲象を評す”合併症の個別評価から血糖・脂質・血圧を総体的にみる血糖・脂質・血圧を総体的にみる

HbA1cだけではわからない 病態が水面下で進行

日本糖尿病学会編・著「糖尿病治療ガイド2016-2017」によると、糖尿病は「インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」と定義されている。インスリンは、膵ランゲルハンス島β細胞で生成・分泌され、門脈から肝に入って、肝静脈を経て全身の組織に送られる。インスリン感受性のある肝臓、筋肉、脂肪組織などの細胞膜上のインスリン受容体に結合し、ブドウ糖の細胞内への取り込み、エネルギー利用や貯蔵、たんぱく質の合成、細胞の増殖などを促進する。インスリンが体の組織で代謝調節能を発揮して、適切なインスリンの供給と、組織のインスリン必要度のバランスがとれていれば、血糖の恒常性は保たれる。インスリン分泌不足、またはインスリン抵抗性増大はインスリン作用不足をきたし、血糖値を上昇させる。インスリン抵抗性とは、肥満、運動不足、高脂肪食などが原因でインスリンに対する感受性が低下してインスリンの作用が十分に発揮されない状態をいう。
糖尿病には1型と2型があり、1型糖尿病は主に膵ランゲルハンス島β細胞の破壊・消失によってインスリン分泌不全をきたし、糖尿病を発症する。2型糖尿病はインスリン分泌能の低下をきたす体質的素因に加え、過食、運動不足、ストレスなどの環境因子によるインスリン抵抗性によって発症するが、その中でも、内臓脂肪型肥満が重要な役割を演じる。糖尿病治療の重要な目的は合併症の発症・進展の阻止で、そのために適切な血糖コントロールが必要になる。しかし、厳格な血糖管理による合併症の進展・増悪抑制効果は、今のところ確認されているとは言い難い。そうした中、海外でSGLT2阻害薬を用いて行われた臨床試験の結果が注目されている。エンパグリフロジンが心血管イベントに及ぼす影響を検討したEMPA-REG OUTCOME試験(2015年9月発表)のサブ解析(アジア人の2型糖尿病患者)から、エンパグリフロジン投与群はプラセボ投与群に比べ、複合心血管イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)のリスクが32%、心血管死のリスクが56%、全死亡のリスクが36%低いことがわかった。一方、2型糖尿病患者の心血管イベント、腎イベントに及ぼすカナグリフロジンの影響を検討したCANVAS試験では、カナグリフロジン投与群はプラセボ群と比べて心血管リスクが有意に低かった。さらに、カナグリフロジン投与群では、アルブミン尿の進行が27%抑制され、腎複合エンドポイント(eGFR40%低下、透析導入、腎疾患による死亡)も40%抑制された(2017年6月発表)。
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授の宇都宮一典氏は「2つの試験結果で注目すべきは、SGLT2阻害薬投与群でHbA1c値が0.3%〜0.5%程度しか低下していないことです。このデータは、SGLT2阻害薬による心血管イベントや腎症進展抑制効果は、HbA1cでは説明がつかないことを示唆しています。現在解析が進められていますが、血圧、体重、脂質、血糖の総合的な改善効果によって合併症の進展が抑制されたということであれば、HbA1c一辺倒で講じられてきた糖尿病治療の見直しが必要です」と提唱する。

糖尿病合併症の鍵を握る メタボリックシンドローム

糖尿病合併症は、慢性的に続く高血糖に加え、脂質異常症や高血圧などの血管障害因子によって起こる、全身の血管系を中心とした臓器障害である。昨今、日本人で内臓脂肪型肥満が増え、2型糖尿病の病態が多様化している。内臓脂肪型肥満は、腹腔内の腸間膜などに脂肪が蓄積するタイプの肥満で、これに高血糖、脂質異常、高血圧など、動脈硬化の危険因子が加わった状態がメタボリックシンドロームだ。
メタボリックシンドロームはインスリン抵抗性によって起こる症候をまとめたもので、糖尿病の前駆病態とされている。しかし、インスリンは血管系の機能を直接維持しており、インスリン抵抗性状態では、既に臓器障害を生じている。一方、膵ランゲルハンス島β細胞が50%に減少して初めて高血糖をきたす。つまり、糖尿病と診断される以前から、メタボリックシンドロームによる臓器障害は進行しているということだ(図1)。このような病態が糖尿病合併症の本質であり、血糖だけを是正しても臓器障害が抑制されないのはこのためだと考えられる。

図1 糖尿病における血管合併症の成り立ち

図1 糖尿病における血管合併症の成り立ちの画像

提供 宇都宮一典氏

「これまで糖尿病合併症は、高血糖によって起きる症候群として考えられ、水面下のメタボリックシンドロームの対応については重視されてきませんでした。合併症を個別に論じるのは諺にいう“群盲象を評す”ようなもので、視野を広げて糖尿病の本態をとらえなおすべきです」と宇都宮氏は指摘している(図2)。

図2 糖尿病の血管合併症を起こさないためには

図2 糖尿病の血管合併症を起こさないためにはの画像

提供 宇都宮一典氏

メタボの腎障害+糖尿病の腎障害=糖尿病腎症

インスリン受容体は全身に分布していることが知られており、腎臓、眼、神経にも豊富に存在している。糖尿病合併症は全身のあらゆる臓器に起こり得るが、腎機能が低下して心血管疾患や脳血管疾患のリスクが増大する腎症は生命予後の点で重要な意味を持つ。糖尿病腎症は、メタボリックシンドロームによる腎障害に、さらに高血糖による腎障害が重なる複合的な病態と考えられる。
糖尿病性腎症合同委員会(厚生労働省)が2013年に作成した「糖尿病腎症病期分類(改訂)」では糖尿病腎症の進展は、糸球体濾過量(GFR、推算糸球体濾過量:eGFRで代用する)

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