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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【胃がん】化学療法は腫瘍縮小・病状の安定に寄与

2017年2月号
胃がん Part1 化学療法は腫瘍縮小・病状の安定に寄与するが切除不能進行・再発胃がんの1年生存率は6割の画像
国立がん研究センター がん対策情報センターによると、2016年の胃がんの罹患数予測は大腸がんに次いで2位(133,900人)、死亡数予測は肺がん、大腸がんに次いで3位(48,500人)である1)。近年、トラスツズマブなど分子標的薬の登場により、切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法が進歩し、高い腫瘍縮小効果を期待できるようになったが、術後補助化学療法施行例を別とすれば、化学療法対象症例の多くは緩和療法に移行する。国立がん研究センター東病院消化管内科の坂東英明氏に胃がん患者に対する化学療法の基本的あり方と分子標的薬について解説していただいた。また同病院薬剤部の野村久祥氏には、近年、増加傾向にある外来化学療法における薬剤師の役割などについてお聞きした。

Part1 化学療法は腫瘍縮小・病状の安定に寄与するが切除不能進行・再発胃がんの1年生存率は6割

ガイドラインに基づいた適切な化学療法を治療開始前のHER2検査は必須

胃がんは、がんが胃壁のどこまで広がっているか(壁深達度)によって早期胃がん、進行胃がんに分けられる。進行胃がんになると他臓器への転移がみられるようになり、肝転移、リンパ節転移、腹膜播種性転移が胃がんの3大転移とされる。胃がんが粘膜内にとどまっている分化型、2cm以下、潰瘍を伴わないもの(ステージⅠAの一部)は内視鏡切除の適応であり、それよりも進行度が高い胃がん(ステージⅠAの一部〜ⅢC)は外科治療の適応である。切除不能の局所進行胃がん、遠隔転移を伴う胃がんが化学療法の対象である(図1)。

図1 胃がんの進行度・ステージ分類

図1 胃がんの進行度・ステージ分類の画像

坂東英明氏 提供

胃がんの抗がん剤治療(化学療法)は「胃癌治療ガイドライン医師用2014年5月改訂 第4版」(日本胃癌学会編、金原出版)(以下、ガイドライン)を基本に行われるが、化学療法は手術後の患者を対象とした術後補助化学療法と、局所進行もしくは遠隔転移を認めるステージⅣの切除不能胃がん、再発胃がんを対象とした緩和的化学療法に分けられる。
緩和的化学療法を行う場合、開始前に、まずがん細胞表面のHER2蛋白の発現を調べ、その結果によって1次治療に用いられる抗がん剤を選択する。HER2の発現を認めるHER2陽性胃がんが約15%、HER2の発現を認めないHER2陰性胃がんが約85%とされている。
ガイドラインでは、HER2陰性の場合、一般的に第一選択薬としてS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)とシスプラチン(CDDP)の併用を推奨しているが、カペシタビン(Cape)とシスプラチンが併用されることもある(図2)。さらに、2015年3月に、オキサリプラチン(L-OHP)が治癒切除不能な進行・再発胃がんに承認されているため、S-1(SOX療法)、カペシタビン(XELOX療法)との併用が可能である。

図2 胃がんの抗がん剤治療

図2 胃がんの抗がん剤治療の画像

日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン医師用2014年5月改訂 第4版,金原出版を参考に作成

一方、HER2陽性の場合、第一選択薬はカペシタビン(またはフルオロウラシル[5-FU])、シスプラチンとトラスツズマブ(Tmab)の3剤併用が推奨されている。3週スケジュールのS-1+シスプラチン(オキサリプラチン)+トラスツズマブによる3剤併用療法も選択可能なレジメンで広く用いられているが、ガイドラインでは第Ⅲ相試験による有効性と安全性のデータが十分ではないことが指摘されている。国立がん研究センター東病院消化管内科の坂東英明氏によれば、切除不能胃がんにおける化学療法は延命治療なので、2ヵ月に1回程度CTで評価し、腫瘍の増大が認められなければそのまま同じ薬剤による治療が継続される。また、高齢者などでは副作用などを考慮してS-1単剤に変更することもある。シスプラチンは腎毒性が用量を規定する。一方、オキサリプラチンは末梢神経障害が用量を規定する。
こうした1次治療を続けて効果が得られなくなった場合、2次治療に切り替える。従来、2次治療の第一選択薬はパクリタキセル (PTX)、ドセタキセル(DTX)、イリノテカン(CPT-11)のいずれかの単剤使用だったが、2015年10月に日本胃癌学会はホームページで「ラムシルマブに関する速報版」を公開し、パクリタキセルと新薬のラムシルマブ(RAM)の併用を推奨度1とし、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、さらにラムシルマブの単剤使用を推奨度2に位置づけた。
ラムシルマブは、がんの増殖及び転移に関わる血管新生において重要な働きをする血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR-2)に特異的に結合する完全ヒト型モノクローナル抗体だが、REGARD試験(日本は不参加)、RAINBOW試験によってラムシルマブの生存期間延長が実証された。ラムシルマブとパクリタキセルの併用療法の投与方法は、ラムシルマブの点滴を2週間おきに1回行い、パクリタキセルは週1回の点滴を3週間続けて、次の1週間は休薬する。この4週間を1つのサイクルとして繰り返していく。さらに、2次治療の効果が得られなくなった場合、3次化学療法が行われる。2次治療でラムシルマブとパクリタキセルの併用療法を行った場合、3次治療はイリノテカンが最も用いられている。
坂東氏によれば、「切除不能進行・再発胃がんの1年生存率はおよそ6割。後々、患者さんと医療者の認識に齟齬を生じさせないためにも、化学療法を行う際には患者さんに期待される効果、予想される副作用を正確に伝えることが大切です」と言う。

化学療法は副作用と効果のバランスを考慮して行う

化学療法を行うにあたって重要なポイントの1つが、いかに良好なQOLを維持していくかである。外来治療の場合、ほとんどの副作用が患者の居宅で起こることを考えれば、薬剤師による副作用マネジメントが患者の生活の質を高めるうえで重要な鍵を握る(表1)。

表1 主な抗がん剤の副作用
分類 一般名 略語 重大な副作用 左記以外の頻度の高い副作用 製品名
代謝拮抗薬
(ピリミジン拮抗薬)
テガフール・
ギメラシル・
オテラシルカリウム
S-1 骨髄抑制、溶血性貧血、DIC、
重篤な肝障害、脱水症状、
重篤な腸炎、間質性肺炎、
消化管潰瘍、消化管出血 など
血液障害、AST・ALT・Bil上昇、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、口内炎 など TS-1(大鵬) ほか
代謝拮抗薬
(ピリミジン拮抗薬)
カペシタビン Cape 脱水症状、手足症候群、心障害、肝障害、黄疸、腎障害、骨髄抑制、口内炎、間質性肺炎 など (単剤療法時)悪心、食欲不振、RBC・WBC・リンパ球数・Hb減少など(他の抗腫瘍薬との併用時)神経毒性、味覚異常、神経痛、頭痛、食欲不振、悪心、嘔吐、鼻出血 など ゼローダ(中外)
白金製剤 シスプラチン CDDP 急性腎不全、骨髄抑制、ショック、アナフィラキシー、聴力低下、難聴、耳鳴、うっ血乳頭 など 悪心・嘔吐、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、麻痺、肝機能異常 など ランダ(日本化薬)、
ブリプラチン(ブリストル)、
アイエーコール(日本化薬)
ほか
白金製剤 オキサリプラチン L-OHP 末梢神経症状、骨髄機能抑制、肝障害、アナフィラキシー、間質性肺炎、血栓塞栓症 など 悪心・嘔吐、頭痛、食欲不振、下痢、便秘、尿沈渣異常、尿蛋白 など エルプラット(ヤクルト)
ほか
分子標的治療薬
(HER2モノクローナル抗体)
トラスツズマブ Tmab 心障害、アナフィラキシー、間質性肺炎・肺障害、WBC・好中球・Plt減少 など 頭痛、ニューロパチー、悪心・嘔吐、無力症、疼痛 など ハーセプチン(中外)
分子標的治療薬
(VEGFR-2ヒト型
モノクローナル抗体)
ラムシルマブ RAM 動・静脈血栓塞栓症、infusion reaction、消化管穿孔 など 腹痛、下痢、高血圧、低K・Na血症、頭痛 など サイラムザ(イーライリリー)
微小管阻害薬
(タキサン)
ドセタキセル DOC ショック、アナフィラキシー、間質性肺炎、DIC、胃腸出血、大腸炎 など 食欲不振、脱毛、全身倦怠感、悪心・嘔吐 など タキソテール(サノフィ)
ほか
微小管阻害薬
(タキサン)
パクリタキセル PTX 骨髄抑制、末梢神経障害、ショック、アナフィラキシー、麻痺、間質性肺炎 など 悪心・嘔吐、脱毛、筋肉痛、関節痛、発疹、低血圧 など タキソール(ブリストル)
ほか
トポイソメラーゼⅠ
阻害薬
イリノテカン CPT-11 骨髄機能抑制、高度な下痢、腸炎、消化管出血、腸閉塞、間質性肺炎、肝障害 など 悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛、脱毛、腎障害、呼吸困難 など トポテシン(第一三共)、
カンプト(ヤクルト) ほか

1次治療におけるS-1+シスプラチン療法の優越性を検証したSPIRITS試験で、S-1+シスプラチンの副作用として、血液毒性では白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少が挙げられるが、入院や重篤な感染症のリスクとなる発熱性好中球減少症は3%程度であった。非血液毒性では食欲不振、嘔気、嘔吐、疲労、下痢などが認められたが、患者が入院となるGrade 3以上のものは食欲不振で30%程度、嘔気で11%程度であった。これらはパロノセトロンやアプレピタントを支持療法で用いることができる現在は、さらに低いことが期待される。外来でこれらの副作用に対して支持療法を行うにあたり最も重要なことは、発熱、嘔気、嘔吐、下痢などに対する薬剤をしっかり患者が所持しており、それを適切に用いることができるかである。薬剤師による所持薬の管理、副作用マネジメントが最も重要と言えるかもしれない。
一方、2次治療においてラムシルマブの上乗せ効果を検証したRAINBOW試験では、ラムシルマブ+パクリタキセル群で多かった副作用は好中球減少、白血球減少、疲労、末梢神経障害、下痢などだった。
もし、ラムシルマブ+パクリタキセルで著明な好中球減少や白血球減少が認められた場合は、次回サイクルからパクリタキセルを10mg/m2ずつ減量する。なお、RAINBOW試験における日本人サブセット解析では好中球減少が日本人で高頻度に認められているが、患者にとって入院や重篤な感染症のリスクとなる発熱性好中球減少症の頻度は低く、慎重な管理のもとであれば十分許容される副作用と考えられる。その他ラムシルマブの特徴的な副作用は出血、高血圧、蛋白尿、血栓症などである。出血の多くは鼻血で、重度の出血関連事象の多くは消化管出血であった。出血性素因、血管炎があれば出血のリスクが懸念される。日本イーライリリー株式会社が作成したラムシルマブの「治癒切除不能な進行・再発の胃癌適正使用ガイド」では、重度の消化管出血は死に至る例も報告されており、異常があれば投与を中止し適切な処置を行うこととしている。ラムシルマブ投与に伴う高血圧に対しては日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」にしたがって治療を行う。
ラムシルマブ投与期間中は尿蛋白を定期的に検査し、定性検査で2+以上の場合は定量検査(24時間蓄尿を用いた全尿検査、または尿中の蛋白/クレアチニン比を測定)を行う。薬歴管理を行っている患者の中にラムシルマブを処方されている患者がいたら、症状(浮腫、体重増加)や状態(低アルブミン血症の有無など)を聞くことが大切だ。
化学療法時にしばしば認められる非血液毒性に関しては支持療法が確立しているが、坂東氏は「少し食欲がない、多少、口の中が荒れるという状態であっても、適切な支持療法により患者さんが治療を続けられるようなら治療を継続すべき」だという。さらにオキサリプラチンはシスプラチンと異なり腎機能がある程度低下した患者にも使えるので、高齢者でも使用できることが多い。S-1は腎機能によって減量基準が決まっているため、クレアチニンクリアランス(Ccr)により適切な減量が行われているか、薬剤師側からの確認が重要となる。
「化学療法時の副作用は患者さんにとって、ある意味で酷な闘いを強いることになります。程度の差こそあれ副作用はほぼ必発なので、それを理解してもらったうえで無理のない範囲で続けますが、辛い場合には緩和医療を選択するのも1つの方法です」(坂東氏)。
胃がんの化学療法は経口抗がん剤が主流である。外来で患者を管理している場合は、どのように小さな症状でも、副作用を聞きもらさないようにすることが大切だ。日常生活に支障をきたすようなら主治医と相談するようアドバイスする。坂東氏は「患者さんご本人にとって許容できる副作用で治療効果が得られれば続けることをお勧めします」と話す。

胃がんでも術後補助化学療法による再発予防効果が証明されている

術後補助化学療法についても触れておこう。術後補助化学療法は、肉眼的にも顕微鏡的にもがんの遺残がない根治手術が行われた後に再発を抑える目的で行われる化学療法である。「手術単独ではおおよそ100人中40人が再発します。術後補助化学療法を行うと40人中10人は再発を防ぐことができます。言い換えれば、術後補助化学療法の恩恵を受けられる患者さんは100人中10人に過ぎませんが、再発した場合にほとんどの患者さんが治らない状況を考えると十分に行う意義のある治療です」(坂東氏)。
2006年に報告されたACTS-GC試験では、根治手術が行われた日本人患者におけるS-1の有効性が示され、これが日本における術後補助化学療法の標準治療となった。また、2012年に報告されたCLASSIC試験では、韓国を中心にカペシタビン+オキサリプラチンの併用療法(XELOX療法)の有効性が検討され、無再発生存期間の延長が示された。2015年11月に我が国でもオキサリプラチンが術後補助化学療法に承認されている。
これらのエビデンスから坂東氏は、術後補助化学療法の考え方を以下のようにまとめている。現在、胃がんの術後補助化学療法として有効性が確立しているのは、S-1単剤の内服を1年間継続する方法か、またはXELOX療法を6ヵ月継続する方法である。XELOX療法はS-1単剤より毒性が強いが、とくにステージⅢ以上の症例ではS-1単剤より再発をより予防する効果がある可能性がある。一方、術後補助化学療法としてのS-1とオキサリプラチンの併用療法(SOX療法)は、術後補助化学療法として実施可能であり、毒性が強い場合、S-1単剤への切り替えも容易なので選択肢の1つになる。

添付文書をはずれた処方はためらわず疑義照会を

国立がん研究センター がん対策情報センターのがん登録・統計によると、2012年の胃がんの年齢階級別罹患率(全国推計値)は、男性の場合、40歳代後半では人口10万人当たり28.7人だが、75歳〜79歳では607.1人と約20倍に達する。
高齢者の場合、合併症のため複数の薬剤を併用しているケースが多いが、がん化学療法を行う医師がそれらのすべてを把握するのは難しい。「薬について高い専門性をもつ薬剤師は併用薬についての相互作用、相乗作用にも詳しい。例えば血圧を上昇させる薬剤もあるので、そのようなきめ細かな薬剤情報をつかんで、適切な薬剤の組み合わせが行われているかどうかをチェックして、もし問題があればためらわず医師にフィードバックしてもらいたい」と坂東氏は語る。
国立がん研究センター東病院では薬剤師外来を開設している。医師の診察30分前に薬剤師が介入して患者の問診、医師への処方提案を行っているが、その中で重要なことの1つが服薬状況の把握だ。抗がん剤は、適切な服用を守らないと副作用により死に至るリスクをはらんでいる。服薬日誌をつけ、正確な量を服用しているかどうかを確認することはきわめて重要だ。医師は、エビデンスに基づいて薬剤を処方し、患者がきちんと飲めているかいないかをみながら服用量を調整したり、薬剤を変更している。正確な服薬状況は、個々の患者において適切な治療を行ううえで前提となる情報だ。多くの場合、医師は薬剤師などからフィードバックされた毒性(副作用)をみて、個々の患者の状態に応じて処方量を調節する。
抗がん剤の中には「毒性(副作用)が出ないと効果も出ない」(坂東氏)という薬剤が少なくない。言い換えれば安全域が狭いので、毒性をどこまで許容できるのか、ギリギリのところで判断が求められる。その意味では添付文書に記載された用量がそのまま用いられているケースばかりではないが、坂東氏は「添付文書からはずれた処方あるいはガイドラインと異なる処方があったら、医師に確認してほしい」と話す。例えば添付文書の半分量しか処方されていないケースは、毒性もないが効果もないと考えられる。医師が減量を行った理由を確認すべきである。
術後補助化学療法の場合、坂東氏のようながん化学療法の専門家が薬物療法を行うケースはむしろ少ないと考えるべきだ。外科医が薬物療法を行っている施設も少なくないが、中には副作用を懸念して開始時の用量設定を少なめにする医師もいるという。どのような医師が術後補助化学療法を担当しているのかを知ることも必要かもしれない。

引用文献
  1. 国立がん研究センターがん対策情報センター:がん情報サービスがん登録・統計http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html

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