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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【統合失調症】治療の最終目標は社会復帰 寛解状態を維持するための薬物療法

2017年1月号
統合失調症 Part1 治療の最終目標は社会復帰寛解状態を維持するための薬物療法の画像
厚生労働省の2014年患者調査によれば統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害で外来受診している患者数は約70万人と推計されている。訪問看護の充実など社会的環境の整備により統合失調症患者の脱施設化が進み、保険薬局でも外来通院患者に遭遇する機会は増加すると考えられる。そこで、今回は、国立精神・神経医療研究センター病院 統合失調症早期診断・治療センターの吉村直記氏に外来通院している患者の病態や薬物療法の要点などについて解説していただいた。また同センター薬剤部の大竹将司氏には、患者に遭遇した際の服薬指導のポイントについて語っていただいた。

Part1 治療の最終目標は社会復帰寛解状態を維持するための薬物療法

統合失調症の症状と経過

統合失調症は思春期・青年期に発症することが多く、長い経過をたどる慢性疾患である。原因は明確ではないが、発症早期の治療がきわめて重要な疾患であることがわかっている。国立精神・神経医療研究センター病院 統合失調症早期診断・治療センターでは発症2年以内(今後対象を5年以内に拡大する予定)の早期患者を主に受け入れ、症状が活発な急性期の治療を行い、回復期になったら地域の医療機関でフォローアップする態勢をとっている。
統合失調症の発症要因には、高血圧や糖尿病などと同じように遺伝的背景と環境因子が関与していると考えられるが、遺伝的因子のみで発症するわけではない。同センターの吉村直記氏によれば、多くは孤発例で、遺伝的な素因が確認できなくても発症する可能性があるという。
病気の経過は、不安感、感覚敏感、意欲低下、不眠といった非特異的症状を呈する前兆期、幻覚、妄想、まとまりのない会話、あるいは緊張病性の行動といった特徴的な症状が出現する急性期、薬物療法、心理社会的療法、リハビリテーションなどを取り入れ、社会復帰を目指す回復期と安定期に大別される(表1)。統合失調症の診断基準として国際的に認められているものとして、米国精神医学会によるDSM-5やICD-10があるが、一般臨床ではそれらの操作的診断基準だけでなく、臨床症状や経過を十分考慮して診断されることが多い。

表1 統合失調症の経過
前兆期 発症の前触れサイン。眠れない、物音や光に敏感になる、疲労感が増す、あせりの気持ちが強くなる。本人や周囲の者が気づかないことも稀ではない。
急性期 幻覚や妄想など陽性症状が出現。不安、緊張感、敏感さが増す。幻覚、妄想、興奮といった特異的な陽性症状が出現。不安に陥りやすい。
休息期 感情の起伏が乏しくなり、無気力感が増す。引きこもり、意欲の低下などがみられる。わずかの刺激に反応して急性期に戻りやすい時期。
回復期 症状が治まり、無気力な状態から脱していく。周囲への関心も高まる。
安定期 症状が良好に改善している状態。社会復帰へ向けての準備期間ともいえる。

厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」HPを参考に編集部作成

第二世代抗精神病薬の選択においては、主症状に対する効果について、個々の薬剤を順位づけるエビデンスは乏しい

症状が出現してから早期に薬物療法を開始することで良好な予後が期待できる。統合失調症の治療では、まずは症状が安定する寛解を目指すが、最終的な目標は、患者本人の主観的な回復感を重視し、症状が完全になくならなくても、本人が人生に充実感をもち社会に復帰すること=「リカバリー」である。吉村氏は「早期に治療介入することで脳のダメージを進行させないことが期待できます。その結果として、回復期以後の良好な予後につながります」という。
統合失調症の治療では、薬物療法と心理社会的療法(作業療法、認知行動療法、認知矯正療法、心理教育、社会技能訓練など)を包括的に行う(表2)。訪問看護の充実など地域でのサポート態勢が整備され、患者の脱施設化が進み、現在では外来で治療を受ける患者も多くなった。

表2 統合失調症の治療
   ─治療は薬物療法と心理社会的な治療が2本柱
主に用いられる薬剤 抗精神病薬
補助的に用いられる
ことがある薬剤
抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬など
心理社会的な治療 心理教育、生活技能訓練、作業療法、家族技能訓練

厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」HPを参考に編集部作成

治療薬は抗精神病薬が中心である(表3)。抗精神病薬には定型抗精神病薬(第一世代)と非定型抗精神病薬(第二世代)がある。第一世代と第二世代抗精神病薬の維持療法における有用性に関する試験で専門家の間でよく知られているものとして、統合失調症患者1493名を対象にしたCATIE(Clinical Antipsychotics Trials of Intervention Effectiveness)試験(2009年)がある。それによれば、第一世代ペルフェナジンと第二世代の間で治療効果に統計的有意差は認められなかった。同試験は米国の国立精神保健研究所(NIMH)の資金提供によるもので、一般臨床を反映しているものとして高く評価されている。それにもかかわらず、第一世代抗精神病薬が第一選択にならない理由は、第二世代抗精神病薬も有用性を示す多くのエビデンスがあり、第二世代は第一世代に比べて副作用が少ない傾向があるからだ。

表3 抗精神病薬(第一世代、第二世代を含む)の期待される効果
抗精神病作用 幻覚、妄想、自我障害などの陽性症状の改善
鎮静催眠作用 不安、不眠、興奮、衝動性を軽減
精神賦活作用 感情や意欲の障害など陰性症状を改善

厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」HPを参考に編集部作成

CATIE試験は優れたデザインの臨床試験ではあるが、一面の事実を示しているに過ぎず、現状では効果と副作用を総合的に評価し、2016年版「統合失調症薬物治療ガイドライン」(日本神経精神薬理学会編,医学書院)では第二世代抗精神病薬を第一選択薬としている。第二世代抗精神病薬を選択するにあたって、個々の薬剤の主症状に対する効果において、順位づけるだけのエビデンスはないが、吉村氏によれば、一般臨床ではオランザピン、リスペリドンなどが用いられるケースが多いようだ。
ちなみに添付文書に記載されているオランザピン(内服薬)の開始用量は1日1回5〜10mg、維持用量は1日1回10mg、最大用量は20mg/日だが、ガイドラインで推奨している初発精神病性障害(統合失調症、統合失調症感情障害、妄想性障害、統合失調症様障害、短期精神病性障害、特定不能の精神病性障害)に対する用量は、オランザピン8.7〜17.0mg/日である。また、リスペリドンの添付文書記載用量は1回1mg(1mL)、1日2回より開始し、維持用量2〜6mg/日、最大用量12mg/日だが、ガイドラインでは初発精神病性障害に対する用量として2〜4mg/日を推奨している(表4)。添付文書の用量は慢性期の統合失調症例を中心に実施された用量設定試験の結果を踏まえて決められているが、ガイドラインでは、思春期から青年期の症例が多い初発精神病性障害は、治療効果と副作用に対する感受性が高いことから、慢性期と区別して推奨用量を記載している。

表4 各抗精神病薬の添付文書の用量設定(内服薬の場合)
薬剤名 添付文書に記載された用量
開始用量(mg/日) 維持用量(mg/日) 最大用量(mg/日)
アリピプラゾール 6〜12 6〜24 30
ブロナンセリン 8 8〜16 24
オランザピン 5〜10 10 20
パリペリドン   6 12
ペロスピロン 12 12〜48 48
クエチアピン 50〜75 150〜600 750
リスペリドン 2 2〜6 12
ハロペリドール 0.75〜2.25 3〜6  
*は定型抗精神病薬。それ以外は非定型抗精神病薬

添付文書をもとに編集部作成

 前述のように、第二世代抗精神病薬の中ではクロザピンを除いて、主症状に対する効果に薬剤間で明らかな差は認められない。吉村氏によれば、クロザピンは他の第二世代抗精神病薬に比べて効果が高いが、顆粒球減少などの致死的な副作用がまれにあるため、その使用は治療抵抗性に限られる。しかも、クロザピンを使用するためには、一定の基準を満たす必要がある。すなわち、血液内科、糖尿病内科と連携のとれる施設で、登録された医師によってのみ処方できる。

身体的異常を自覚しにくい患者では副作用の発現に注意深い観察が必要

ガイドラインでは、初発精神病性障害の薬物療法においては、①第一世代よりも第二世代抗精神病薬を推奨、②第二世代抗精神病薬間の選択においては特定の薬剤を推奨しない、③初発精神病性障害では慢性期統合失調症と比較して、治療効果と副作用に対する感受性が高い、④低用量で治療を開始し、効果判定を行いながら漸増することを推奨、⑤再発予防の観点から、抗精神病薬の服用は少なくとも1年間は継続することを推奨、としている。
統合失調症の治療では、抗精神病薬を単剤で使用して効果と副作用を評価するが、第二世代抗精神病薬の中には糖代謝、脂質代謝、電解質に影響を与える場合もあるので定期的な血液生化学検査が不可欠である。
吉村氏は「身体的問題に対する対応が十分行えていない患者さんが多くいて、リスク管理が必要。血液生化学的な異常による症状も見過ごされる可能性があるので定期的な血液生化学検査は大切だ」と言う。とくにオランザピンやクエチアピンなど代謝異常が高頻度にみられる薬剤は注意が必要だという。
個人差が大きい副作用の1つが体重増加だ。顕著な体重増加をきたす症例がある一方、ほとんど体重に影響を与えないケースもある。定期的に保険薬局を訪れる患者には体重増加にも注意を払う必要があろう(表5)。

表5 抗精神病薬の主な副作用
オランザピン 遅発性ジスキネジア、悪性症候群、パーキンソン症候群、アカシジア、悪心、不眠、不安、焦燥感、眠気、めまい など
クエチアピン 悪性症候群、遅発性ジスキネジア、不整脈、高血糖、低血糖、不眠 など
リスペリドン 悪性症候群、遅発性ジスキネジア、不整脈、高血糖、低血糖、不眠、アカシジア、傾眠、振戦、ふらつき、頭痛 など
パリペリドン 悪性症候群、遅発性ジスキネジア、肝障害、高血糖、鼻咽頭炎、多飲症、過食、統合失調症の悪化、不眠、錐体外路症状、頭痛、振戦、傾眠、感覚鈍麻、頻脈、高血圧、便秘、下痢、嘔吐、体重増加 など
アリピプラゾール 悪性症候群、遅発性ジスキネジア、不眠、神経過敏、不安、アカシジア、振戦、食欲不振、体重増加、体重減少 など
ブロナンセリン 悪性症候群、遅発性ジスキネジア、パーキンソン症候群、アカシジア、便秘、悪心、不眠、不安、焦燥感、眠気、めまい、ふらつき、自殺企図、倦怠感、口渇、脱力感、血圧低下 など
ペロスピロン 悪性症候群、遅発性ジスキネジア、不整脈、高血糖、食欲減退、不眠、精神症状、アカシジア など
ハロペリドール 遅発性ジスキネジア、不整脈、悪性症候群、パーキンソン症候群、食欲不振、便秘、口渇、不眠、焦燥感、神経過敏 など
アセナピン
(2016年5月薬価収載)
傾眠、口の感覚鈍麻、アカシジア、錐体外路障害、悪性症候群、遅発性ジスキネジア、肝機能障害、ショック、アナフィラキシー、舌腫脹、咽頭浮腫、高血糖 など

添付文書をもとに編集部作成

吉村氏が薬物療法時の副作用として重視しているのは錐体外路症状(パーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、ジスキネジアなど)だ。抗精神病薬は、ドパミン神経の黒質-線条体路を遮断することで錐体外路症状が出現する。パーキンソニズムでは小刻み歩行、仮面様顔貌、振戦などが現れる。アカシジアはじっとしていられない、落ち着かない、足がムズムズするなどと訴え、患者には最も辛い症状の1つである。ジストニアは筋緊張による顔面、頭頸部、四肢、体幹筋の異常や不随意運動が生じる。長期投与で出現する遅発性ジスキネジアは顔面、口、舌、顎、四肢などに出現する不随意運動である。
こうした錐体外路系副作用が出現したときは、一般的には原因薬剤を減量して、重篤な場合はいったん中止する。しかし、錐体外路系副作用が出現しても精神症状に効果を発揮している場合は、減量、中止しないこともある。そのような場合は、他剤に変更して副作用の軽減を図ったり、抗パーキンソン病薬の併用をすることも多い。このほか注意すべき副作用として吉村氏は、クロザピンの顆粒球減少症を挙げた。顆粒球減少症の頻度は1%未満だが、導入時のリスク管理のため、クロザピンを導入する際は18週間の入院が必要となる。その間、2週間に1回血液モニタリングを行って経過を観察する。18週を過ぎると顆粒球減少症の発症リスクは少なくなる。
抗精神病薬以外の薬剤として、統合失調症患者に対して抗うつ薬が処方されているケースに遭遇することがあるかもしれない。統合失調症患者では抑うつ症状は前兆期、初発時、急性期、回復期いずれの時期においても生じやすいといわれている。その有病率は高く、抑うつ症状は社会生活を困難にし、自殺リスクを増大させる。抗精神病薬の副作用による場合もあれば、社会的困難にぶつかり、その結果としての心理的反応の場合もあって成因は複雑である。したがって抑うつ症状が出たら早期に介入し、成因に応じた対応が求められるが、ガイドラインでは、抗うつ薬は相互作用や副作用の発現の可能性から併用しないことが望ましいとしている。もし抑うつ症状が薬剤性であれば、抗精神病薬の減量もしくは他の抗精神病薬への変更が望ましい。

初発で症状が安定していれば減量・中止の可能性も

治療が奏効し症状が改善して、副作用についても日常生活に支障なく大きな問題とならず、患者本人も許容できる状態になったら維持療法に移行する。維持療法において、副作用の軽減などを目的に、抗精神病薬を毎日継続するのではなく、間欠的に服用する方法もかつては試みられたようだが、継続して服用する方が再発、再入院が有意に減少するとのエビデンスが得られており、ガイドラインでは毎日の規則的な服用を強く推奨している。
では、抗精神病薬はいつまで服用しなければならないのか。保険薬局の薬剤師も患者や家族からそのような質問を受けることがあるかもしれない。
ガイドラインによれば、初発の場合、抗精神病薬で治療開始後2〜4週目までに60〜70%の患者で治療反応を認める可能性があるが、それ以後に反応を示す患者もいることから、少なくとも治療反応を判定するには2〜4週かけることが望ましいとしている。効果判定の結果、治療効果が認められ、臨床上、問題になるような副作用がなければ薬剤を継続する。再発防止には継続して服用することが重要であり、仮に中断した場合、数か月で再燃することが多く、中断期間が長くなればなるほど再入院の可能性も高くなる。
そうはいっても、患者の中には薬剤を生涯にわたって服用し続けることをハンディキャップと捉え、否定的になる患者もいる。抗精神病薬には鎮静作用のほかに、無感情になったり、不快感を覚える患者も少なくない。そうなると、自分の判断で薬剤を中止したり、飲んだり飲まなかったりするケースがでてくる。服薬を中断すると、それまでの不快感がなくなり、すっきりして調子がよいと感じ、中断は間違っていなかったと結論づけてしまうかもしれない。このような患者に対しては、服薬をやめたくなる心理状態を受容的に受け止めた上で、継続投与の重要性を繰り返し語り続けることが大切だ。
中断を繰り返して、そのたびに症状が悪化する患者と初発の患者では薬に対する考え方も異なる。中断を繰り返す患者には「服用を継続することで症状を安定させるので、最低でも年単位、場合によってはさらにそれより長期間服用することが大切です、と説明してほしい」(吉村氏)。
ガイドラインは、再発予防の観点からは、少なくとも1年間は服薬継続の必要があるとしているが、初発の患者で最初の治療が奏効して症状が安定していれば、「再発のリスクを十分説明し、理解を得た上で、服用を止めるという選択肢もある」と吉村氏。Wunderinkらの、寛解後半年が経過した初発精神病性障害患者131名を対象にした無作為化比較試験1)によれば、治療継続と減量/中止における1年半後の再発率および社会的・職業的機能を比較した結果、減量/中止群の再発率は約2倍高く、治療継続に勝るベネフィットは得られなかったとしている。しかし一方で、その後の7年間の追跡調査では、減量/中止群の方が治療継続群より回復率が2倍と有意に高かったとしており、長期的にみれば減量/中止によるベネフィットを示唆する結果もあるため、抗精神病薬の減量/中止については個々の心理的、社会的状況を踏まえた上で、総合的に判断する。
こうしたエビデンスを踏まえ、ガイドラインでは、長期間、抗精神病薬の治療を継続することが望ましいとしつつも、初発で症状が安定している患者ではデメリットを十分説明した上で、「減量ないしは中止を判断することが好ましい」としている。
統合失調症は注意深い患者観察が必要な疾患といえる。繰り返しになるが、例えば抗精神病薬における体重増加は、代謝性疾患や心血管系疾患などの危険因子となり、生命予後にも影響する。薬剤師は日ごろから患者の身体的な変化を注意深く観察することが大切だ。
最後に吉村氏は保険薬局の薬剤師に対する期待として「薬の飲みにくさ、副作用などについて医師には話しづらいことでも薬剤師さんには話しやすいこともある。患者さんも含め、薬剤師と情報を共有できるとありがたい」と語った。

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