
食物や薬剤、昆虫毒などが原因で起こる全身性のアレルギー症状を、アナフィラキシーといいます。血圧低下や意識障害を伴うと、アナフィラキシー・ショックと呼ばれ、生命を脅かす危険な状態になることがあります。アナフィラキシーは、アレルギー専門医に限らずすべての医療従事者が遭遇する可能性がある病態であり、十分な知識を身につけておくことが必要です。今号では、アナフィラキシーの原因やそのメカニズム、対処法などについて、横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長の中村陽一氏に解説していただきます。
アナフィラキシーとは?
アナフィラキシーの定義と発症率 死亡の2大原因は医薬品とハチ刺傷
アナフィラキシーは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」(日本アレルギー学会監修『アナフィラキシーガイドライン』2014年版)と定義されます。アナフィラキシーのうち、血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシー・ショックといいます。横浜市立みなと赤十字病院は救急車の受け入れ件数が全国でもトップレベルです。当然、その中には救急疾患であるアナフィラキシー・ショックも含まれており、当院では年間50例ぐらいを経験します。
アナフィラキシーの主な原因は、食物や薬剤、ハチなどの昆虫毒です。中でも件数が圧倒的に多いのは食物アレルギーです。食物アレルギーは、卵や小麦など特定の食物が原因で起こるアレルギー反応で、児童生徒に限らずすべての年齢層に見られます。
一方、件数は食物アレルギーほど多くはないものの、重篤化しやすいのはハチ毒と薬剤です。ハチに刺されたり、注射で薬剤が体内に入ったりすると数分以内に致命的な状態になることもあります。日本のアナフィラキシー・ショックによる死亡者は年間60人前後ですが、その2大原因は医薬品とハチ刺傷であり、ほとんどは小児ではなく成人です(図1)。ハチの場合は後述するアドレナリン自己注射(エピペン®)の普及により死亡者は減少する傾向にありますが、医薬品による件数は増加傾向にあります。
図1 アナフィラキシーによる死亡数

中村陽一:アレルギー 67(1),17-23. 2018
アナフィラキシーの症状と診断 臨床症状から疑う
アナフィラキシーの診断は臨床症状に基づいて行われます。アナフィラキシーを疑う最大のポイントは皮膚症状です。患者さんの9割では蕁麻疹やかゆみ、発赤などの皮膚症状が現れます。ただし、皮膚症状だけではアナフィラキシーとはいえません。それに加えて、呼吸困難、ひどい下痢や腹痛、ショック、意識障害などほかの臓器の症状が見られるときにアナフィラキシーが疑われます。『アナフィラキシーガイドライン』2014年版では、アナフィラキシーの診断基準として図2に示す3つの項目のいずれかを満たす場合を挙げています。
図2 アナフィラキシーの診断基準
以下の3項目のうちいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断する。
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さらに、少なくとも右の1つを伴う
![]() (呼吸困難、気道狭窄、 喘鳴、低酸素血症) ![]() (血圧低下、 意識障害) |
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![]() (全身の発疹、 瘙痒、紅潮、浮腫) ![]() (呼吸困難、気道狭窄、 喘鳴、低酸素血症) ![]() (血圧低下、 意識障害) ![]() 症状(腹部疝痛、 嘔吐) |
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収縮期血圧低下の定義:平常時血圧の70%未満または下記
生後1カ月~11カ月
1~10歳 11歳~成人 <70mmHg
<70mmHg+(2×年齢) <90mmHg |
Simons FE, et al. WAO Journal 2011; 4: 13-37、Simons FE. J Allergy Clin Immunol 2010; 125: S161-181
Simons FE, et al. アレルギー 2013; 62: 1464-1500を引用改変
日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版
アナフィラキシーの際に血液検査でヒスタミンやトリプターゼなどのバイオマーカーが上昇することがありますが、ヒスタミンまたはトリプターゼが正常値であってもアナフィラキシーを否定することはできませんし、血液検査の結果が出る頃には症状が治まっています。血液検査は診断の決め手にはならず、参考程度にとどめるべきです。
鑑別診断としてはさまざまな疾患が挙げられます(表1)。アナフィラキシーの多くに皮膚・粘膜症状が見られることから、臨床現場でもっとも鑑別が問題になるのは急性の全身性蕁麻疹と血管浮腫です。したがって、皮膚・粘膜症状が突然出現した場合は、他臓器の症状の有無を確認しながらすばやく問診を行います。症状が出る数時間前までにどんな食物を食べたか、どんな薬を飲んだか、さらに運動中であったか、酒を飲んでいたか、風邪を引いていたか、旅行中か、生理中かなどの周辺状況を聞き取り、アナフィラキシーの可能性を考えます。とくに鑑別が難しいのは1~2割を占める皮膚症状がないケースです。通常の喘息発作ではないか、急性胃腸炎ではないかなどと迷うケースもあります。
表1 アナフィラキシーの鑑別診断
アナフィラキシーの症状に類似する疾患・症状には下記のようなものがある。
鑑別困難な疾患・症状 |
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食事関連 |
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内因性ヒスタミン過剰 |
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皮膚紅潮症候群 |
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非器質性疾患 |
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ショック |
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その他 |
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※1 ACE阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor):アンジオテンシン変換酵素阻害薬
Simons FE, et al. WAO Journal 2011; 4: 13-37を引用改変
日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版
アナフィラキシーの初期対応と急性期以降の対応
第一選択薬はアドレナリン 疑いがあるときはすぐに注射する
通常、成人には0.3mg、小児には0.01mg/kgを大腿部外側に筋注し、必要に応じて反復投与します。高齢者や心疾患のある患者さんでは0.1mgに減量するなどの調整をすることもあります。酸素は6~8L/分をマスクで開始し、補液は等張性輸液を点滴投与します。アドレナリンは即効性があるので、投与して数分から数十分で息苦しさや蕁麻疹などの症状が改善します。
アナフィラキシーにおいては、アド