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特集

認知症との共生を目指して

2018年5月号
認知症との共生を目指して

超高齢社会の日本では、認知症はだれもがなりうる病気です。近年は認知症の治療やケア環境がよくなり、早い段階で治療を開始すれば進行を防ぐことができるようになってきました。認知症になってもその人らしく生きるためにはどうしたらよいか、さらに家族や周囲の人たち、社会は認知症の人とどう向き合い、どう接したらよいのか。最新の知見とともに、東京慈恵会医科大学精神医学講座教授の繁田雅弘氏に解説していただきます。

他人事ではなく、明日は我が身 だれもが認知症になる時代

認知症は、うつ病などの精神疾患とは異なり、脳の神経細胞が直接障害されて起こる病気です。精神疾患は頭部のCTやMRIを撮っても明らかな異常は見つかりませんが、認知症の場合は何らかの形で神経細胞が障害を受けています。障害を受ける原因としては、神経細胞に害を及ぼすような老廃物(異常蛋白)がたまる、血管が詰まって血液の流れが悪くなる、細菌やウイルスが脳に入り炎症を起こして後遺症が残る、頭部外傷や脳出血で脳に血液がたまるなどがあります。
代表的な認知症には、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症、血管性認知症があり、タイプによって症状も異なります(表1)。一番頻度が高いのはアルツハイマー病で、少なく見積もっても認知症の5~6割を占め、レビー小体型認知症と血管性認知症がそれぞれ2割前後を占めるとされます。

表1 代表的な認知症とおもな症状
原因となる疾患 典型的な脳の神経病理 症状・機能低下
アルツハイマー病 前脳基底部から大脳全体に投射するアセチルコリン系神経細胞の脱落。アミロイド蛋白やタウ蛋白の蓄積 初期の段階で記憶障害が顕著。最近の記憶から失われ、失語、失行、失認、遂行記憶障害も現れる
前頭側頭葉変性症 脳の神経細胞にピック球と呼ばれる異常構造物が蓄積 一見、社会的でない行動をとる。毎日同じ行動をする「常同行動」や自発性の低下
レビー小体認知症 脳の神経細胞にレビー小体という異常蛋白が出現 幻視、せん妄、パーキンソン病、便秘、異常発汗、血圧の乱高下など
血管性認知症 脳梗塞など血管障害に伴って発症した認知症の総称 障害を受けた血管の部位によって症状が異なる。意欲・自発性の低下が起こることが多い

日本認知症学会 認知症テキストブック 中外医学社 2008をもとに作成

厚生労働省の調査によると、2012年の時点で、認知症とそのハイリスクゾーンであるMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)を含めた患者数は865万人。2017年には1000万人を超えていると予想されています(図1)。

図1 認知症の推定患者数

認知症の推定患者数の画像

1990年代から急激に増えて、2017年にはついに1000万人を超えるといわれている。高齢化が進むにつれ、人口が減るまでその数は増え続けると予測されている。

2013年度厚労省神崎班木之下担当をもとに作成

現在、65歳以上の実に4人に1人は認知症もしくはMCIと考えられます。認知症の最大の危険因子は加齢です。年齢を重ねれば重ねるほど認知症になるリスクは高くなり、70歳では4%、80歳では22%、80歳代後半ではだいたい半数以上の人が認知症とされます(図2)。

図2 認知症になる率

認知症になる率の画像

70歳では4%なのに、80歳では22%。80歳代後半ではおよそ半数以上の人が認知症である。平成23年から24年の統計なので、現在はさらに増加しているはず。

平成23-24年度厚労科研認知症対策総合事業(代表・朝田隆)をもとに作成

超高齢社会を迎えた日本では、今後も認知症の人が増えると予想されます。今はだれもが認知症になりうる時代なのです。「何もかもわからなくなるから、認知症だけはなりたくない」と思っている人は多いかもしれませんが、決して他人事ではなく、明日は我が身です。認知症になったら何もかも終わりといった偏見や誤解をなくすのは、だれのためでもない、自分のためです。自分が認知症になるときに備えて正しい知識を持っておくことが大切です。

進行のスピードがゆるやかに 最期まで普通の生活が送れる人も

認知症に対する誤解の1つは、「認知症は年単位で進行する」と考えている人が多いことです。認知症の人が1000万人以上いるといっても、おそらくその半分以上は軽症です。仮に中等度まで進行しても十分に自宅で暮らすことができます。認知症と診断されたからといって、この世の終わりのように考えないでほしいのです。
実は、アルツハイマー病と診断された人の中には、進行がゆるやかなタウオパチー(嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型認知症)と呼ばれる病気も含まれています。脳の中にたまる毒性のある異常蛋白には、アミロイドとタウの2種類があります。アルツハイマー病ではこの2種類の異常蛋白がたまり、認知症が進行していきます。一方、タウオパチーは片方のタウだけしかたまりません。そのため軽症で、ゆるやかに進行しますから、ちょっとした支援があれば症状が重くならないまま寿命をまっとうすることができます。アルツハイマー病と診断されている人の中には少なくとも2割、あるいはそれ以上タウオパチーが含まれているといわれます。ただ、アルツハイマー病かタウオパチーかは診察時点や生前には判断できません。亡くなった後に病理検査で調べて初めてわかります。認知症の専門医なら診察時に疑いをかけることはできますが、実際に診断するのは非常に難しいのです。また、認知症とまだ診断がつかないMCIの人の中にも高い確率でタウオパチーが含まれていると考えられています。
アルツハイマー病も、進行を遅らせる薬が登場し、ケアや環境調整、生活習慣病のコントロールなど多くの知見が得られたことで、悪化のスピードは20~30年前に比べると半分から3分の1以下になりました。認知症という診断がついてから10年近く通院している人も少なくありません。もの忘れ検査の点数は落ちても、デイサービスでできることが増えて安定した状態が続いている人も少なくありません。本人へのストレスが避けられれば『恍惚の人』(有吉佐和子著)に描かれているような重度の認知症になる人はまれです。
今は認知症になっても、生活習慣病のコントロールなどで身体の健康を保つこと、安心して暮らせるように環境を整備すること、適切な薬物治療をするなど複合的な力によって、ゆるやかな進行のまま、日常生活を続けることができるようになっています。図3はその状態をわかりやすく示したものです。なかでもよいケアは状態を大きく左右します。認知症という病気を怖がる前に、そのことをまずしっかり知っておいてください。

図3 普通に暮らせる時間は延ばせる

認知症の推定患者数の画像

上のグラフのBは薬も飲まず、ろくなケアもせず、放っておいた場合の進行具合。Aは適切なケアやリハビリもして、周囲の理解も得ながら薬も飲んだ場合の進行具合。やや高度になるまでは、1人暮らしは可能。下の棒グラフは、AのほうがBよりも、1人暮らしができる期間が増えることを示している。高度に至る前に寿命をまっとうする人も増えてきた。

クロワッサン特別編集 認知症を生きる 2017をもとに作成

認知症の症状をどうとらえるか 本人は症状を自覚している

認知症の症状についても、以前とは異なるとらえ方・考え方をするようになってきました。たとえばアルツハイマー病では、中核症状と周辺症状とよくいわれます(表2)。中核症状は脳の障害部位と直接関連する症状で、認知機能の低下を示します。物事が覚えられない記憶障害、時間や場所、理由がわからなくなる見当識障害、言葉が出づらくなる言語障害などが代表的です。一方、周辺症状といわれるのが行動心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)です。妄想、猜疑心、不安・焦燥、情緒不安定、怒り、徘徊などが含まれます。これらはよく、家族を最も困らせる症状といわれます。

表2 アルツハイマー病の症状
認知機能低下(中核症状とも呼ばれる、もの忘れ、家事の失敗など)
脳の障害部位と直接関連する
能力の低下である(例:思い出せない)
行動心理症状BPSDにより増悪しやすい

行動心理症状BPSD(感情の障害、幻覚・妄想)
環境・状況(対人関係含む)
能力の過剰や歪曲である(例:間違って思い出す)
認知機能低下を基盤に、環境や人間関係が引き起こす

日本認知症ケア学会. BPSDの理解と対応―認知症ケア基本テキスト.
ワールドプランニング, 2011

困った周辺症状も、原因があってのことである場合が多いのです。たとえば、もの忘れがあったり、言葉が出なかったりすると本人は戸惑ったり、焦ったりします。時間や場所がわからなくなるので不安にもなります。置いたものがなくなるとだれかに盗られたのではないかと疑心暗鬼にもなります。料理の手順を忘れるなど動作で失敗してしまうとなぜできないのかと混乱します。失敗を重ねてストレスがかかった上に、周囲から心ない非難を受ければ感情が不安定になり、暴力や暴言に訴えたりもします。認知症だと言葉が出づらいので、つい手が出たり、怒ったりしてしまうことがあるのです。また、失敗が続けばうつになったり、自分で何かやってみようという気持ちが低下したりします(自発性の低下)。こうした症状に、一番苦しんでいるのは本人です。精神的な不安定さは、「こんなこともできないの?」などといった周囲の非難や、失敗を責め立てることで起こってきます。周辺症状は病気による症状ではなく、正当な理由によるリアクションだといわれることもあります。
認知症も早期発見、早期治療が大切ですから、受診のタイミングは早ければ早いほどよいでしょう。早すぎると症状が軽いので診断が難しいこともありますが、定期的に検査をして経過を見ていくことが大切です。アルツハイマー病の進行段階は表3のように分類されています。診断がつくようなら治療を始めます。アルツハイマー病など認知症の治療は、現時点の状態から先に進行させないという治療です。時間を巻き戻すことはできない病気なので、ステージ4や5に進行してしまうとそこから遅らせるのは大変です。できるだけ早く、遅くともステージ3ぐらいまでには治療とケアを開始することが重要です。

表3 アルツハイマー病の進行段階
ステージ1 認知機能の低下がなく正常範囲。5〜10年前と比べても変化が見られない
ステージ2 非常に軽度の認知機能低下。年齢相応。もの忘れもわずかで周囲もほとんど気づかない
ステージ3 軽度の認知機能低下。仕事や複雑な家事では失敗することもあるが日常生活ではほとんど失敗がない
ステージ4 中等度の認知機能低下。軽度のアルツハイマー型認知症。来客の接待や、家計の管理、買い物などで失敗する。手続的ADL(道具的ADL)のみの障害
ステージ5 やや高度の認知機能低下。中等度のアルツハイマー型認知症。入浴や服選びなど基本的ADLに障害が生じる。気分や情動における変化も伴う
ステージ6 高度の認知機能低下。やや高度のアルツハイマー型認知症。独立して着衣や入浴ができない。この段階の後半では尿失禁や便失禁が起こる
ステージ7 非常に高度の認知機能低下。高度のアルツハイマー型認知症。質問されても節や単語でしか答えられない。徐々に歩けなくなり座っていられなくなる

Reisberg B: Psychopharmacol Bull. 1988; 24: 653-659

受診を拒否する理由 認知症扱いされたくない

受診は早ければ早いほどよいとはいえ、家族や周囲の人が異変に気づいて病院に連れて行こうとすると、本人が嫌がるという話をよく聞きます。そういう人でも後で話を聞いてみると、以前に自分で病院を受診していることが多いのです。そのときは医療機関が初期の認知症に対応していなかったため、「どうせ治らないけどお薬を飲んでおきなさい」などといわれ、失望して通院をやめてしまった。その後何年かして症状がはっきり出た段階で家族に連れてこられるというわけです。もの忘れの症状がはっきり出ると周囲は「何もわからない認知症の人」として扱うので、本人は非常に傷つきます。本人は別に受診や治療を拒否しているわけではなく、認知症として扱われることを拒否しているのです。何もわからない人間として扱われることを拒否しているということを家族や周囲の人は理解する必要があります。
表4は、自分から受診した人の訴えです。認知症は病識がないと思われがちですが、皆さんわかっています。わかっていて、「認知症かもしれないが考えたくない」「人から認知症だといわれたくない」「まともに話をしてもらえなくなるのではないか」「人間として相手をしてもらえなくなるのではないか」などと、認知症という診断への恐れと闘っています。本人がそういう気持ちになっていることを周囲は理解して接することが大事です。

表4 自分から受診した人の訴え
1 うっかり忘れることが増えた
2 うっかり勘違いをすることが増えた
3 言葉がすぐ出ないことが増えた
4 予定が変わると戸惑うことが増えた
5 短時間の作業でも頭が疲れやすくなった
6 「どうしてこうなったのだろう」
7 「これからどうなるのだろう」

繁田雅弘氏提供

認知症と診断されたときに、「私は絶対に認知症でない」と頑なに否定する場合も、「何もわからない認知症の人」という扱いを受けたくないという意味だと理解すれば何も不思議ではありません。大事なことは「いつまでも元気でいてほしい」と家族の思いを伝えつつ、「やっぱりもの忘れで病院に行くのは抵抗があるわよね」と共感しつつ、「でもね…」と相談するのがよいのです。
医師側からいうと、受診に消極的な人、拒否していた人には、「予防のために」と説明するようにします。本当は病気の説明をきちんとして理解してもらうのが一番ですが、どうしても受け入れられないというときは「アルツハイマー型の老化」などと認知症と断定しないで伝えることもします。「まだしっかりしているけど、予防のために飲んでおいたらどうですか」といえば、たいていの人は自分が認知症だとわかっていますから、薬を飲んでくれます。1人の人間として扱われれば、受診も治療も拒否せずに、きちんと受け入れてくれるはずです。

治療はどう進めたら効果的か まずは生活を安定させる

治療を始めるに当たってまず大事なのは、高血圧や糖尿病などの持病があって薬を飲んでいるときは、それをきちんと飲むことです。生活習慣病は認知症のリスクになりますから、できるだけコントロールしておくことは認知症の進行防止にもつながります。その上で今までやっていたことを継続するようにします。認知症の診断がつくと、多くの人はどんどん進行するというイメージを持っているので、家族や周囲の人は進行させないようにと脳トレなどをさせようとします。本人にとっては、それがイコール認知症の人という扱いになり、本来の日常生活とかけ離れてしまいます。それよりも今まで通りに家の掃除ができる、料理ができる、洗濯ができる、ゴミを出せるということが大事なのです。
 認知症と診断されたら本人はやはりショックを受けるはずです。病院からの帰り道、景色が違って見えたという人もいます。そんな混乱しているときに「脳トレしましょう」、「認知症の薬を飲みましょう」といっても、本人はさらに混乱するだけです。今まで飲んでいた薬を正しく飲む、食事を規則正しく、睡眠もしっかりとって生活を安定させる。そして、家事や趣味など自分がこれからも続けたいと思うことに取り組む。まずはそこからスタートします。
そうはいっても、もの忘れはあるのでいろいろと失敗が起こっているはずです。ガスの火をつけっぱなしにしてしまう、約束や予定を忘れてしまう。体の病気に関しても、次の通院時に報告しようと思っていたことを忘れて治療が後手に回ったりする。今までやっていたことを継続するといっても、発症前とまったく同じではありません。症状を持ちつつ暮らす生活を再スタートする必要があります。軽症の段階であれば、もの忘れがあっても、判断力はそれほど低下していません。認知症ということを受け入れて、自分でできること、できないことを整理して新しい生活を始めることは十分に可能です。
ただ、もの忘れがある中で新しく生活を立て直すにはそれなりの工夫が必要です。やはり何らかの手助けが不可欠ですから、介護保険のサービスや支援をできるだけ早く導入するとよいでしょう。とくに1人暮らしの人は、介護ヘルパーの助けがあれば服薬も家事も安心です。介護ヘルパーが入ることで、少し顔色が悪いから早めに病院に行きましょうと、余病も早めに見つかります。軽症の人は家事などがまったくできなくなるわけではなく、何度か失敗したことでなんとなく自信を失って、消極的になっている場合が多いのです。家族にもいえることですが、介護ヘルパーが後押ししてくれれば自信が回復してまたいろいろなことができるようになることもあります。最も必要なのは、代わりに買い物や洗濯をすることではなくて、本人の気持ちを支えることです。
介護保険のサービスや支援を早く使い始めると、その後の悪化を最小限に抑えられ、その後はサービス利用が増えません。そのまま自立度を下げずに人生をまっとうされる人も少なくありません。

認知症薬物治療の現状 投与量に問題があることも

現在、認知症の薬は4種類あり、進行を遅らせる働きがあります(表5)。作用メカニズムによって、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬に分かれます(図4)。

表5 アルツハイマー病治療薬の特徴
一般名 ドネペジル塩酸塩 ガランタミン
臭化水素酸
リバスチグミン メマンチン塩酸塩
商品名 アリセプト® レミニール® イクセロン®
リバスタッチ®
メマリー®
作用機序 AChE阻害 AChE阻害+APL作用 AChE阻害+BuChE阻害 NMDA受容体阻害
適応 軽度~高度AD 軽度~中等度AD 軽度~中等度AD 中等度~高度AD
維持量 5~10mg 16~24mg 18mg 20mg
維持量到達
まで
1~2週間(軽・中等度)
4週間(高度)
4週間(16mg) 4週間・12週間 3週間
1日
投与回数
1 2 1 1
剤形 錠・D錠(口腔内崩壊錠)
細粒・ゼリー・ドライシロップ
錠・OD錠(口腔内崩壊錠)・
内用液
パッチ 錠・OD錠(口腔内崩壊錠)

AD:アルツハイマー型認知症、AChE:アセチルコリンエステラーゼ、BuChE:ブチリルコリンエステラーゼ、APL作用:アロステリック増強作用

添付文書をもとに作成

図4 アルツハイマー病の薬の作用メカニズム

アルツハイマー病の薬の作用メカニズムの画像

Parsons CG, et al: Neuropharmacology. 2007; 53: 699-723、McGleenon BM, et al: Br J Clin Pharmacol. 1999; 48: 471-480

脳内で情報を伝える神経伝達物質の1つであるアセチルコリンは記憶や学習に関わっており、これが減少することがアルツハイマー病の発症に大きく関わっているとされます。このアセチルコリンの分解酵素の働きを抑制するのがコリンエステラーゼ阻害薬です。日本では1999年に初めてドネペジル塩酸塩が認可されました。軽度から高度のアルツハイマー病に効果が期待できます。ドネペジル塩酸塩はレビー小体型認知症でも使用が認められています。発売から10年が経過したことで後発品(ジェネリック)も使用できます。
2011年には、同じくコリンエステラーゼ阻害薬のガランタミン臭化水素酸塩と貼り薬のリバスチグミンが加わりました。コリンエステラーゼ阻害薬同士の併用はできませんが、変更は可能です。おもな副作用は食欲減退、吐き気・嘔吐です。貼り薬では薬を貼った部分の赤みやかゆみが見られる場合があります。
NMDA受容体拮抗薬は、過剰に増加した脳内のグルタミン酸刺激を抑えて神経細胞を保護する働きがあります。おもな副作用はめまい、便秘です。コリンエステラーゼ阻害薬との併用が可能です。介護している人も高齢な老老介護の場合など、急ぎ効果がほしいときは2剤を併用したりします。
どの薬も副作用を出にくくするために有効量(維持量)まで徐々に増やしていきます。副作用などで維持量にできなければ効果は期待できないので、中止するか、他の維持量を服用できる薬に変更します。
認知症の薬は本来、維持量による治療が必要ですが、なかなか難しいのが現状です。維持量を投与しないと進行抑制の効果は期待できませんが、専門医以外では維持量まで投与していないことがしばしばです。なぜかというと、治療薬は周辺症状に基づいて投与されることが多く、周辺症状には低量でも効くので、効果があるとそこから増量するのをやめてしまいます。量を増やさないほうが副作用の危険も少ないですし、増量して薬の効果が出て活動性が上がると徘徊なども増え、家族の負担がさらに増えることに繋がります。開業医の中には、そうしたリスクを冒さないために薬の量を増やしていないケースもあります。
認知症の薬のもう1つの問題は、治療効果の判定をあまりしていないことです。薬物治療の考え方として、通常、無効例は治療薬の変更をします。認知症の薬の場合、改善を示すのは30~40%、改善しないが進行抑制群(不変)は30~40%です。残りのノンレスポンダーは治療薬の変更(または、およびリハビリテーション・プログラムの見直し)が必要です。ところが、周辺症状の改善で満足し、最も重要な目的である進行抑制ができているかどうかの判断まで至りません。可能であればADAS-cog(アルツハイマー病評価尺度)で定期的に効果判定をすることが重要です。
精神症状の治療に向精神薬(抗精神病薬、抗不安薬)が使われることもあります。ふらつき、だるさ、もの忘れの悪化、理解力の低下、抑うつなどの副作用があり、体にも多少負担がかかるので、飲まざるを得ないときはできる限り低量を短期間だけ投与します。ストレスが減れば薬は必要なくなります。

リハビリとケアの効果は? 自身で早めに受診するメリット

認知症では、進行を予防できるというリハビリテーションとトレーニングという用語があります。トレーニングはどちらかというと記憶、計算など特定の知的活動、リハビリテーションは日常生活でものを整理する、調理器具を扱うなど複雑でいろいろな機能を組み合わせた訓練を指すことが多いようです。いずれにしても脳の機能を鍛えるという目的で行われます。ただ、これらが認知症の進行を遅らせることができるという報告はまだ1つもありません。医学の場合、最も信頼できる根拠は複数の論文を集めたメタ分析です。2000年代初頭のレビューを見ると、認知症のトレーニングは予防効果があるといわれていますが、年々声が小さくなっていき、2013年のレビューでは効果はないと報告されています。その理由として、人によって興味が持てるトレーニングの内容が違うことが挙げられます。ただし、効果のある人は必ずいるはずです。どういう人に効いているかを考えると、本人が興味を持ってできることかどうかではないでしょうか。
認知症になったら、以前やっていたこと、やりたかったこと、自分に合ったものを探すことが大切です。カラオケ、コーラス、読書、コンサート、歌舞伎、映画、絵画、スポーツ観戦、神社仏閣巡りなど何でもいいのです。興味を持って行えば集中するので脳も活性化します。楽しいことをすればいろいろなところに発想が及んでいきます。そうしたときは脳に対して必ずよい効果が出ているはずです。いやいや脳トレをやるよりもずっと効果的です。
ケアについても、心がけてほしいことがあります。認知症の人は、能力はまだあるのに自信をなくしてやらなくなってしまうことが多い。たとえば料理が得意だった人が料理の手順がわからなくなったり、手順の一部を抜かしたりしたり、味付けが抜けたりします。そのときに家族に「味がない」などといわれると、料理そのものをつくらなくなってしまいます。「認知症は自信を失う病気である」といってもよいくらいです。
ですから、家族や周囲の人は本人に失敗させないことが何よりも大事です。料理をしているときでも「ちょっとまずいぞ」と思ったら「手伝おうか」とすっと手を差し伸べる。そうすれば本人は失敗経験をしなくてすみます。失敗しないと本人は「こんなこともできたのか」と考えるので気持ちも安定し、病気と正面から向き合えるようになります。逆に、もの忘れをしたときに「また忘れたの!」などと追い込んでしまうと、しなくてもいい失敗をして、本来ならできることもあきらめてしまいます。
こんな言葉があります。「彼ら(家族)は往々にして善意で痴呆患者に自立を強いたり、住所や日付を言わせるような訓練にはげむ…大きな精神的負担であり、異常行動を生じさせる原因にもなっている」(竹中星郎、1996)。
薬やリハビリテーションで能力を高めることができたとしても、その能力を実際の生活場面で発揮できるかどうかは気持ち次第です。治療やリハビリの効果を生活に反映させるためにも、本人が自信を持ってやってみようと思えるかどうかが大切なのです。
最近は1人暮らしの人が増え、自分で判断して受診する人も増えました。自分で受診するので、周囲が無理矢理説得する必要もありませんし、そもそも「悪くならないように」と病院に来るので治療も積極的にします。そして、そういう人のほうが薬物治療の効果が高く、結果的に予後もよいので病状もゆるやかに経過します。
認知症の軽い段階では普通に話もできますし、ちょっともの忘れをするだけで一般の人とまったく変わりません。最近は専門外の医師の間でもそうした認識が深まり、認知症の人を取り巻く環境もずいぶん変わってきました。行政、地域、企業でも認知症の人をサポートしようというさまざまな取り組みが始まっています。認知症に対する社会の認識が変われば、認知症の人はもっと楽に暮らしていけます。

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