病院薬剤師編
2018年度診療報酬改定は、診療報酬本体の改定率が+0.55%(国費ベース約600億円)で、薬価の改定率は、マイナス(▲)1.65%(約1,800億円)、材料価格は▲0.09%(約100億円)で両者を合わせて▲1.74%であり、診療報酬全体の改定率は▲1.19%(約1,300億円)となりました。その他、本体の外枠として、いわゆる大型門前薬局に対する評価の適正化で0.06%(約60億円)の措置が講じられました。
今回の診療報酬改定の重点課題は、地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進です。その具体的な方向性として、・地域包括ケアシステムの構築のための取り組み強化、・かかりつけ薬剤師・薬局などの機能の評価、・医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価、・外来医療の機能分化、重症化予防の取り組みの推進、・質の高い在宅医療・訪問看護の確保などが具体的方向性の例として示されています。病院薬剤師関連では、チーム医療等の推進等の勤務環境の改善、感染症対策や薬剤耐性対策・医療安全の推進、後発医薬品の使用促進、医薬品の適正使用の推進などが挙げられています。主な改定内容について解説します。
感染防止対策加算の評価
薬剤耐性(AMR)対策の推進、特に抗菌薬の適正使用の観点から、感染防止対策加算の要件が見直されました。さらに抗菌薬適正使用支援チームの取り組みに対して「抗菌薬適正使用支援加算100点」が新設されました。抗菌薬適正使用支援チームは、医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師で構成され、薬剤師は3年以上の病院薬剤師経験を持つ感染症診療に関わる専任の薬剤師とされ、構成員のうち1名を専従配置することが必要です。
チームとしての主な業務は、広域抗菌薬等の使用患者などのモニタリング実施、モニタリング結果の主治医へのフィードバック、抗菌薬使用状況などのアウトカム指標の評価、抗菌薬の適正使用を目的とした職員研修の実施、使用可能な抗菌薬の種類・用量等の定期的な見直しなどが挙げられています。
入退院支援の推進
入院を予定している患者が入院生活や入院後にどのような治療過程を経るのかイメージでき、安心して入院医療を受けられるように、より優しく丁寧な医療を推進する観点から、外来において、入院の予定が決まった患者に対し、入院中に行われる治療の説明、入院生活に関するオリエンテーション、持参薬の確認、褥瘡・栄養スクリーニング等を実施し、支援を行った場合に「入院時支援加算200点」が新設されました。算定対象患者は、自宅等(他の医療機関から転院する患者は除く)から入院する患者であり、入院前支援を行う担当者を入退院支援部門に配置することなどが施設基準となっています。
サリドマイド及びその誘導体の安全管理
サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドは多発性骨髄腫等の治療薬ですが、催奇形性を有する薬剤であることから、胎児暴露防止の観点から安全管理手順(TERMSおよびRevMate)が承認要件として定められています。処方や調剤に際し、医師及び薬剤師が患者の服薬状況や遵守事項を確認し、確認票を製薬企業へ送信することとされています。
この度、服薬による安全管理の遵守状況を確認し、その結果を所定の機関(TERMS管理センター又はRevMateセンター)に報告し、投与の妥当性を確認した上で、患者に必要な指導を行った場合に算定できる「特定薬剤治療管理料2 100点」が新設されました。昨年は、入院患者における誤投与が数多く発生していますが、今後は医師や看護師との連携を強化し薬剤による胎児暴露を完全に防止する必要があります。
後発医薬品の使用促進
「骨太の方針2017」において、2020年(平成32年)9月までに後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早い時期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討するとされました。医療機関における後発医薬品の使用促進のため、「後発医薬品使用体制加算1」が85%以上、「加算2」が80%以上85%未満、「加算3」が70%以上80%未満、「加算4」が60%以上70%未満の4段階に変更されました。院内処方を行う診療所において、「外来後発医薬品使用体制加算1」が85%以上、「加算2」が75%以上85%未満、「加算3」が70%以上75%未満の3段階となっています。また、後発医薬品の使用促進に一定の効果があるとの調査結果等を踏まえ、より一般名による処方が推進されるように一般名処方加算の点数を倍増する評価が行われました。後発医薬品の使用を促進するため、薬剤師には、適切な後発医薬品の選択や医師等への情報提供が求められています。
向精神薬処方の適正化
向精神薬の多剤処方やベンゾジアゼピン系の抗不安薬等の長期処方を是正するため、処方料や処方箋料の要件が見直され、報酬が引き下げられました。今回より、減算となる多剤処方の範囲に4種類以上の抗不安薬及び睡眠薬が加わります。ベンゾジアゼピン系薬剤を12か月以上処方している場合の処方料や処方箋料も引き下げられました。また、薬剤師や看護師が医師と連携して向精神薬が多剤処方されている患者の減薬に取り組んだ場合に「向精神薬調整連携加算12点」が新設されました。
増減等 | 改定項目 | 点数 |
---|---|---|
新設 | 入院時支援加算 | 200点 |
新設 | 薬剤適正使用連携加算 | 30点 |
同額 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料1 | 650点 |
増額 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料2 | 320点 |
新設 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料3 | 290点 |
減額 | 感染防止対策加算1 | 390点 |
減額 | 感染防止対策加算2 | 90点 |
新設 | 抗菌薬適正使用支援加算 | 100点 |
同額 | 医療安全対策加算1 | 85点 |
減額 | 医療安全対策加算2 | 30点 |
新設 | 医療安全対策地域連携加算1 | 50点 |
新設 | 医療安全対策地域連携加算2 | 20点 |
減額 | 緩和ケア診療加算 | 390点 |
減額 | 外来緩和ケア管理料 | 290点 |
増額 | 後発医薬品使用体制加算1 | 45点 |
増額 | 後発医薬品使用体制加算2 | 40点 |
増額 | 後発医薬品使用体制加算3 | 35点 |
新設 | 後発医薬品使用体制加算4 | 22点 |
増額 | 外来後発医薬品使用体制加算1 | 5点 |
増額 | 外来後発医薬品使用体制加算2 | 4点 |
増額 | 外来後発医薬品使用体制加算3 | 2点 |
増額 | 一般名処方加算1 | 6点 |
増額 | 一般名処方加算2 | 4点 |
減額 | (向精神薬等の多剤投与)処方料 | 18点 |
減額 | (向精神薬等の多剤投与)処方箋料 | 28点 |
新設 | (抗不安薬等の長期投与)処方料 | 29点 |
新設 | (抗不安薬等の長期投与)処方箋料 | 40点 |
新設 | 向精神薬調整連携加算 | 12点 |
新設 | 特定薬剤治療管理料2 | 100点 |
編集部作成
今回の改定では、地域包括ケア病棟入院料に包括されていた薬剤総合評価調整加算が出来高へ移行したこと、退院時共同指導料で病院の薬剤師による共同指導が算定対象とされたこと、在宅患者訪問薬剤管理指導料が居宅場所に応じた評価になったことも注目されます。また、医療安全対策で医療機関の連携を評価したこと、チーム医療における専従要件を緩和したこと、カンファレンスなどに情報通信技術(ICT)を活用できること、無菌製剤処理料の算定要件に皮内・皮下・筋肉内注射が加わったこともポイントです。病院薬剤師の業務は、病院内の業務から、医療連携による地域の医療チームとしての活動も求められています。チーム内での薬剤師として責任ある活動が質の高い薬物療法につながり、患者や他の医療者からの評価が次の評価に結びつきます。薬剤師には、患者のため、薬物療法の質の向上のため、積極的な活動が求められています。