──今回の改定の背景には「患者のための薬局ビジョン」がありましたが、改定の背景や狙いを教えてください。
今回の調剤報酬改定に向けて、薬局に対する様々な厳しい意見があったのは事実です。例えば、2017年11月に行われた内閣官房の行政事業レビュー(国の事業についてPDCAサイクルが機能するよう点検・見直しを行うもの)の公開検証で、「院外処方の調剤技術料が院内処方の3.3倍になっているが、これに見合う価値はあるのか」といったことが問われました。
その中でも非常に厳しいと感じたのは、かかりつけ薬剤師として活躍している方がいる一方、そうではない薬局が非常に多いのではないか、その方々はどのように役立っているかという指摘です。患者さんの実感として薬局に行くメリットが見出せない方が多いことがこうした指摘につながっているのだと思います。
3年前にも内閣府の規制改革推進会議で同様の指摘を受けました。その後、厚労省は2015年10月に患者本位の医薬分業の実現に向けて「患者のための薬局ビジョン」を公表しました。その中では様々な患者ニーズに応えられるよう「服薬情報の一元的・継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導」「24時間対応・在宅対応」「医療機関等との連携」の3つの機能を示し、2025年までに全ての薬局がこれらの基本的機能を持つよう再編するとしました。厳しい指摘を受けていることに対して、2016年度改定以降に薬剤師のみなさんがどう変わったのかを問われたのが今回の改定だったと思います。
今回の改定は、2016年度診療報酬改定の結果を検証した上で、患者としてメリットが感じられる部分、地域の多職種の方々にとって役立つであろう部分を評価することを意識して行ったものです。
──地域医療に貢献する薬局を評価する「地域支援体制加算」が創設されました。一方で、調剤基本料では処方箋枚数と集中率に応じて点数の適正化が行われました。
小児には小児のニーズが、高齢者には高齢者のニーズがあります。様々な患者さんのニーズに対応でき、薬局が持っている情報を共有し地域包括ケアシステムの中で多職種と連携でき、個々の患者さんの薬学的管理ができる薬局を評価するのが「地域支援体制加算」です。
地域の患者さんを支えていく、地域医療を支えていくための体制を評価しているものであって、個々の要件を個別に満たしてくださいということではありません。それを行うためのバックボーンの部分、地域の中での薬局としての存在価値にスポットを当てて体制を評価していますから、個々の基準にとらわれず、薬局の在り方や地域とのかかわり方をどうするかという視点が大事だと思います。
「調剤基本料」は医薬品の備蓄や様々なインフラ整備といった薬局の運営コストを評価しているものです。特定医療機関からの処方箋集中率が高いほど、医薬品備蓄の効率性がよいことは過去からのデータが示している通りです。また、薬局の店舗数によって収益性が高いというデータもあり、直近の医療経済実態調査でも同様の結果でした。こうした実情を踏まえて、薬剤師の業務の評価ではなく薬局の運営コストの評価を、集中率や処方箋枚数に応じて適正化したものです。
他方、「薬剤服用歴管理指導料」は薬剤師の対人業務を評価したものです。今回の改定で設けた特例(13点)の対象になる薬局の薬剤師は薬学的管理が十分ではないということを意味することになります。お薬手帳の活用の推進は、薬学的管理の全てではないでしょうが一部分であることに違いありませんので、一人の薬剤師として、自分自身の薬学管理が十分でないという形にならないよう、しっかり対応していただきたいと思います。
──今回の改定で地域包括ケアシステムにおける薬局の役割はどのように評価されたのでしょうか。
例えば、「服用薬剤調整支援料」という新しい項目を設けました。処方内容が10剤、15剤になっていても重複投与も相互作用もないからそのまま薬を出すというのが薬剤師にとってあるべき姿でしょうか。厚労省が実施した調査では、70歳以上の方の6割が内服している薬の数を減らしたいと思っています。薬剤師の視点で薬物療法の最適化に貢献していく中で、こうした患者さんのニーズに寄り添ってしっかり対応していくという観点で業務を行ってほしいと思っています。なお、本来であれば、多剤投薬の状況にならないように日頃から薬学的管理を行うことが重要なので、単にこの算定実績が多い薬局がよいかというと必ずしもそうではないと思います。「服薬情報等提供料」は、患者さんの状況をフォローして得た情報を共有し、多職種と連携して対応することを評価したものです。これは地域包括ケアシステムの中で活躍する薬剤師の業務としてとても重要だと思います。
医師からも患者さんをしっかりフォローしている薬剤師と連携したいという声があります。薬局薬剤師の業務は医師等の多職種から見えていない部分が多いのではないでしょうか。そのような中で、「服用薬剤調整支援料」、「服薬情報等提供料」は、薬局薬剤師の業務の見える化にもつながります。患者さんの情報を丁寧に聞き取って、薬学的管理に生かすだけでなく、多職種にとって参考となる情報をしっかりと提供していくことが重要です。
なお、「かかりつけ薬剤師指導料」と「服薬情報等提供料」は併算定不可になっています。つまり、多職種との情報共有・連携はかかりつけ薬剤師の業務に包括しているということです。患者さんに対して「患者さんに任された一人の専門家として、あなたの薬物療法に責任を持ちます。多職種と連携して一番よい、最適な薬物療法につなげて行く役割を果たします」というのがかかりつけ薬剤師です。自分自身の力だけではなく、地域の医療チームの一員として連携して患者さんをみていく視点が重要だと思います。
医科の診療報酬に「退院時薬剤情報管理指導料」というのがありますが、この算定要件に、入院時の薬剤服用歴の確認にあたって「必要に応じて保険薬局に照会する」ことが盛り込まれました。入院時に医療機関から薬局に問い合せがあれば、薬剤服用歴だけでなく、副作用歴やアドヒアランスに関する細かい情報も提供できると思います。また、薬局からそうした情報提供を受けた場合には、入院中の薬物療法の情報を薬局に提供することも要件になりました。さらに、もし患者さんがかかりつけ薬剤師を持っていたら、医療機関は在宅に戻った場合の薬学的管理・指導はかかりつけ薬剤師に相談してくださいと促すことも努力規定として加えています。外来から入院を経て在宅へという流れの中で、情報共有が推進されればと思います。
分割調剤についてもお話しておきたいと思います。今回、分割指示に係る処方箋様式の追加などにより取扱いの明確化を図りました。医師からこうした分割指示が出た場合には、継続的な薬学的管理が求められているわけですから、しっかりと有害事象や残薬、服薬アドヒアランスの状況をフォローし、医療機関にフィードバックしていただきたいと思います。
──今回の改定を踏まえて、次期改定に向けたメッセージをお願いします。
「いろいろな方のお話を伺う中で、改定の善し悪しというのが、薬局経営への影響や算定できそうかという期待値で語られているように感じることがあります。しかし、改定がよい内容かどうかは、今判断できるものではないのかもしれません。むしろ、1年後、2年後、その先に語られるべきものであり、みなさんの業務が示していくものではないかと思います。つまり、調剤報酬は、我々の手にあるわけではなく、現場の薬剤師ひとりひとりの手の中にあります。薬剤師の将来像も我々の頭の中にあるべきものではなく、薬剤師のみなさんの目の前になければなりません。
次の調剤報酬改定が具体的にどうなるかはわかりませんが、薬局、薬剤師のあるべき姿をめざして進めていくことになります。いずれにしても、データによる裏付けがなければ評価することは難しいというのは事実です。「院外処方の調剤技術料は院内処方の3.3倍だが、それに見合うだけのメリットがあるのか?」、そのような声に対してみなさんがどのように答えていくかというのも一つの課題でしょう。
まずは、日頃から目の前の患者さんに寄り添っていただくことが第一だと思います。自分が一番活躍できる形に周囲を変えていくことも必要かもしれません。1年後、1年半後にみなさんの変わった姿を見せていただきたいと願っています。