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特集

糖尿病のいろいろな疑問に答える

2017年3月号
糖尿病のいろいろな疑問に答えるの今の画像

作用機序の異なる糖尿病薬が次々に登場しています。そんな中、薬剤師さんからよく寄せられるのが「糖尿病薬の使い分け」についての質問や疑問です。最近は病態だけでなく、年齢によっても糖尿病薬を使い分けることが推奨されており、高齢者への服薬指導が特に重要になってきました。今特集では、薬剤師さんを悩ます糖尿病薬の選択や使い分けなどについての疑問・質問に対して、東京都健康長寿医療センター内科総括部長(糖尿病・代謝・内分泌内科)の荒木厚氏に解説していただきます。

Q.01 患者さんに最初に処方される経口糖尿病薬はどのように選択されているのでしょうか?

現在、我が国で市販されている経口糖尿病薬は、スルホニル尿素(SU)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン系薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬です(表1)。これらの中から患者さんに最初に処方する薬を選ぶときは、有害事象をできるだけ少なくするような薬物選択が重要になってきますから、まずは薬物の禁忌に当たるものに当てはまっていないかどうかを考えます。たとえば高齢者では低血糖のリスクが少ない薬剤を中心に組み立てていきます。高齢者にとって低血糖は種々の悪影響を及ぼします(表2)。

表1 糖尿病内服薬一覧
  一般名 商品名 1日の用量(mg) 作用時間(時間)
スルホニル
尿素(SU)薬
アセトヘキサミド
クロルプロパミド
グリクロピラミド
グリクラジド
グリベンクラミド
グリメピリド
ジメリン
アベマイド
デアメリンS
グリミクロン、グリミクロンHA
オイグルコン、ダオニール
アマリール、アマリールOD
250~1000
100~500
125~500
40~160
1.25~10
0.5~6
10~16
24~60
6
12~24
12~24
12~24
速効型インスリン
分泌促進薬
ミチグリニドカルシウム水和物
ナテグリニド
レパグリニド
グルファスト
ファスティック、スターシス
シュアポスト
30
270~360
0.75~3
3
3
4
α-グルコシダーゼ
阻害薬
アカルボース
ボグリボース
ミグリトール
グルコバイ、グルコバイOD
ベイスン、ベイスンOD
セイブル
150~300
0.6~0.9
150~225
2~3
2~3
1~3
ビグアナイド薬 メトホルミン塩酸塩

ブホルミン塩酸塩
グリコラン、メデット
メトグルコ
ジベトス、ジベトンS
500~750
500~2250
100~150
6~14
6~14
6~14
チアゾリジン系薬 ピオグリタゾン塩酸塩 アクトス、アクトスOD 15~45 20
DPP-4阻害薬 シタグリプチンリン酸塩水和物
ビルダグリプチン
アログリプチン安息香酸塩
リナグリプチン
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物
アナグリプチン
サキサグリプチン水和物
トレラグリプチンコハク酸
オマリグリプチン
グラクティブ、ジャヌビア
エクア
ネシーナ
トラゼンタ
テネリア
スイニー
オングリザ
ザファテック
マリゼブ
25~100
50~100
6.25~25
5
20~40
100~400
2.5~5
50~100(週1回)
12.5~25(週1回)
24
12~24
24
24
24
12~24
24
半減期54時間
半減期39時間
SGLT2阻害薬 イプラグリフロジンL-プロリン
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物
ルセオグリフロジン水和物
トホグリフロジン水和物
カナグリフロジン水和物
エンパグリフロジン
スーグラ
フォシーガ
ルセフィ
アプルウェイ、デベルザ
カナグル
ジャディアンス
50~100
5~10
2.5~5
20
100
10~25
24
24
24
24
24
24

*添付文書上の用量を記載

※配合薬は記載無し
「患者さんとその家族のための糖尿病治療の手引き」改訂第56版(日本糖尿病学会編・著)をもとに作成

表2 高齢者における低血糖の悪影響

  1. 低血糖が月1回以上であるとうつ症状が増える
  2. 低血糖の頻度が多いと糖尿病負担感が増える
  3. 低血糖の頻度が多いとWell-beingが低下
  4. 低血糖が年3回以上であると転倒しやすい
  5. 重症低血糖は認知症の危険因子
  6. 重症低血糖は死亡を増やす
    (不整脈、自律神経異常、易血栓性を介する)
桑島巖編 高齢者の薬よろずお助けQ&A100, 羊土社, 2012

また、その患者さんがほかにどのような病気を持っているかも考慮します。たとえば心不全や女性で骨粗鬆症の既往があるときは、心不全や骨折のリスクがあるチアゾリジン系薬のピオグリタゾンが使えなくなります。チアゾリジン系薬は動物実験で骨密度を低下させるとの結果が出ていますし、疫学調査で女性に骨折が増えるとの報告もあります。骨折のリスクは用量依存性ということがわかっており、使うとしてもできるだけ少量で使います。さらに重度の腎機能障害があるときは、ビグアナイド薬のメトホルミンとSU薬、SGLT2阻害薬が使えなくなります。また、腸の手術などをして腸閉塞になりやすい人は、下痢、便秘などの副作用があるα-グルコシダーゼ阻害薬の使用は避けます。まずはそうした禁忌に当てはまる薬物を除外していくこと、その次に病態を考えて、インスリン抵抗性が強いか、インスリン分泌が低下しているかなどで薬を選択していきます(図1)。

図1 病態に合わせた経口糖尿病薬の選択

図1 病態に合わせた経口糖尿病薬の選択の画像

桑島巖編 高齢者の薬よろずお助けQ&A100, 羊土社, 2012

Q.02 高齢者で低血糖のリスクが少ない薬物を選ぶ場合、第一選択となるのはどんな薬剤ですか?

考え方が大きく2つに分かれます。日本以外の国、海外ではビグアナイド薬のメトホルミンが第一選択薬となります。重度の腎機能障害がなければまず使う薬剤になります。日本ではメトホルミンの一世代前のビグアナイド薬であるフェンホルミンが高齢者や腎機能障害がある人で乳酸アシドーシス(膵臓での乳酸の利用が減ると同時に、血液の中に乳酸が異常に増えてしまい、血液が酸性になる状態のこと)を多発したために、高齢者で禁忌だった時代がありました。そのためどうしてもメトホルミンを使う機会が少なく、どちらかというと現在では最初はDPP-4阻害薬を中心に使っている人が多いのが現状です。
実際は、乳酸アシドーシスの頻度はそれほど高くなく、腎機能を定期的にしっかり評価して使えば問題ないというのが世界の趨勢(すうせい)になっていて、日本でも以前よりは高齢者に使う流れになっています。ただ、日本糖尿病学会では、病態に合わせて使用する薬剤を選択するということが勧められています。そこが海外のガイドラインと違うところです。そういう意味では、どの薬剤から使うかはあまり決めなくてもよく、高齢者でも病態に合わせてDPP-4阻害薬かメトホルミンの、どちらかをまず使っていくというのがいいのではないかと思います。その他に高齢者でおもに使われる薬剤は少量のSU薬、食後高血糖を改善するα-グルコシダーゼ阻害薬とグリニド薬がありますが、病態やコストを考えて、最初に使用しても構わないと思います。

Q.03 日本ではDPP-4阻害薬をまず使う医師が多いとのことですが、DPP-4阻害薬の中での使い分けはありますか?

この薬は、膵臓からのインスリン分泌を促進するインクレチンというホルモンを分解するDPP-4という酵素の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくします。その結果、インクレチン作用が高まって、インスリン分泌量を増やし、血糖値を下げます。薬剤によって服薬が朝1回なのか、朝夕2回なのかの違いはありますが、有効性や安全性などはほとんど差がありません。シタグリプチンとアログリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチンは腎機能に応じて用量の調節が必要ですが、それ以外はほとんど変わらないので、何も考えないで最初に処方する分にはとても使いやすい薬です。おそらく現在は全国の7割ぐらいの医師がDPP-4阻害薬を第一選択として使っていると思われます。

Q.04 高齢者に慎重に投与すべき薬剤としてSGLT2阻害薬があります。その使い方についても教えてください。

SGLT2阻害薬は、腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、尿から糖を出すことで血糖を下げる薬です。体重を減らす作用があり、肥満の人に向いている薬です。高齢者ではかなり注意して使う必要がある薬とされており、まだまだ使用している一般の医師は少ないといえます。ただ、いろいろな有害事象の報告を見ると、高齢者でも若い人でもそれほど頻度は変わらないことがわかってきています。今後、SGLT2阻害薬は高齢者でも、身体機能が保たれ、認知機能も保たれていて、脱水に対する対処ができて十分に水分がとれるような肥満の人なら使えるのではないかとの考え方になってきています。日本糖尿病学会でのRecommendationでは老年症候群(加齢に伴う心身の機能の衰えによって現れる身体的・精神的諸症状、疾患の総称)がない人への処方を推奨しています。
心血管の安全性を評価した大規模臨床試験「EMPA-REG OUTCOME」(EMPA-REG)では、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジンを使っている人が心不全や死亡が少なく、なおかつ腎機能の悪化を抑制することができたと報告されました。その報告でも、高齢者にもある程度有効性があるとのことです。もちろん性器感染症、尿路感染症、脱水などの副作用には注意しないといけませんが、今後は高齢でも肥満の人ではSGLT2阻害薬がより多く使われていくのではないかと考えられます。

Q.05 SU薬の中で、高齢者でより低血糖のリスクが少ない薬剤はありますか?

表2のように、高齢者にとって低血糖はさまざまな悪影響を及ぼします。低血糖の頻度が高いと転倒を起こしやすいことや、重症低血糖は認知症の危険因子になっていることもわかってきました。さらに、重症低血糖は不整脈、自律神経異常、易血栓性を介して死亡につながりやすいと考えられています。
最近のメタ解析で、グリクラジドがもっとも重症低血糖が少ないと報告されました。従来のグリベンクラミドは、海外では高齢者には使ってはいけない薬となっており、高齢者に使う必要はなくなってきています。グリメピリドが一般ではよく使われていますが、これもけっこう作用時間が長く、重症低血糖を起こしやすいといえます。この薬も昔は3~6mg/日のように多めの量を使っていましたが、今はそれほど使う必要はなく、0.5~1mg/日程度を使っている医師が多いと思われます。私としては、グリメピリドを使うとしたら0.25mg/日といったさらに少ない量で使ったほうが安全だと考えています。

Q.06 SU薬で低血糖を起こさない使い方を教えてください。

高齢者は突然欠食することがあります。食べないでそのまま薬を飲んでしまったりすると重症低血糖が起こり得ます。私たちの施設には今でもグリメピリド、グリベンクラミドによる重症低血糖で年間5~10人ぐらい紹介されて入院してきます。腎機能をきちんと評価していないことが原因です。大丈夫だと思っていても、腎機能の指標であるeGFR(推算糸球体濾過量)を計算すると腎機能が悪い人がかなり混じっています。今でもSU薬による重症低血糖は、糖尿病患者さんが急性期病院に入院するトップの原因です。そういう意味でも、SU薬に関しては可能な限り少量で使うことと、腎機能をeGFRで正確に評価しながら使っていくことが重要です。
そして、eGFRが30mL/min/1.73m2未満だったら禁忌と考えて服用をやめる、eGFR45mL/min/1.73m2を切った段階で減量することを考えます。60mL/min/1.73m2で減量するという考え方の論文もありますが、いずれにしてもeGFRをきちんと評価しないと減量できません。たとえば、若いときからずっと診ている患者さんにSU薬を使っているため、糖尿病の評価基準であるHbA1cが7%を切っていて安心していると、ある日突然重症低血糖を起こすことがあります。SU薬を使っていてHbA1cが7%を切ったときは無自覚性も含めて低血糖が起きていないかどうか注意しないといけません。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は最近、「高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を発表しました。そこでは、後期高齢者でSU薬を飲んでいる人はHbA1cが8.0%未満で、下限値を7.0%にしています。これは、後期高齢者に対する「7%を切ったらSU薬を減らしましょう」というメッセージでもあります。薬剤師さんも、SU薬を大量に飲んでいる人に対してはHbA1c値を見て、「低血糖に気をつけましょう」と指導するようにしてください。

Q.07 高齢者では「食べられない」ということはよく起こるのでしょうか?

高齢者が「食べられない」というのは、夏バテなどもありますが、よく経験するのが欠食です。「今日は食べたくない」、「面倒くさいから食べない」、「昼を抜いてしまう」など、高齢になると欠食が多くなります。たとえば朝遅く起きて、10時近くに朝食を食べて、それから夜まで何も食べないようなことはよくあります。服薬指導では食事の指導も兼ねることが必要です。特にSU薬の場合、食事と食事の間隔が長くなってしまうとどこかで血糖が下がって、無自覚性の低血糖を起こしている可能性もあります。
ただし、必ずしもSU薬を使ってはいけないというのではなく、使わざるを得ない人がいることも実は大事なポイントです。長期に糖尿病を患っている患者さんはインスリンの分泌が落ちていますから、ちょっとでもインスリンを出させるような薬が必要になってきます。血糖値をコントロールするためにはDPP-4阻害薬だけでは不十分で、やはり少量のSU薬が必要なのです。完全にやめてしまうと高血糖になってきます。
いずれにしろ、食べられないときにどうするかという指導は、低血糖の対策と同時に高齢者への2つの大きな指導のポイントとなります。メトホルミンも脱水を契機に腎機能が悪くなり、薬剤が蓄積し、乳酸アシドーシスをきたす可能性があります。SGLT2阻害薬も水分を出す薬なので、脱水を起こす危険性があります。薬というのは、食べられないときは服用をやめるという指導はどこかでしているはずですが、患者さんはあまり覚えていません。薬剤師さんにはそういうことも指導していただきたいと思います。

Q.08 インスリン抵抗性がある患者さんへの薬の選択と注意のポイントは?

インスリン抵抗性とは、インスリンは分泌されているが、働きが悪くなるということです。インスリン抵抗性の原因としては肥満がよく知られていますが、単に肥満かどうかではわからない部分があり、見かけはやせていても脂肪肝がある人や、運動不足で筋肉が落ちている人もインスリン抵抗性が高くなります。最近は、内臓だけでなく、筋肉にも脂肪が貯まることで、筋肉でのブドウ糖の取り込みが低下し、インスリン抵抗性をきたすことも考えられています。
インスリン抵抗性の目安として、HOMA-R=「空腹時血糖値(mg/dL)」×「空腹時インスリン値(μU/mL)」÷405という計算式があります。1.6以下は正常、2.5以上はインスリン抵抗性あり、4.0以上は高度のインスリン抵抗性となります。こうした数値だけでなく、その人の体組成のようなものを推定しながら、インスリン抵抗性が高い人かどうかを見ていくことも大切です。内臓脂肪が貯まってウエストが大きくなっていたり、脂肪肝があったりする人はインスリン抵抗性が強くなっています。そういう人にはインスリン抵抗性を改善する薬を使ったほうがよいだろうということで、メトホルミンやチアゾリジン系薬(ピオグリタゾン)を選択することが多くなります(図1)。

Q.09 インスリン抵抗性がある患者さんへの薬の選択と注意のポイントは?

糖尿病の合併症では、末梢神経障害が起こるとその治療薬をどのように使用するかが問題となります。有痛性の神経障害があると、両脚が痛くて夜眠れないなど日常生活や社会活動に支障をきたします。その治療薬としては、デュロキセチンとプレガバリン、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)があります。一般にはこの3つが第一選択になりますが、高齢者では三環系抗うつ薬は起立性低血圧や不整脈などの問題がありますし、プレガバリンは人によってはふらつき、転倒という危険があり、使用する場合は気をつけないといけません。私はデュロキセチンをよく使っています。ある程度疼痛を抑えることができれば、生活の質(QOL)もよくなります。
神経障害があるとうつ病も多くなります。糖尿病におけるうつ病は、高血糖、高頻度の低血糖、神経障害、インスリン治療などさまざまな原因で起こり得ますが、その中でも神経障害はうつ病の合併が多いといわれています。糖尿病でうつ病を合併しているような人では、うつ病と神経障害の両方を治療する目的でデュロキセチンを使うことがあります。デュロキセチンは吐き気や消化器症状などの副作用があるため少しずつ増量していくという使い方をしないといけない薬ですが、最初の1週間ぐらいはそれらの症状に気をつけてもらい、それを乗り切ればほとんど安全に使える薬です。

Q.10 高齢者は糖尿病薬のほかにもいろいろな薬を飲んでいます。薬の相互作用が心配な薬剤にはどんなものがありますか?

薬の相互作用で一番問題なのはSU薬です。頻度的にはそれほど多くありませんが、症例報告やメタ解析を見ると、SU薬とマクロライド系、ニューキノロン系、抗真菌薬の一部などの抗菌薬を併用すると重症低血糖を起こすことがあります。これらの抗菌薬は薬物代謝酵素CYPで代謝されることから、代謝系が競合しているSU薬が蓄積してしまうことが原因です。最近も私たちの施設で、SU薬とニューキノロン系のレボフロキサシンを飲んで重症低血糖を起こした例が2例ありました。レボフロキサシンは他の医院や施設で処方されている可能性がありますから、薬剤師さんもお薬手帳などで確認するようにしてください。抗結核薬も1例報告されていましたし、フィブラート系薬(高脂血症治療薬)も一時話題になりましたが、やはり相互作用が目立つのは頻繁に処方される抗菌薬です。
DPP-4阻害薬とSU薬の併用も一時問題になりました。SU薬を飲んでいる人にDPP-4阻害薬を加えたときに、SU薬を減量しないで投与すると重症低血糖を起こします。日本糖尿病学会が「DPP-4阻害薬を併用する際にはSU薬を減らしましょう」というRecommendationを出したことにより、最近はその啓発のおかげで減ってきました。
その他、高齢者に慎重な投与を要する薬剤は、『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』にまとめられています(表3)。

表3 糖尿病で特に慎重な投与を要する薬物リスト
薬物
(クラスまたは一般名)
代表的な一般名
(すべて該当の場合は無記載)
対象となる患者群
(すべて対象となる
場合は無記載)
主な副作用・理由 推奨される使用法
非定型抗精神病薬 リスペリドン、オランザピン、
アリピプラゾール、クエチアピン
糖尿病 血糖値上昇のリスク 糖尿病患者に対してオランザピン、
クエチアピンは禁忌
スルホニル尿素(SU)薬 クロルプロパミド、アセトヘキサミド、
グリベンクラミド、グリメピリド
低血糖とそれが遷延するリスク 可能であれば使用を控える
代替薬としてDPP-4阻害薬を考慮
ビグアナイド薬 ブホルミン、メトホルミン 低血糖、乳酸アシドーシス、下痢 可能であれば使用を控える
高齢者に対して、メトホルミン以外は禁忌
チアゾリジン系薬 ピオグリタゾン 骨粗鬆症・骨折(女性)、心不全 心不全患者、心不全既往者には使用しない
高齢者では、少量から開始し、慎重に投与する
α-グルコシダーゼ阻害薬 アカルボース、ボグリボース、
ミグリトール
下痢、便秘、放屁、腹満感 腸閉塞などの重篤な副作用に注意する
SGLT2阻害薬 すべてのSGLT2阻害薬 重症低血糖、脱水、尿路・性器感染症のリスク 可能な限り使用せず、使用する場合は慎重に投与する
スライディングスケール
によるインスリン投与
すべてのインスリン製剤 低血糖のリスクが高い 高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える

*対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢者

『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』をもとに作成

Q.11 投薬する際、年齢以外にも考慮することがありますか?

今注目されている言葉にフレイルがあります。フレイルとは健康と要介護状態の中間の状態です。最初は歩行速度低下、握力低下、疲労感、活動量低下、体重減少の5項目の中で3項目以上該当するとフレイルと定義され、要介護、施設入所、死亡などに陥りやすいことが明らかになっています。その後、認知機能低下などを含めた種々のフレイルの定義がなされています。臨床的には歩行速度が遅いことや動作の立ち上がりが遅いなどで身体的なフレイルがあるかどうかを簡単に見ることができます。歩行速度に関しては患者さん自身に聞くと「最近、横断歩道が渡りきれなくなった」、「人にすぐに追い越される」などと、みなさん的確に答えてくれます。
最近は、元気な高齢者とフレイル状態の高齢者で薬剤の選択を少し変えていったほうがよいのではないかという考え方が出てきました。たとえば若い人や前期高齢者ぐらいまでは、心血管系の病気のリスクを減らすために体重を減らすことに意味があります。ただ75歳以上の後期高齢者になったとき、フレイルがある人がGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、高用量のメトホルミンなど体重を減らす作用のある薬剤を使うと、体重と共に筋肉も減ってしまう可能性もあります。その結果として、前よりも動きづらくなり、転倒・骨折をしやすくなり、寝たきりになってしまうことも起こり得ます。こうした体重を減らすような薬剤をフレイルがある人に使用することはかなり注意すべきであると思います。また、そうした薬がはたして一般の後期高齢者に問題ないのかを注意深く見ていかないといけません。
『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』のタイトルは高齢者となっていますが、実はフレイルがある高齢者を対象にして書かれています。後期高齢者でもフレイルがなく、元気な人もいます。そういう人では若い人や前期高齢者と同じ薬の使い方をしてもそれほど問題ありません。ところが、フレイルがある人ではいろいろ副作用が起こりやすく、それが原因で要介護になってしまう危険性もあります。フレイルがある患者ではSU薬による重症低血糖を起こしやすく、その結果、認知症やADL(日常生活動作:activities of daily living)低下をきたしやすくなります。また、α-グルコシダーゼ阻害薬による下痢やメトホルミンによる消化器症状は体重減少につながり、フレイルがさらに悪化する危険性があります。75歳以下でもフレイルの人がいますし、75歳以上でも元気な人がいます。年齢ではなくて、フレイルがあるかどうかが問題なのです。

Q.12 薬剤に対する新しい情報はどのように入手したらよいのでしょうか?

薬剤師さんは添付文書から用量や副作用などの情報を得ることが多いのではないでしょうか。日本の場合、必ずしも添付文書が現在のガイドラインなどで示されている医療を反映しているとは限りません。添付文書に書かれている情報は承認を申請したときのデータがそのまま残っていることが少なくないからです。高齢者では血清クレアチニン値だけで腎機能を評価すると、多くの腎機能が悪い人を見逃すことになります。高齢になり、やせて筋肉が落ちると、腎機能が悪くなっていても血清クレアチニン値は低めに出るからです。今回の日本糖尿病学会のRecommendationでは、メトホルミンを使用する場合は、定期的にeGFRを用いて腎機能を評価し、eGFR30mL/min/1.73m2未満は禁忌という内容が加わりました。FDA(米国食品医薬品局)も昨年同様に変更しました。SGLT2阻害薬も今は発売当時と同じように、高齢者には控えるということになっていますが、将来的には使い方が変わっていく可能性があります。
添付文書は確かに大事ですが、最新情報が反映されていないこともよくあります。一方、各学会が作成するガイドラインは現在の世界のコンセンサスを取り入れようとしているので、最新情報を反映しているものが多いといえます。薬剤師さんの場合、添付文書はいつも身近にあるでしょうが、ガイドラインまではなかなか見ていないかもしれません。できれば、ガイドラインにも目を通しておくことをお勧めします。
薬というものは時代によって使う量も使い方もまるっきり変わってしまうことがあります。糖尿病薬に関しても、10年前と薬の使い方はまるで違っています。DPP-4阻害薬が出る前は、SU薬も高用量で使用し、グリベンクラミド7.5mgなどで治療をしていました。それで重症低血糖がよく起きていました。当時は、血糖は下げれば下げるほど合併症が防げると考えられていた時代で、今のように重症低血糖だとかえって死亡が増える、心血管障害が増える、認知症が増えるなどということは専門医でも夢にも思っていませんでした。現在でもフレイルを考慮した高齢者医療が行われないと薬の副作用による重症低血糖や有害作用による要介護や死亡は起こり得ます。高齢者医療に関する最新の情報を得る努力が必要です。高齢者やフレイルの人への薬物療法が異なるという問題も、これから啓発していく必要があります。

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